ファッション造形基礎。CCC。評定1
今日の夕飯は秋刀魚だった。
僕は身から小骨を取ることに必死になることで、ほとんど一年前と変わっていない自分への憎悪を紛らわしていることに気付いた。
放課後、誰もいない被服室で不快なミシンの音を鳴らしながら白い布に刺さったまち針を慎重に取る。決して音になることのない僕の叫び。空気を振動させることにさえ億劫になっているような叫び。聞こえているのはせいぜいイヤホンの内側で力強く空気を振動させているカネコアヤノと僕自身だろうか。
被服室。
予測変換ですぐに出てくることに驚く。何の為なのかは私もよく分からないが、最後まで彼らに頼らず自力で打った。
すると、まるで最初から私の行動を知っていたかのように
「これは君が始めた物語だ」
と彼らは私に向けて言った。
秋刀魚の内蔵があった場所には赤茶色に染まった身がまだ少し残っていた。
興味本位でその部分を食べようと思った。
好奇心に満ちた咀嚼。
今思えば、私は期待していたのだと思う。
私の母は私がまだ幼い頃、オムライスを作るときに私と兄のどちらかの卵の下にチーズを入れてくれた。
「あたり」らしい。
やった!あたった!と無邪気にはしゃぐ姿を思い出そうとしたが、🤢 が予測変換に表示されたからやめた。
焼いた秋刀魚であたったら冗談じゃない。
咀嚼中。もぐもぐタイム。
苦い。
期待は虚しく苦さだけが口の中に広がる。
「たった一年ではほとんど何も変わらない」と秋刀魚は秋らしく寂しそうに伝えてくれた。それでも致死的な響きがそこにはあった。
それから喉の奥にチクっとした痛みが走った。
どうやら小骨が刺さったらしい。
すると視界が一年前に遡った。
僕は被服室の不安定な椅子に座りミシンのフットペダルを踏んでいた。
まち針が指に刺さり白い布に赤いしみができていた。
どうして血は出るのに涙も声も出ないのだろうと私は不思議に思った。
何もかも捨てて窓から飛び降り、帰ろうと思った。
ミシンの電源も指に刺さったままのまち針も
僕も残して
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