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Cabaret LPT vol.17 : Chapter 2|Post War / Estee Lauder Empire 2

6 Estée (1968) 目の前が真っ白なマットフローラル 本人の名前

ユースデューで勢いに乗り、1960年には初の海外拠点として英ロンドンのハロッズに出店したエスティーローダー。ユースデューから空く事15年、エスティーローダーが日本上陸した1968年に香水第2弾として登場したのが、セルフタイトルをつけたエスティです。なぜかお尻に「スーパー」とついていて、エスティ・スーパーとか、エスティ、スーパーオードパルファムと呼ばれていますが、どこがスーパーなのかというと「持続性」?
調香はIFFのベティ・ブッスとエルネスト・シフタンの共作で、ベティ・ブッスはアメリカで大ヒットした、カール・ラガーフェルドのクロエ(1975)や、ニナ・リッチのオードフルール(1974)やフルールドフルール(1982)を手掛けた女性調香師です。当時としては革新的な、ラズベリーをメインに持ってきたホワイトフローラル・アルデヒドで、香りを色で感じる共感覚のあるエスティは、キラキラ輝くシャンデリアやシャンパンのような香りを作りたくて、ディレクションに15年かかったそうですが、エスティスーパーを初めて試したとき、あまりに不透明な、硬い石膏のブロックみたいで、クラシック香水ファンの私でも、これは肌に乗せられない…と恐れおののきました。ラズベリーもどこにいるのかわからない。でも案外何度もつけていると鼻が慣れて、言わんとするシュワシュワ感を疑似体験するから不思議です。

エスティ スーパーEDP 60ml 2016年にハウスオブエスティローダー集約される前のボトル
エスティ スーパー EDP 50ml  現行品

7 Azurée (1969) ドライなシトラスウッディシプレ 地中海の海の色

ユースデューとエスティスーパーが大なり小なり戦前の流行を引きずっているとしたら、エスティスーパーの翌年に出たアズレーからは、当時最旬の香りにシフトしていきます。
調香は、カボシャールを始め、アラミス、60年代後半のエスティローダー/アラミス、ラルフローレンなどアメリカン・プライドを多く手掛けたベルナール・シャンと、オリジナル版クロエ(1975)、ニナ・リッチのオードフルール/フルールドフルールなどでLPTでも頻出の女性調香師ベティ・ブッスの共同調香で、香りとしては、ビターグリーンとなんやらもわっ!とくる立ち上がりに、最初からパチュリ!コケ!ベチバー!ついでにヨモギ!!みたいな深緑なシプレベースが顔を出しつつ、アンバーとレザーとジャスミン、ローズ、アイリスなどの王道フローラルが重なるものの、甘さやフローラルな印象はほとんどなく、アイリスとパチュリで粉物感もあり、穏やかで野太い、ドライなシトラスウッディシプレに仕上がっています。
アズレーのキャッチフレーズは「地中海の日差しをのんびりと浴びながら金色に輝く少女のように、生粋の楽天家な彼女は、どこへいっても明るい太陽」ですが、この香りで全方向の太陽は2025年の今では全く浮かばないので、世代間ギャップだと思いますが、同じ時期、フランスでは多少系統がかぶるシトラスシプレ系が出つつあって、アズレーと同じ1969年にはランコムがオードランコムを発売しますが、アズレーの方が地響き3倍、持続5倍の破壊力です。

アズレー EDP 50ml 現行品
2019年掲載の過去記事もどうぞ ↓(LPT Sengu 2019収録予定)

8 Aliage (1972) ダウナースポーツ系グリーンシプレ 合金

アズレーの3年後に出たアリアージです。エスティローダー的には、世界初のスポーツフレグランスと称していますが、メンズですが1960年代にジャン・パトゥがラコステでオード・スポールを発売していますので、初めてではないですが、スポーツフレグランスブームはメンズものの十八番なので、レディスで、と言ったら世界初だと言えるのかもしれないです。90年代から台頭してきた薄くて軽くてきついスポーツフレグランス、大嫌いでした
アリアージは前時代のスポーツフレグランスなので、今思い浮かべる物とは全く違います。アズレーにもっと渋い、ガルバナム、ヨモギといった、日本でいったら菊の葉っぱみたいな渋い草の汁をブレンドしたような、汗に混じっても酸敗しない、ダウナー系の重いグリーンシプレで、酸っぱい汗をたらふくかいても、草の汁が分解してくれるような青汁効果が特徴です。調香は、フランソワ・カマイユとベルナール・シャンの共同調香で、フランソワ・カマイユは1980年にアニック・グタールとオーダドリアンを作った人、アニック・グタールがオーダドリアンを作ってもらった人と言った方がいいかな。アズレーよりは香り持ちが短いので、スポーツの汗で流れてもしつこく残らないよう調整しているんだと思います。
今ご紹介した、エスティ、アズレー、アリアージはエスティローダーのアーカイブシリーズ、ハウスオブエスティローダーに集約されて、現行販売中です。価格もEDP50mlでUS$75~(2025年2月現在、アメリカEL公式オンラインストア)と非常に現実的な価格で、かつて「誰でも手の届く価格の商品を」と、ユースデューのバスオイルを発売し、全米が感動した「アメリカの良心」をここにも感じます。

アリアージ EDP 50ml 現行品
2016年に過去のアーカイヴ(=ピンでは維持できない数々)を集約した、ハウスオブエスティローダー初出8作(2016年広告)。若干2軍のはきだめ感があるラインナップで、ここにもいられなくなると敗者復活戦はないのか、すでにイントゥイション(2000)、ビヨンドパラダイス(2003)は廃番。
近作のほうが寿命が短いのは、その当時から自社ブランドでヒットが出せなくなってきた証か。
なおノウイング(1988)はオリジナルボトルだがカテゴリーはハウスオブエスティローダー扱い

ローダーのクラシックは、シプレ系が充実していて、現行品でもしっかり天然オークモスを使用しているところが特徴的で、まあ、成分表見て「お、オークモスが入っている!わ~」となるのは今やマニアだけですが、とかく何にでもモッシーノートを入れるから、どことなくキレが悪い。もんやりする。これは良し悪しではなくて、個性ですし、独特の脂っぽいもたり感は何事もキリキリしない穏やかな女性像の演出だと思いますが、ここを覆す事件が昨年起こりました。キャバレーの最後にご紹介します。

次は、エスティーローダー最高傑作の誉れ高い、プライベートコレクションをご紹介します。

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