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画像診断支援AIの現状と将来の展望/EIRL Summit 2024 パネルディスカッション報告

こんにちは、エルピクセル 広報室の大瀧です。

エルピクセルでは、2024年12月7日に画像診断支援AIの導入を検討されている医療機関向けに「EIRLサミット」を開催しました。

サミットでは、EIRLシリーズだけでなく他社製品を含む画像診断支援AIを導入・活用されている施設の医師に登壇いただき、症例や導入成果についてご講演いただきました。
また、診断支援AIを提供しているAIメディカルサービス 代表取締役CEO 多田智裕氏、エムスリーAI株式会社 代表取締役社長 杉原賢一氏にもご登壇いただき、最新の動向や製品について紹介いただきました。

今回は、EIRLサミットの最後に行われたパネルディスカッション「画像診断支援AIの現状と将来の展望」について、一部を抜粋してお届けしたいと思います。


はじめに

登壇者の紹介

AI技術の進化は医療現場においても大きな影響を与え始めており、特に画像診断の分野ではその活用が進んでいます。
しかし、AIがどこまで医師をサポートし、どこまで医師と共存できるのか、そして医師がAIをどのように活用すべきか依然として多くの課題を抱えています。

パネルディスカッションでは、画像診断支援AIの開発に関わったご経験を持つ、あるいは臨床現場で活用されている4名の先生に登壇いただき、画像診断支援AIの現状と課題、そして、より良い医療の提供に向けて医師とどのように協力していけば良いのかを議論をいたしました。

ご登壇いただきましたのは、写真中央より、

千葉大学大学院 医学研究院 特任准教授、大宮シティクリニック 理事長 中川 亮 先生、
大阪大学医学部附属病院 高度救命救急センター 助教  廣瀬 智也 先生、
津端内科医院 院長 津端 俊介 先生、
国立がんセンター中央病院 放射線診断科 医長 渡辺 裕一 先生、

コーディネーターは写真左、EIRLビジネス本部 ゼネラルマネージャーの古田が務めました。

なぜ画像診断支援AIを導入したのか

「画像診断管理加算4」の申請

古田:
画像診断支援AI(以下、AI)の現在地を理解する視点で、導入のきっかけと、どのように活用されているか教えていただけますでしょうか。

渡辺先生:
AI導入のきっかけは、「画像診断管理加算4」の申請にあたり、人工知能関連技術を活用した画像診断補助ソフトウェアの導入が必要だったことです。ただ、国立がん研究センター中央病院では、接続環境の課題や予算の制約があったため、なかなか導入が進みませんでした。

そうした状況の中で、助成金を活用できることになり、ようやくAIの導入が実現しました。おかげさまで、「画像診断管理加算4」を無事申請することができました。

古田:
助成金が導入のきっかけだったとのことですが、日常的な読影に関して困っていたことや課題はありましたか。

渡辺先生:
当時、放射線診断専門医の人数が圧倒的に不足しており、日常の読影業務にかなり疲弊しておりました。そうした状況の中で、AIを導入することが決まりました。

導入当初は、正直申しまして「これが本当に役に立つのだろうか」と半信半疑だったんです。ただ、ある時AIの調子が悪くなり、一時的に使えない時間が発生した際、読影を一時保留する同僚が出始めました。その状況を最初はあまり理解できなかったのですが、ある日、自分自身にも変化が起きていることに気づきました。後日、AIが使えなくなった時に、AIなしで読影することに不安を覚えている自分がいたんです。

残念ながら、AIを導入しても業務量そのものが減るわけではありませんでしたが、AIによる肺結節の検出や、肋骨・肝臓のラベリングなどは非常に有用でした。このような経験を通じて、AIの導入後には心理的な負担が少しでも軽減されたことを実感しています。膨大な業務に追われる毎日ですが、今もAIに助けられ、読影に対して以前より確信を持てるようになっています。

マーケティングとして

古田:
1日で数百件を超える検査を実施されている中川先生のご施設ではいかがでしょうか。 

中川先生:
AIという技術があれだけ宣伝されている中で、 我々大宮シティクリニックでは、年間4万人以上の方が人間ドックを受けていますので「 AIが入っていないのか」と言われると恥ずかしいな、 そう思ったのが最初のきっかけです。
 
