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煙の形
午後6時半の定時を5分過ぎで会社を出た。
すぐに電車には乗らず、今日は駅近くにある喫煙スペースでタバコを吸おうと思った。
ガラスを鉄柱で囲ったような仕切りが建てられた六畳ほどのスペース。
普段は人がひしめきあって、かなり窮屈な空間なのに、今日は側面に2人づつぐらい並んでいる程度で、それほど人がいなかった。
出入り用に1メートルほど仕切りが途切れているすぐ横に陣取ってタバコに火をつけた。
ひとつ吸って。
吐くのと同時に頭上に視線を移した。
煙が天に向かって渦を巻くように動こうとして、すぐに消えた。
風が一段寒く感じて、冬がまた濃くなったんだなと思った。
ふと、視線を前方に戻すと、ひとりの男性が視界に飛び込んできた。
私と同じようにタバコと吸おうとしてるであろう彼は、仕切りに背をつけるようにして目の前に立った。
どことなく、知っているような、どことかく元彼ににているような気がする。
もう一度足元から順に視線を上げていった。
足の太さ・長さが同じたっだ。
そのまま視線を上げて顔を見た。
まさに今、ライターで火をつけているこの角度の彼は、同じだった。
私はとっさの判断で、持っていたタバコを灰皿に捨て、そのスペースを出た。
そのままの勢いで、改札に向かうエスカレーターに乗りながら想像する。
声を掛けていたら、今踵を返して声を掛けにいったら。
「久しぶり」の一言以降が想像できない。
多分それは、
もう一度ちゃんと向き合いたい。
古い知人として挨拶したい。
その、どちらでもないからだと思う。
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