見出し画像

LPIXELの過去・現在・未来:過去編

こんにちは、LPIXEL ファウンダーの島原です。
この度LPIXELでは、皆様への情報発信の場として、LPIXEL noteを始めることになりました。様々なメンバーから有用な情報を発信する予定ですので、ぜひご覧いただけましたら幸いです。

まずはファウンダーの立場から、LPIXELの「過去・現在・未来」について3回に分けてお話しします。

島原佑基(しまはら・ゆうき) エルピクセル株式会社 ファウンダー
東京大学 新領域創成科学研究科 博士課程修了(生命科学)
大学の研究テーマは生物画像解析・細胞生理学・合成生物学。大学院修了後、グリー株式会社、その他IT企業に勤務。2014年に研究室のメンバー3人でエルピクセル株式会社を創業。「生命を追及し、新しい価値を創造する。」というミッションの元、医療・創薬分野の画像解析AI事業に注力している。Forbes誌が選ぶ、30 Under 30 Asia(2017)にて”Healthcare&Science部門”のTopにも選ばれる。4つの大学で非常勤講師も務め、医療AI教育にも取り組んでいる。日本画像医療システム工業会の常任理事、厚生労働省の研究班の委員も務めるなど、医療AIの普及のために、行政への活動も積極的に行う。

LPIXELを紹介する枕詞はいくつかあります。

  1. 医療AIの会社

  2. 創薬AIの会社

  3. ライフサイエンス領域における画像解析の会社

  4. 大学発スタートアップ

「医療AIの会社」と「創薬AIの会社」には別会社に受け取られかねないほどの違いがありますし、「ライフサイエンス領域における画像解析の会社」というと、多くの人にとってイメージが及ばなかったりします。万人に共通する「LPIXELとは〇〇である」の、〇〇を探して10年が経ちますが、大変恥ずかしいことにそれが見つからないでいます。実際のところ、伝える相手ごとに、どう思ってもらいたいかを考えながら枕詞を選んでいます。
本noteでは、皆様にLPIXELという会社を枕詞に頼らず理解していただき、あわよくば枕詞のヒントを皆さんから感想という形式でいただきたいとも思っています。また、これを発端に続く他のメンバーの投稿を通じて、〇〇が見つかることも期待しています。


LPIXELのはじまり

研究室メンバー3名からのスタート

LPIXELは大学の研究室のメンバー3名で立ち上げた、いわゆる大学発のスタートアップです。研究室では、細胞などを培養し、それらを実験により処理し、顕微鏡を通じて画像データとして取得し、最終的にそれらを定量的に解析したり、機械学習を用いて分類していました。これらの技術により、さまざまな生命機構を、特に細胞生理学的な観点で明らかにすることに取り組んでいました。この過程の前半部分はいわゆる生物学の技術で、後半は特に情報学の技術です。

この生物学、情報学の仕事を一貫して行えることが研究室としてはユニークで、「生物画像解析」という学際的な学問分野を牽引していた研究室でした。そのユニークな技術を持っていたことと、この20年足らずの撮像機器の進化によりデータが膨大化して解析ニーズが増えたことで、多くの共同研究を抱える研究室でした。私の師匠でもある朽名夏麿(当時助教)が関わっていた進行中の共同研究の数を数えたら、40件ほどありました。当然、そんなにも多くのプロジェクトを10名もいない小さな研究室で全て推進することは当然できずにいました。その中でも優先度を高くして問題解決しても、依頼元の論文には共著者にされず、いわゆる下請け的に扱われていることもありました。当時はまだ、ソフトウェアはハードウェアのおまけという考えが強く、創造性の高い仕事だという認識も少なかったためです。

この分野で解析ソフトウェアを開発するためには、観察対象を生物学的に理解し、画像取得を前提とした実験デザインを考案し、撮像装置の選定、撮像条件の設定、適切な画像処理・解析をするなど、幅広い知見とスキルが必要です。それが理解されないのは非常に残念でしたが、いわゆる生物学者は撮像装置やデータ解析について十分な教育を受けていない場合が多く、それゆえに仕方がないと思わざるを得ませんでした。極端な話、ソフトウェアについて全く理解しなくても生物学を極めることが可能な分野も存在し、他の理系科目である物理・化学と比べてもその傾向は強いです。

一方で、生物学は他の学問と比較しても膨大で複雑な情報が本来背景にある学問です。例えばヒトのDNAは1細胞あたり約30億塩基対、遺伝子の数は約3万個であり、10万種以上のタンパク質が体内に存在し、複雑な相互作用により細胞小器官、細胞、組織を構成しています。これらの膨大な情報量を扱うライフサイエンスの分野は、高度な情報技術なくしてはここまで発展しなかったとも言えます。しかし、近年のDNAシーケンサーや撮像装置機器等の発展に伴い多くの情報を扱えるようになり、急激にライフサイエンス領域に情報学的アプローチの重要性が増してきました。

私はこれらを背景に生命を探求し、いつかエンジニアリングすることが21世紀最大のイノベーションであると確信していました。まずはこの分野で困っている身近な研究者を助けたいと思い、朽名と博士研究員であった先輩の湖城と共に起業することとなりました。

起業前のミーティングの様子

STAP細胞問題

まずはライフサイエンス領域で画像解析に困っている研究者を助けようと思い、共同研究・ソフトウェアの受託開発を事業としてスタートしました。当時のミッションは「研究の世界に革新とワクワクを」です。顕微鏡の進化により画像が大量に取得されるようになりましたが、膨大な手作業が必要なために解析しきれないでいた状況をソフトウェアにより解決しようという思いでした。

2014年を迎え、起業の準備に追われる中、STAP細胞問題が一般社会でも大きな注目を浴びていました。起業の準備でニュースのチェックも疎かになっていましたが、このニュースはあらゆる媒体で毎日のように耳目にふれてきました。このような問題自体は常態化しており、2023年になって現在もなお、米スタンフォード大学の学長が研究論文の不正により辞任したり、国内でも複数の論文に画像の不適切な使用が指摘されています。しかし、なぜかこのSTAP細胞問題は大きく報道されました。以前から定性的に評価されることが多いライフサイエンス領域の研究に問題意識を持っていたことと、「細胞」「画像処理」という我々の事業領域で困っている研究者を救いたいという問題意識が重なり、なんとも言えない使命感が芽生えていました。そこで、不自然な画像の加工を可視化するソフトウェアを1ヶ月足らずで開発し、web上で無料で公開するに至りました。そのサービスは大きな反響を呼び、インストール型の製品化の要望が寄せられ、創業後半年でそれを製品化するに至っています。

その後も画像の剽窃(転用)の検出機能を追加したり、画像処理のリテラシーを高めるための教育コンテンツを作るなどして地道に活動してきました。現在はその技術・製品のライセンスの一部は事業会社に売却しましたが、社会に貢献できたことは貴重な経験となりました。これらの状況もあり、創業時1年目にLPIXELが紹介される枕詞の多くは、「STAP細胞の不正を検出する会社」でした。それがメインではないので複雑な気持ちを持つことが多かったですが、そのイメージは数年は強い状態が続きました。創業2年目の2015年に日経新聞社で取材を受けた記事があり、やはりこの枕詞を連想させる姿でした。

文:島原 佑基

▼現在編に続きます


#画像解析 #AI #ライフサイエンス #プログラム医療機器 #医療