まずは内視鏡検査の診断支援を行うAI(以下、内視鏡AI)を導入しました。
その使用感を見ていくと、 AIが入ると人間ドックに有効ではないかと思ったのですね。

健診施設では、週1日など非常勤の先生がいらっしゃいますが、そういった先生から非常に好評なのですね。 自分一人で診ているのではなくて、 もう一人の先生が横にいるような感じでドクターの心理的負荷を軽減しているということが分かりました。

ダブルチェック手段として

古田:
開業されている津端先生のご視点からはいかがでしょうか。

津端先生:
私はもともと消化器内科医でして、 勤務医時代には胸部X線の検査を行っていましたが必ずダブルチェックで放射線科の先生が診てくださっていました。
さあ、開業となったときに、 思い起こせば胸部X線の読影トレーニングを受けたのは、20数年前の研修時代の、しかも数ヶ月の呼吸器内科のローテーションの期間だけに限られちゃうんですよね。

そうした中で開業医になれば胸部X線検査を行う必要がありますが、ここで言うのも非常に恥ずかしいのですが、内科医のくせに自信がなかった。そこで、ダブルチェックの手段がないだろうかと探した時に遠隔読影やAIを検討しましたが、AIを活用されていた開業医の先生の講演会を拝聴する機会があり、活用するに至りました。

画像診断支援AIの導入コストに見合う「対価」とは

古田:
一部の医療機関や製品にしか保険適用が認められていない状況で、導入の費用に関しては医療機関側の負担になります。 
そこに見合う対価というのは、どのようにお考えでしょうか。

津端先生:
おっしゃる通りで高度の医療施設には加算がつきますが、逆に開業医のところにはつかない。

ただ一方で、 医者1人しかいなくて、 忙しない開業医ほどAIが必要だと思っています。

事例を紹介させていただきたいのですが、当院は 1日60人から70人ほどの外来患者さんが来院されます。非予約制です。発熱の方も制限なく来られます。腹痛があれば超音波、必要あれば胃カメラもその日のうちに行います。

ある日、心不全の患者さんを救急搬送するなど忙しい日がありまして、その中にスクリーニング目的で来られた 80歳の女性の方がいらっしゃったのですね。
胸部X線を撮影してPACSを見て「大丈夫かな」と思いました。患者さんが待合に戻られる際に「多分、大丈夫です」とまでお伝えしていたのです。

全ての検査はAIの解析に回しているのですが、 AIの結果が戻ってくるまでの間、エコーなど他の検査をやっていて、AIの結果が戻ってきました。 
言葉で言うのは難しいのですが、左の3弓のところをAIがひっかけてくれました。

それをパッと見たとき、 本当に恥ずかしい話なんですけど私気づいてなかったんですね。忙しさや疲れなど言い訳をすればキリがないですが、普段であれば見落とすことはまずなかったところです。
結果として、AIに助けていただいて、患者さんにもその画像を提示して精密検査を受けていただき肺癌の診断がついた、ということがありました。

私はこの一例で費用対効果があったと思っております。 
お金に変えられないというと、これも言い過ぎかもしれません。しかし「見逃し」ということになればとんでもないことになるわけですから。

院内で画像診断支援AI導入の理解を得るために

古田:
別の観点ですが、 周囲の理解という点では、人によって AIへの理解度というのはバラバラかと思います。
導入にあたっては周囲の理解が必要になるかと思いますが、他の先生やスタッフの皆さまの理解はどのように得られたのでしょうか。 

中川先生:
内視鏡AIの導入推進にあたって、ドクターを対象にアンケートを取りました。 

「どれくらい期待できるか」の設問では、 ほとんどみんな期待していませんでした。ただ 「邪魔にはならない」ということは伝えました。
AIに従わないといけないわけではないのですよ。サポートするだけなので使ってみてください、嫌な場合は消すこともできると。

