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Cabaret LPT vol.17 : Chapter 2|Post War / Estee Lauder Empire 5

それでは、エスティローダーに続いて、傘下ブランドのクリニークから重要作品をふたつご紹介します。


12 Aromatics Elixir (1971) / Clinique アロマティックな万能薬 

クリニーク。皮膚科専門医ノーマン・オラントレック博士とヴォーグ編集者キャロル・フィリップスが作った無香料・低刺激性のシンプルスキンケアで、1968年にエスティローダーの別ラインとして、嫁のイヴリン・ローダーが任されたブランドです。日本にも1970年代に上陸して一大ブームとなりました。日本でもどこのデパートにもはいっていて、私も若いころ一通り使ってみましたが、洗顔石鹸、ふき取り化粧水、乳液の3ステップなんですが、私にはどれもきつくて、石鹼で顔の脂が全部抜けて、アルコールのきいたふき取り化粧水で根こそぎ角質がとれて、最後の乳液がめちゃくちゃしみる、これが低刺激性だとしたら、アメリカ女性の肌はゴムのように強いんだろうか、と本気で思いました。クリニークのスキンケアやメイクアップラインはすべて無香料なので、ブランドイメージを壊さない、でもブランドを引き立てる香りとしたら、アロマティック路線、しかも当時はヒッピー全盛で、葉っぱでキメてる人が多く、ヒッピー文化といえばパチュリ、ヘッドショップという葉っぱ屋で売ってるアロマオイルで自然回帰、その辺も取り入れながら、心も体も整うアロマティクス・エリクシール、アロマの万能薬という、かなり時代を反映した名前の香水が登場しました。

アロマティクス・エリクシール パフュームスプレー 100ml 現行品

一言でいうと「パチュリとへディオンのがぶりより」。芳醇なフルーティシプレで、パチュリとカモミールの鎮静効果に、フレッシュでフルーティなへディオン、やっぱりモッシーノートでもたった落ち着きを出しています。アロマティクス・エリクシールはエスティローダーのほうで出たアズレーやアリアージ、プライベートコレクションと発売時期が近くて、この4作は1969年から1973年の4年間に出ているので大なり小なり親戚感はあります。当時としてはさわやか系だったはずですが、今だとかなりヘヴィに感じるし、アロマという言葉から想像するとドン引きだと思いますけど、ミドル以降はとても柔らかくなって長く長く香るので、ムエットじゃ良さが全然わかんないのが残念です。

はい、それでは次でエスティローダー帝国は最後になります。

13 Calyx (1986) / Prescriptive - Clinique 植物の萼(がく)

ケーレックスは、ローダー夫人の次男で政界に進出し、現在は世界ユダヤ会議の会長を務めるロナルド・ローダーと、のちに高級自然派化粧品ブランド、シャンティカイユ*を立ち上げる、シルヴィ・シャンティカイユが1979年に始めた、エスティローダーの別ブランド、プリスクリプティヴが出した最初の香水です。プリスクリプティヴといえば、日本でも1990年代に上陸して、肌色に合わせたカスタムブレンドのファンデーションで有名で、今でいうイエベ、ブルベのはしりとなったブランドです。既製品のファンデーションもすごい色数で、必ず合う色がある、アメリカ的人種のるつぼファンデーションだったんですが、アメリカでは1980年代から90年代が人気のピークで、ケーレックスはブランドの人気絶頂期に出たんですが、21世紀に入って売上が落ちて、立ち上げから30年後の2009年にブランド終了し、日本でも2005年に撤退しますが、このケーレックスがとにかく人気で、ファンデーションはいいからケーレックスだけはなくさないでほしいという声が後を絶たず、クリニークに吸収して現在も継続販売しています。バナー画像は、1986年発売当時のケーレックスの広告です。

ケーレックス EDP 50ml クリニーク現行品

調香は、この時すでにヒットが連発して時代の寵児となっていたソフィア・グロスマンで、世界で社会現象になる香水はたいがいグロスマンが手掛けていたんじゃないかって時代で、サンローランのパリ、エスティローダーのビューティフル、カルバンクラインのエタニティ、ランコムのトレゾァ、当時の日本人なら、ひとつも知らないという人はいないと思います。
香りとしては、当時すごく斬新だったトロピカルフルーツの香りで、一言で言って、超グアバ。スーパーグアバです。グレープフルーツやパッションフルーツもいて、体の熱を奪う酸っぱい奴らが大集合しています。当時20代前半でしたが、出始めの時かなりびっくりしたんですよ。店頭でひと嗅ぎぼれして即決購入、リピートもしました。フルーティノートというジャンルを軽く超越していて、かなり致命的な王手をいきなり取った感じで、ここまでトロピカルフルーツに振り切れた香りも他に出てきてない気がします。今またつけたいか?といえば、全然そうは思わないですが、新し物好きの若い女性だった当時の自分にはマッチしました。

*シャンティカイユ:日本上陸していたのも、すでに撤退していたのも知らなかったブランドですが、自分が行ったことのある外国のデパートには、必ずドカーンと幅を利かせているという印象があり、まさか自然派感ゼロのプリスクリプティヴのディレクターだったとは思いませんでした。シャンティカイユのロゴ(上)が、やたら文字間隔が開いているのも妙に気になって記憶に残っていました。これもAmerican Legendsで知った事実です。英語OKで大型本が苦にならないから、私のブログを読むよりよっぽど泡を吹くほど面白いので、一読を強くお勧めします。

次は、チャプター3、ドラッグストアクラシックをご紹介します。


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