【創作】おもいで堂 #4
2人の様子を見ていた店主は、懐からハンカチを取り出し、おじいさんに差し出しました。
「すまんのう。みっともないところを見せてしもうて。」
おじいさんはハンカチを受け取り、自分と少年の涙を拭いました。
「そんなことありません。この本を作って、こうして読んでもらえて、私は嬉しいです。ありがとうございます。」
店主はおじいさんに向かって深々とお辞儀をしました。
「いや、礼を言うのはこちらの方じゃ。本当にありがとう。」
おじいさんも立ち上がって、丁寧にお辞儀をしました。横で見ていた少年も、おじいさんの真似をするようにお辞儀をしました。
店主は、顔を上げたおじいさんに問いかけました。
「彼はあなたに元気になって欲しいと、この本を勧めました。あなたの今の気持ちを聞かせていただいてもよろしいですか?」
おじいさんは、少年を見つめ答えました。
「お前さんにも随分と心配させてしもうたようじゃな…わしはこの本が読めて、本当によかった。これからは、ばあさんへの土産話ができるように、たくさん思い出を作らんといかんなぁ。じいちゃんを手伝ってくれるかい?」
「うん!」
少年は、満面の笑みで答えました。
******
「お世話になりました。」
「気を付けてお帰りください。」
おじいさんと店主が最後の挨拶をしていると、少年は店主に会えなくなるのがさみしくなったのか、店主に抱きつきました。
「おにいさん…ありがとう。」
店主は少年の行動に少し驚きましたが、笑顔で少年の頭を優しく撫でました。
「おにいさん!ばいばい!猫ちゃんもばいばい!」
「さようなら。元気でね。」
「ニャー!」
ゆっくりと扉が閉まり、店主と黒猫だけになりました。
「行ってしまったね…」
少しさみしそうな表情を浮かべた店主を慰めるように、黒猫は足元へすり寄っていきました。
「なんだい?あの子が行ってしまってさみしいのかい?でも、とてもいい思い出ができたね。私の新しい思い出、さっそく本に綴っておかないと。」
黒猫を抱きかかえた店主は、机に向かい、今までの出来事をしたためるのでした。
「おはよう、おじいちゃん」
「おはよう…不思議な夢じゃったのう…」
2人はおもいで堂での出来事を思い返していました。すると、おいしいにおいが漂ってきました。
「朝ご飯のにおいがしよる。はよ起きんといかんなぁ…そうじゃ、今日は久方ぶりにばあさんとよく散歩した公園にでも行ってみるかのう。」
おじいさんは、布団から抜け出し身支度をしながら、独り言のように言いました。
「ぼくもいっしょにいってもいい?」
「おお、一緒に行ってくれるかい。これは楽しみじゃなぁ。」
思わず返ってきた少年の言葉に、おじいさんは嬉しくなりました。
「あっ!じゃあ、みんなでいこう!ママもパパもおしごとおやすみの日だし、みんないっしょのほうがもっとたのしいよ!ママとパパに話してくるね!」
そう言った少年は、おじいさんの部屋から飛び出し、先にリビングへ行ってしまいました。
「おやおや、朝から元気じゃのう。」
身支度を済ませたおじいさんは、みんなのいるリビングへと向かいました。
おしまい
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