しかし、3ヶ月後にもう1回アンケートを取り直してみると、大半が「あるほうが良い」というような結果になっていました。

つまり、 使い方が分かっていなかっただけであって、 使い方を感覚として覚えていけば「障壁」はなくなってくるのではないかと思います。
AIを導入している施設は、 もう使い慣れ始めてきていてHow Toも出来上がってきているし、今後は加速的にAIを活用していくだろうということが言えると思います。

私たちとしては、 AIがあることを当たり前にすることに貢献する必要があると思っていて、教科書作りのようなフェーズになってきているのかなと思います。

画像診断支援AIへの期待と課題

古田:
最後の質問になりますが、 課題があるものの導入する意義、また今後への期待もお聞かせください。 

渡辺先生:
放射線画像だけじゃなくて、患者さんの年齢や性別、それから血液検査や臨床経過も組み合わせて診断を助けてくれるマルチモーダルなAIには、私も本当に期待しています。

エルピクセルさんは、セグメンテーションとか検出の分野で素晴らしいAI製品をどんどん作られていて、その技術力には本当に驚かされます。そこで、ぜひお願いしたい課題が、腫瘤の良悪性を見分ける「Image Classification」のAI開発です。これが社会実装されたら、もしかしたら僕たち放射線診断医が必要なくなる日が来るかもしれませんね(笑)。

古田:
救急医として画像診断支援AIの開発に携わったご経験を持つ廣瀬先生、いかがでしょう。

廣瀬先生:
AIは救急医の立場から見ても、忙しかったり、眠かったりする時に寄り添ってくれる先輩にはなりますが「責任を取ってくれない」というのが現状です。 

一人だけでは判断がつかないこともあるので、そうした点では非常に心強いのですが、現時点では最後は人の判断、AIが責任を取ってくれることはないので、制度や学会等でのガイドラインなどの整備が必要だと思っています。

開発者の視点から今後の診断支援AIへの期待という意味では、画像だけでは限界がある時もありますので、バイタルサインや他の検査データなど複合的なデータを画像診断AIと結びつけながら診断結果を出してくれるようになると良いと思います。

古田:
中川先生、いかがでしょうか。 

中川先生:
私たちは健診をやっていますので、 究極的には受診者の方にカプセルを飲んでもらって、 ひゅーっと体の中を巡るとその人の健康状態が全部チェックできるという未来が一番楽しいです。 

そこには色々なデータであったり、新しいデバイスが必要です。

今回AIが入ったことで、ちゃんとデータを活用していこうという流れに変わったと思います。
今までただ病院内にあったデータを見直して、そこから何を見出せるか。さらに、今まで僕らの脳だけでは処理できなかった情報を AIを使ってどう処理して、未来予測に使うか。そういうことが見えるようになってきたんです。 

ただし、現段階のAIはまだまだ「赤ちゃん」みたいなもので、僕らが彼らに責任を押し付けられるような段階にはないわけですね。 そうすると、僕たちは彼らをちゃんと育ててあげられるように、ここで縛りつけたりはしないで、病院内に眠っているデータをAIにあげてしっかりと教育をする。そうすると、僕らと同じくらいのランクの診断能力であったりとかサジェスチョンが出来るAIになります。

さらにもう一段上の、 私たちが認識できなかったデータが付け加わっていくことで、より早期の病気が見つかったり、今までにない価値が見つかる可能性があります。

そのために、まずは一つ一つステップを踏んでいくことが必要で、 まずは我々は今の段階でのAIをしっかり使えるようにしていきましょう。まず等身大のAIを見ていきましょうと考えています。

おわりに

医療現場の最前線でご活躍されている皆様と「医師とAIの共創」について多くの視点から議論させていただきました。

画像診断支援AIは、長い医療の歴史からすると生まれたばかりの新しい技術です。
しかし、医療安全や医師のオーバーワークなどの観点から、潜在的なニーズは非常に高いことがうかがえます。

性能、コスト、周囲の理解・・・等、普及に向けた課題は多くありますが、皆様との議論を重ねながら、医師と共により良い医療の提供を目指して、研究開発に取り組んでまいりたいと考えています。

文:大瀧 翔子

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