なんでもない一日
目が覚めたら14時だった。覚えきれないくらいたくさん夢を見た。寝違えた首が痛かった。そういえば今日は課題をしようと思っていたんだった。
確か夢に元恋人が出てきた。覚えていたかったのにどんな夢だったか忘れてしまった。何故か元恋人がよく聴いていた曲を思い出して口ずさんだ。それは確かWurtSだった。曲名も歌詞も思い出せなかった。生活が元恋人に蝕まれている。
早く日常に戻りたい。君と出会う前に戻りたい。君がいない夜は何してたんだっけな。
無性に袋麺が食べたくなって、食べたけど半分くらい戻してしまった。一昨日、君に言われた無神経な言葉を思い出して悲しくなった。食べ物を食べて戻すことの何が羨ましいんだ。このまま病気になっちゃったらどうするんだ。君がお見舞いにきてくれるんなら入院してもいいかも、とか、ありえないこと考えて、バカみたいだね、ほんと。
わたしがガリガリになったら心配してくれる?君のことだからまた羨ましいって言うのかな。
タバコが吸いたくて洗濯物を急いで取り込んだ。乾いてるとか乾いてないとか、どうでもよかった。どうせこの暑さだ、乾いていないわけがない。一本じゃ吸い足りなくて二本吸った。昔、チェーンスモークして知らないお姉さんに怒られたのを思い出した。君の家で吸い足りないからもう一本吸うって言ったらよく、えーって言われた。それがなんだか嬉しくて、いつも一本でやめていた。タバコの匂いで思い出すのはハタチの頃好きだったあの人ではなくて、いつのまにか君に変わっていた。こうやって、君のことも忘れていくんだろうか。
美容院を予約した。君が褒めてくれた髪型は、もうすっかり伸びてうんざりする長さになっていた。髪を切るみたいに君のこともバッサリ切り捨てたい。もう君がいなくても平気だよと言って、笑顔でさようならがしたい。恋人でも友でもない二人からの卒業。いつかそんな日がくるのが本当はこわい。
二人並んで乗ったメトロはどこまでも行ける気がしていた。谷町線は冷房がきつかった。電車の音がうるさくて、話す二人の距離は自然と近くなった。君を見つめるわたしが窓ガラスに映って、バレてるよって君が笑った。行きの電車でくっつくと怒るくせに、帰りの電車では許してくれた。前に座る女の子たちがこちらを見て怪訝な顔をしたって平気だった。君だけが世界だったんだよ。
キリン堂に行こうと思って着替えたら、服から元恋人の家の匂いがしてクラクラした。持って帰ってきてからもう一度洗い直せばよかったのに、それもこわくてできなかった。匂いがすると悲しくなって泣いてしまうのに、匂いがしなくなっても悲しくなって泣いてしまうなんて本当にバカみたいだ。
夕飯を作る母親に、復縁したいって話したら笑われた。わたしだって復縁反対派だった。でも、君のいない未来なんていらないと思ってしまった。
「もしもあなたが嫌じゃなきゃ、もう一度」
そう言うと笑ってた。ねぇまさか、また夢だ。
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