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世界一周2日目+4〜10日目log

2日目と3日目の記録が前後したのは、スネークファームについての情報をとにかく早く記録に残さなければと思ったからだ。

今日は10日目。5日目からは個室のホステルに宿泊している。一泊3000円くらい。ドミトリーと比べると少し出費が痛いが、観光も外食もなしにドミトリーに引き篭り続けるのは、さすがにストレスでおかしくなってしまう。

タイ入国3日目に、バンコクのスネークファームでワクチンを打った後、私はしばらく近くのホステルに引き篭もることにした。理由は簡単だ。狂犬病ワクチンの2回目接種がまだ済んでいないから。
狂犬病は恐ろしい病だ。発症するとほぼ100%の確率で死亡するという。バンコク市街地には野犬や狂犬病にかかるような野生動物はおらず、危険性はあまりないというが、2日目の日、私は野犬を見た。



入国2日目、私はホテルの空港送迎サービスを利用した。前夜にも見たが、スワンナプーム空港は、地元の空港と比べるのもおこがましいほど遥かに巨大で整っている。途上国のイメージは全くないほど洗練されていた。私は空港でeSIMの手続きを済ませた後、予約したホステルへ向かうため、電車に乗った。

乗り換えるために途中で降りた駅もまた新しくできたばかりのようで、清潔感があり涼しかった。乗り換え用の通路も整備されていたようだが、私はGoogleマップの忠実な僕なので、人の波に逆らい、階段を降りて駅舎を出た。

乗り換え駅


一歩外へ出るとそこは別世界だった。むわっとした暑さが降りかかり、すえた臭いが鼻腔をつく。真夏に生ゴミを捨て忘れて数日家を開けた時のことを思い出した。

クラクションがけたたましく鳴り響く、人通りのない道。

高架橋の日陰には、薄汚れた服を着た骨の浮き出た人が、背を向けて横になっており、そのすぐ側には大きな白い野犬が丸くなって寝ていた。美しい毛並みだ。しかしどちらも微動だにしなかった。
これがスマートフォンで見る静止画なら、私は何も思わなかっただろう。

立ち止まり、Googleマップを確認するふりをして私は横目で彼らを眺めた。隣の大きな道路を、バイクや車が何事もないように素通りしていく。
汗が落ちた。憐れみのためではない。ただ、現実として受け止める時間がほんの少し必要だった。

日本にもホームレスはいる。特に東京ではよく見かけたし、どこにだって社会の枠から溢れた人はいるものだ。野犬を街中で見かけたことはないが……。

置物のように美しい、大きな白い野犬。
すぐ側に横たわる痩せこけた人。
腐ったような臭い。
鳴り響くクラクション。
真夏の日差し。3月中旬。

犬の黒い鼻がヒクついたのを見て、我に返った。

目的の場所へ行かなければ。今の私は旅というシステムの中にいる。観光して宿泊することが私の本日のタスク。そして翌日はスネークファームで狂犬病のワクチンを打つタスクがある。


タスク?そんなに固い考えでいいのかな。ふと疑問が湧いた。
今回の旅の目的は、幼少期からの夢を実現すること。つまり、過去の自分を労うこと。ということで、胸の内で未だに燻る10代の頃の自分を納得させてみる。

あの頃の私は、とにかく人工的なものが嫌いだった。極端な考えだが、人があれこれ作るから世界が淀むのだと思っていた。自然のあるがままの姿が好きだった。

でも、自然のなかにもシステムはあるでしょう。植物は光合成するし、動物も食べれば排泄する、生物の中には備えられたシステムがたくさんあるはず。
生物は最適なシステムを身につける術を持っている。生存に適した生態になるよう自らを変化させていく力がある。

学生の頃の私は、学校、ひいては国から強いられたシステムに反発していたのだと思う。(境遇は割愛するが。)けれども、社会に出て自立したとき。社会には多くの人々がいて、共に生きるためのシステムがあることに気付いたとき。その恩恵を受けたと感じたとき。

悪くないじゃん、と思えた。

もちろんこれは運が良かっただけのこと。不幸にして今の社会が合わない人もいる。生き抜きたいならシステムを変えるよう働きかけるか、自らを何らかの方法で変化させる必要があると思う。自力が難しければ、周囲の力を借りるなりなんなり。

話が逸れたが、とりあえず私は、人間が作るものも悪くないじゃん、と思ったわけだ。結果、世の中にあふれたライフハックの中から最適なものを選び取ることにした。

その中で私は「タスク」の考え方が気に入った。自分のやるべきことをタスクとして整理していく。タスクを1つでもこなせば自信になる。自信は自らを守る力になる。自分を守ることは生物として自然な、最も本能的なことだ。
どれが最適かは、やってみないとわからない。合わなければ変えるだけのこと。

旅は自由で良い。けれども、旅という自由の中に作った、小さなタスク。
このシステムが、異なる社会で揺さぶられる今の私を守るのだ。

クラクションが鳴り響く交差点

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