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【ベンツのエンブレム折ってみた。】三、


最初のマス、とりあえずサイコロを振ってみた。

赤マル。いち。
止まったマスには、『職業研究をしよう!一回休み』
まぁまぁ、研究は確かに大事ですよねぇ。とりあえずパソコンとにらめっこして、それからたくさん調べたと思う。ほんとうにたくさん。けれど何一つしっくりこなかった。それも当然、私にはやりたい事がなかったから。あっという間に行き詰まった。友人に相談すると皆、「分かる分かる、私もだよ。やりたい事なんてないもん。ほんと、でも手に職つけなきゃだからさ。とりあえずだよ、とりあえず」と言う。その『とりあえず』が私には出来ないんだよなぁ、と心の中で思いつつ「だよねぇ」とか言っといた。かといって自分でもこのままではいけないなぁと思っていた。世の中には不満ばかりだが、働かなければ好きなことも出来ない、という事実を知っていた。

 ここでまたサイコロを振ってみる。
ころん。さん。コマを進めた。
『自分を変えるチャンス!どこかの企業に応募してみよう!』
内心、うわぁ…と思った。だがそのマスに止まったからにはやらねば。やりたい事がないなら安定した収入の得られる会社に行くべきだと思い、そこそこ名の知れた会社へエントリーをし、テストなど受けた。タスククリア。

 またサイコロを振る。
ろく。6。六が出た!
『おめでとう!一次面接に進んだ。スーツに着替えて面接を受けよう!』
まさか進めると思ってもいなかったので正直びっくりしたし、嬉しかった。その会社でめちゃくちゃ働きたい!という訳では無かったがいっちょまえにイメージトレーニングをしたり、面接ウケする髪型やメイクを調べたりして面接に望んだ。だが、いざやってみると、面白いほどに何も話せなかった。初めてだとか、ド緊張しただとか、そんなことよりも私が気づいてしまったのは、「あぁ、やりたくもないのだから話せるわけが無い」というシンプルな答えだった。結果はもちろんダメだった。そこからはもう吹っ切れてしまって、もうこんなのは辞めようとおもって、何も出来なくなった。

 そうだ、サイコロを振らなきゃ。ころ。
嫌な予感は既にしていた。
赤い。赤いマル。
コマを進める。
『忘れ物をしてしまった!ふりだしに戻る』
ため息は出なかった。ひとつずつ戻っていく。

10マス。

私が進めたのは、たったそれだけだった。


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