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Cabaret LPT vol.17 : Chapter 2|Post War / Estee Lauder Empire 4

10 White Linen (1978) アメリカの正義を可視化した香り、白い麻というよりはアルミ箔を嚙んだような金属反応

1970年代は、エスティローダーにとってライバルだった、ひと世代上のエリザベス・アーデン(1966年歿)、ヘレナ・ルビンスタイン(1965年歿)、チャールズ・レブソン(レブロン創業者、1975年歿)、が前後10年間で3人とも亡くなって、もはやアメリカには敵なし状態になったローダー夫人が、プライベートコレクションで一気にプレステージ感を高め、70歳になって世界に勝負に出たのがホワイトリネンです。
ホワイトリネンはアメリカを代表する世界的調香師、ソフィア・グロスマンのデビュー作ですが、グロスマンはIFFに入社して、エルネスト・シフタンの弟子として、練習課題として①ジョイの模倣品を予算半分で作ったり、出来上がったら、②シフタンが作った、カプリッチ(1961、ニナリッチ)風フローラルアルデヒド系のアコードをブレンドして新作を作る、という練習をしていたんですが、ブレンドの習作が、ブルガリアンローズがキーノートで結構いい出来だった。それを、ローズが大好きなローダー夫人が超気に入って、売り物じゃないといっているのに、次の新作にするんだ!決めた!といって、トップダウンで決まっちゃったんですよ。当時プライベートコレクションの発売直後で、香料会社としては、あれだけうちの調香師を極限まで追い込んで、またかよ!とはいうものの、仕事なので、受けたシフタンがグロスマンを助手に、製品化に向けて修正にかかったんですが、途中でシフタンが1976年に亡くなってしまうんですね。それで、亡き師匠の遺志を継いで、グロスマンが延々と調整を続けたんですが、最終的にゴーサインが出たのが、ほぼシフタンが最初に作った習作の香りだったんですよ。

ホワイトリネン EDP 60ml 現行品 世界的ヒット作で日本にもファンが多く、国内終売するも
広く並行輸入で正規品が手に入る、現在も定番の香り。ドジョウも多数誕生した

エルネスト・シフタンという調香師は、もちろん自身の作品ではデッチマとか、ルドジバンシィとか、ヒット作はあるんですが、社会現象級のものはなくて、要はいつもコンペに落ちちゃうんですよ。みんな、シフタン先生の実力は知っているし、IFFの若手はみんなシフタンに育ててもらって、先生主導で作ったのに、ちゃんと若手と共同調香ですって名前を出してくれる、若手をどんどん香水会社へ売り込んでくれる、功名心とか無縁の人だったので、弟子としては悔しかった。だから、グロスマンとしては、決定処方がシフタン流だったのが、とても嬉しかったそうです。いい話じゃないですか。
香りとしては、こめかみにキーンと来るような、かったいフローラルアルデヒドで、いくらアルデヒドものでも、ここまで硬いのは、フランスでは出てこない。これは、アメリカという正義の主張です。ホワイトリネン、白い麻というよりはアルミ箔を嚙んだような金属反応を感じます。1970年代中盤からのローダー作品には、完全無敵感がものすごく強くなって、私は、何も間違っていない!という圧が出てきます。1950年代にアメリカ女性の意識改革を行い、60年代に海外進出、70年代は世界征服で、力づくで世界にアメリカ香水の実力を認めさせたのがホワイトリネンです。
バナーは、カレン・グレアムの次の次に、1988年から1994年までエスティーローダーのミューズを務めたチェコ人モデル、ポーリーナ・ポリツコヴァが登場する1988年のホワイトリネン広告です。美しすぎますね。

11 Knowing (1988)女の広い背中が香る。本当にケルレオ師、の作品なのか?10年前の自分に問う 違った!!エリー・ロジャー(2010歿)でした

実は、ノウイングは10年前にブログで紹介しているんですが、当時検索すると、調香はジャン・パトゥの専属調香師だったジャン・ケルレオと出てくる事が多かったので、ブログでもケルレオ作だとお伝えしましたが、今回アメリカン・レジェンドやマイケル・エドワーズ財団の資料で正しく分かったのは、エリー・ロジャーの作品でした。ここに訂正させていただきます。対外的には、このノウイングと、クリニークのラッピングしか香水名としては知られていない方ですが、アメリカ香水協会で永年功労賞(ライフタイム・アチーブメント)も受賞している立派な方で、エルネスト・シフタン以上に裏方に徹し、後続を育てた名職人です。

ノウイング EDP 75ml ハウスオブエスティローダー扱い、現行品

1980年代になると、ローダー夫人から長男の嫁のイヴリン・ローダーが香水のディレクションを行います。ノウイングは、70年代後半から80年代後半に登場してほぼ全滅した、成熟した大人の女性の香り、見返り美人系大柄シプレのジャンルで、十分市場が温まってから登場した後発作です。ジバンシィのイザティス(1984)とか、ニッチ系だとディヴィーヌのディヴィーヌ(1986)とかも同じジャンルです。今、こういう香りが似合う女性も時代的にいないから、ジャンル的に自然消滅したんですが、ノウイングは生き残りました。これがフランスものだと、知的でクールなのに、アダルトでどこかエッチ、とエッチまで行くんですが、ノウイングはアメリカンプライドなので、アダルトで寸止めで、そこかわりここでも「正義の主張」が出てきます。妥協のない、端正なよい香りですが、圧が強い。ローズがメインでジャスミンとかチュベローズとかピン芸人級の花香料を、オークモスがぎゅっと束ねて、アーシーなベチバーやパチュリと、ウッディで地面に引き寄せている感じですが、ミドル以降は馴染んで結構肩の力が抜けてくるので、そこはホワイトリネンよりやさしさがあります。

【補足】見返り美人系大柄シプレ代表作のレビューをどうぞ。


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