エルピクセルが進める製薬企業との協業と共創
こんにちは、エルピクセルでサイエンスビジネス本部の責任者を務めている加藤です。
私たちのグループは、あらゆるパートナーとのコラボレーションをミッションとしていますが、今回は主に製薬企業との協業を通じた、少し先の発展に関するお話しをしてみたいと思います。
エルピクセルのこれまでを簡単に振り返る
生物画像解析技術をビジネスに:「IMACEL」の誕生
まずは、弊社ファウンダーの島原が執筆した初回記事を参照しながら(私も初めて知ることが多かったです)、簡単に振り返らせていただければと思います。
弊社は、東京大学大学院で生物研究を行っていた3名が、「生物画像解析」という技術をベースに創業した企業です。今でこそ、AI画像診断支援技術を中心に色々なマスメディアに取り上げていただいておりますが、祖業としては「ライフサイエンス領域における画像解析事業」であり、2017年に認知拡大のために細胞画像解析を行うことのできるクラウドソフト「IMACEL」(イマセルと読みます)を開発しました。
(ご想像しやすいと思いますが、IMACELというのはImaging Cell(細胞のイメージング)というワードからきています)
製薬企業との協業(研究支援)が大きな柱に
細胞画像解析などのタスクを行うことのできる当時のクラウドソフト「IMACEL」は、パッケージ化された製品であるが故に、なかなか対応の難しい課題も多く、普及の難しいものでした。
一方で、世の中のDXへの追い風や、創業時からいくつかの製薬企業が私たちエルピクセルに着目してくださったことなども、私たちがベンチャー企業として成長していくための収益をあげる大きなポイントとなっていきました。
また、私たちはライフサイエンス / 医療に精通した専門家集団であり、AI技術もさることながら、創薬における様々な課題を同じ目線で共有しディープにディスカッション出来ることも、多くの製薬企業から支持いただける大きな理由でもありました。そこで、私たちは「IMACEL」を「創薬を加速するAI」として再定義しました。
製薬企業が医薬品を世に生み出していくためには、非常に多くの細分化されたタスクがあり、それぞれに多くのコストが投下されます。もう少し詳細に説明すると、創薬標的や候補物質のスクリーニングに始まり、発見された候補物質の有効性や安全性を検証して、ようやく新薬候補物質となります。さらに、治験でヒトに対する有効性と安全性を精査することで、ようやく医薬品となるのです。
これらの研究過程では、画像解析を避けて通ることの出来ないステップが山ほどあります。逆に言えば、画像解析を精緻に素早く行うことが出来れば、創薬が加速するということです。それを担うのが、「創薬を加速するAI:IMACEL」です。
創薬における多くの過程で、膨大な処理を行わなければならないこと(量的な課題)、人の目視に依存することによる解析結果の再現性の低下(質的な課題)など、多くの問題があります。
例えば、遺伝毒性(がん原性)を調べるためには、小核試験を実施しますが、これらの判定(「小核」と呼ばれる核を形成している細胞を顕微鏡下でカウントする)には大変な労力がかかる上に、どうしても観察者が異なると同じ標本でも結果が変わってしまいがちです。この工程に画像解析AIを適用することで、スループット良く、かつ均質性の保たれた結果を得ることが可能になります。
また、こういった従来からの問題だけではなく、創薬の難易度が年々増加しているといわれる今、画像解析AIだからこそ出来るアプローチがあると考えられています。
例えば、生細胞状態での細胞の性状評価です。疾患iPS細胞を用いたスクリーニングなどにおいては、細胞に様々な刺激を与えて分化を誘導したりする必要がありますが、その分化判定時に固定化して免疫染色を行ってしまうと、候補物質のアッセイに使用出来なくなってしまいます。そこで力を発揮するのが、非破壊的に解析可能な画像解析です。生細胞の画像に対して、AIを応用することで、通常免疫染色を行うことによって得られる分化判定を予測することが出来ます。これにより、これまでとは異なるアプローチの創薬が可能になるのです。
上記は一部の例に過ぎませんが、様々な過程において、適切に画像解析AIを応用することで、創薬が劇的に加速すると考えています。
第一三共株式会社との包括提携
