見出し画像

世界一周出発日log

これを書いている今、私はバンコクのホステルのラウンジにいる。
部屋は2段ベッド式のドミトリーだ。カーテンで作った仕切りの中に閉じこもり、クタクタの体を投げ出してしまいたいが、そうも行かないくらいに体が臭う。噂には聞いていたがタイは暑い。汗がダラダラだ。シャワーを浴びたいが、残念なことに清掃中。ということで、シャワールームの清掃が終わるまで疲れた身体に鞭打ってこの文章を打っている。

*

私には困った習性がある。やりたい事について調べ始めると、脳のパンク寸前まで情報を集め、そしてそもそものやる気をなくすというものだ。
30年近く生きてきて見つけたこの問題への対応策は、把握に留める、ということ。シンプルに、調べ過ぎないように気をつける。大体のあらすじが分かればよし。あとは成るようになる。
海外旅行初心者なのに、私はこのポリシーのまま大海原へと突入した。
結果、トランジットとトランスファーを勘違いして酷い目にあった。

すでに皆さんご存じかもしれないが、念のため以下のサイトから説明文を引用。

https://www.saisoncard.co.jp/credictionary/bussinesscard/article301.html

トランジットでは途中で着陸して補給を行ったあと、再度同じ飛行機に乗って目的地に向かうことになります。つまり、飛行機の乗り換えは不要です。

一方で、トランスファーは途中で着陸したあと、別の便に乗り換えて目的地に向かいます。乗り換え先の便によっては、別の飛行機に乗り込むためにターミナルの移動が必要です。また、最初の便と航空会社が異なる場合は、乗り換える便のチケットの発行が必要になるケースもあります。


私が購入したのは、中国東方航空のチケットで、上海空港を経由してタイのスワンナムプーム空港に到着するものだった。乗り換え時間はおよそ2時間半。同じ飛行機に乗り続けるには長い時間だが、トランジットと思い込んでいたし、「トランジット 何する」で検索して「何もするべきことはない」という都合のいいところだけ記憶してしまった。
何なら飛行機を出てすぐ、映画『ターミナル』みたいなところで待たされるのかなとウキウキもしていた。後述するが大間違いだった。

回想しよう。
日本での出国手続きは問題なかった。手荷物は少し重量オーバーしたが見逃してもらえた。そして飛行機では高所恐怖症を発動しながらも、無事、上海空港に着陸。タラップを渡る時は感極まって少し涙ぐんでいたと思う。着陸が怖かったからではない、はず。
搭乗口を出て、さあナボルスキーのいた場所を目指していこうと、案内板を見る。

……ん?どこにも「Transit」の文字がない。「Transfer」か「Arrival」しかない。それなら「Transfer」かな。とりあえず行ってみるか。隣の国だし進めば日本語の案内板くらいあるだろう。(※甘い考え。どこにもない)

おやおや?分かれ道があるぞ。指紋の機械での手続き?なになにどういう事?英語か中国語しかない。知らない単語だぞ?あ、翻訳アプリに言語をダウンロードしておくの忘れた……(※英語に自信がないなら日本出国前に絶対やっておくべき)。

フリーWi-Fiは、ある。助かった。でも使用するにはパスポートの写真が必要?えー、悪用されそうで怖いけど空港で飛んでるなら大丈夫か。えい、送信。繋がった!……遅すぎる。何もできない。そういえばpovoに海外ローミングがあったはず、出費は痛いが購入!買えた、よし……あれ?Wifiもpovo全然繋がらなくなった……(※これは原因がいまだにわからない。なぜなのか)

万事休す。誰かに聞きたいが、グランドスタッフは皆、足早に去っていく。本来ならここで勇気を出して聞くべきだったが、翻訳アプリもなく英語も拙い私には無理だと思ってしまった。ついでに少しパニックにもなっていた。

とにかく一旦、冷静になって考える。分かれ道にスタッフはいない、つまり自分でその機械を使うかどうか選べる。監視されていないということは、そこまで重要性は高くないのだろう。そもそも私は「トランジット」で何もすることはないはずだし。もし必要だったらどこかのゲートでスタッフに止められるだろう。

ということで、指紋の機械をスルーするとその先には観光客による凄まじい人だかりと騒音並みのざわめき。怖気付いていると、耳をつんざく様な低い声が響く。すわ雷かと思えば威圧感のある制服を着た男性スタッフが怒鳴っているではないか。途端に静まり返るフロア。怒鳴られながら整列させられる大量の観光客たち。離れたところで一人すくみ上がる私。

そしてちょっと待ってくれ、私は何もすることはないはずなのに、あの行列に並ぶのか?と思いながらも、日本人しぐさで並ぶ。すると前にいた欧米系の観光客たちが何やら怒鳴っていたスタッフにチケットを見せて別のルートを案内されている。
おお、あれがトランジットのやり方か?助かった!と思い、同じスタッフにチケットを見せてみる。ついでに「トランジット?」と言ってみる。そして通された人たちの背と行列を「どっちに行けばいい?」と言うように指差す。いや、もしかしたら「トランスファー?」と言ったかもしれない。何度も言うが私はパニックになっていた。
スタッフは怖い顔で私の手からチケットをもぎ取り、そして一瞥したあと無言で返して無言のままゲートのロープを閉じた。怖い。でも彼らと同じようには通れないらしい。縮こまって私は静かに列に並んだ。

その後は乗り換え時間に間に合うか、ひょっとしてこのまま中国に入国してしまうのか、はたまた指紋の機械を使わなかったことを責められて強制送還か……とびくびくしながら、あとはスタッフに誘導されるがままに進んでいった。何かの機械でパスポートを読み取られ、謎の赤い液体が入った試験管を渡され、何これ?となっていたら「あっちへ行け」と指さされ、口を開けて検体を取られ……そして、何とかなった。今私は微笑みの国、タイにいる。

とてもひどい目に遭ったと思ったが、今冷静に振り返ってみるとそこまで大したことはなかったか。怒鳴るスタッフが怖かったくらいだ。パニック状態だったのも影響しているだろう。
不測の事態の時こそリラックスが必要だと学んだ。慌てるのは本当によくない。それから、甘い考えは捨て、不測の事態に備えて、わからないことは入念に調べておくこと。

そして先程知ったのだが、今回利用した中国東方航空はなかなかリスキーな航空会社らしい。大幅遅延で乗り換えに失敗したやら、搭乗口が勝手に変わっていて乗れなかったやらの書き込みがあった。もし今回のフライトがそうなっていたら…と思うとゾッとする。この程度で済んでよかった。

いや、それにしても大変ドキドキさせられた往路であった。
正直に言うと、もはやタイの清潔なホステルでのんびりした時間を過ごすだけでは物足りなくなっている。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?