無感①

今日もこの時が来た。
やつが襲ってくる時間だ、毎日決まった時間にだ。
静かに寝かせてほしいのにそうもいかないらしい。
やつを止められるのは私とあと一人あの方だけだろう。
息を潜めやつが襲ってくるのを待つ。
反撃ができるようにしておきつつ、退路を確保する。

さぁ、来るぞ。

やつは忍び寄るわけではなく、堂々と正面からやってくる。
大きな足音と、雄たけびをあげながら襲ってくる。
もうすぐそこまで来ている、扉の前だ。
扉が開かれたが最後だ、覚悟を決めしろ!
そして扉は開かれ、戦端は開かれた!
やつは反撃する準備をした私に臆することなく
押しつぶすために私の体にのしかかってくる。

こいつ日に日に成長していやがる!
確実に重くなっている!

少し前までは軽々とやつの体を持ち上げ、のしかかり攻撃にも耐えることができていた。
しかし!最近は重量が増し、腕の力で持ち上げるのが難しくなってきた。
だかここで音を上げる私ではない、今日も重たくなったやつ体を持ち上げ
すかさず位置を入れ替える。ここからは私の攻撃だ。

がら空きになったわき腹に手を滑り込ませ、指を動かす!
その瞬間やつが
「きゃ~。あははは~!!!やめて~!降参!!!」
と笑い転げ降参した。
毎朝の日課になった息子とのプロレスだ。

私はごくごく一般的な家庭を持った会社員だ。
3歳の息子と妻の3人暮らしで幸せな生活を送っている。
日課のプロレスを終え、息子の脈絡のない話をほどほどに聞き、
時には具体的に内容を掘り下げたり、朝食を促したりしながら
朝の時間を過ごし、自分の準備を進め息子と一緒に家を出る。
息子は幼稚園バスで登園する。
息子を預け、出発を見送る。
その後、私は足早に会社へ向かう。
デスクワークを片付けつつ、上司の機嫌を取りながら仕事をする。
そして定時で退勤し帰宅。息子が起きていれば一緒に風呂に入り
夕食を取り、息子の今日あったことを聞きひとしきり話を聞いて
遊んだら寝かしつける。
だいたいそのまま息子と一緒に寝てしまう。
起きていれば、妻とテレビでも見ながら他愛のない話をして眠る。
この幸せルーティン。
最高だ。

だが、それが失われるとは思いもよらなかった。

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