上記2例を詳細に書いてしまいましたが、創薬研究におけるあらゆるバリューチェーンに応用可能なIMACELの技術・実績を評価していただき、2022年7月に、第一三共株式会社と包括提携契約を締結しました。
同社とは包括提携の数年前から協業を進めていましたが、早期創薬ステージにおける一部のプロジェクトベースでの提携でした。しかし、昨年の包括提携開始から1年を経て、早期創薬ステージから市販後ステージまで、数多くの協業案件を見出すことに成功しました。
プロジェクトベースでの提携では、個別プロジェクトとして予算を用意し、契約書を交わし、、、となるため、企業の組織構造の面で、あるいはプロジェクトの担当者個人の心理面で、ハードルが高いのが実情です。
そこで、包括提携とすることで「各プロジェクト担当者の方々のAI導入の様々な障壁がクリアされ、多くの潜在的なDXニーズを掘り起こすことが出来た」というのが、この提携の大きなポイントになっています。
他にも多くの企業とも包括提携をしていくことで、あらゆる製薬企業のDXニーズを引き出し、創薬を加速させる一助となれれば嬉しく思います。
製薬企業のビジネストランスフォーメーション
創薬型企業からトータルヘルスケア企業への潮流
前のセクションでは「創薬を加速する」ことについて述べてきました。一方で、製薬産業は、生活習慣病治療薬を中心としたブロックバスターモデルから、難病治療・個別化医療へとターゲットをシフトしており、薬を創って販売していくことのみに注力する「創薬型のビジネス」から、予防・診断・治療・予後といった、患者さんの健康に関するフロー(ペイシェントジャーニー*1)全体にソリューションを展開していく、「トータルヘルスケア企業」へ変革していく流れを見せるようになりました。
そして、世のDXへの風向きも相まって、製薬企業がそのトータルヘルスケアに対して、デジタル技術を応用した「デジタルヘルス」の開発が加速する様子を見せています。日本の製薬企業の業界団体である日本製薬工業協会(製薬協)も、デジタルヘルスに関するレポートを発刊するなど、製薬企業がトータルヘルスケア、そしてデジタルヘルスに対して強い関心を寄せていることが伺えます。
エルピクセルの事業とシナジー
医薬品を創って販売するだけではなく、診断を含めたソリューションを普及させる、、といった内容で、何となくピンと来てくださった方もいらっしゃるかもしれません。もう一つの弊社の大きな柱である「AI画像診断支援事業」の出番です。
私たちは現在、頭部・胸部・腹部における放射線画像や内視鏡画像を解析するプログラム医療機器を自社製品として開発・販売し、累計550を超える医療機関へ導入を進めてきました。それは同時に、医療機関から大量の学習用データを収集し、AIアルゴリズムを活用し、システムとして実装したうえで、当局からの承認/認証を取得するためのあらゆる作業を行う、という極めて専門性が要求されるノウハウを絶えず培ってきたことの証でもあります。
製薬企業が、診断へのソリューション提供も見据えるいま、各製薬企業の注力疾患領域における知見やさまざまなネットワークなどと、エルピクセルのAI画像診断支援技術のあらゆるノウハウをコラボレーションさせることで、AI診断支援と医薬品治療がセットになる、そういった未来を目指す協業プロジェクトが、現在いくつも行われています。
医療のあらゆるシーンをAIで:「共創」へ
ここまで、私たちエルピクセルと製薬企業との「協業」に関して、創薬AI、そしてAI診断支援に関してスポットライトを当ててお話してきました。少し無理やりかもしれませんが、分かりやすくまとめてみるならば、
診断が難しかった疾患がAI画像診断技術によって発見され、創薬AIによって見出された医薬品で治療される(そして副作用などもAIでしっかりモニタリングできる)、そんな医療のあらゆるシーンをAIで
という世界を創り出すというのが、生物画像解析AIを生業とする私たちエルピクセルの一つの目指すところかもしれません。そしてそれは、決して我々だけでは創り出すことの出来ないもので、外部のパートナーとの「共創」により生み出される世界であることは確かです。
私の所属するサイエンス事業開発グループは、そういった共創のタネを見つけ、大事に育てていくのが使命です。こういった理念に共感し、何かまずは小さなところからでも、連携してみたいという方がいらっしゃったら、是非お気軽にご連絡ください。
(製薬企業のみならず、製薬企業以外の方も大歓迎です!)
文:加藤 祐樹(趣味:サウナ)