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バリ島、とある風景| 忘れられない場所

忘れられない場所がある。

それは、バリ島の西部国立公園からデンパサールへ向かう途中で見つけた、ひっそりとした小径だった。観光客の姿もなく、静かな路地にカラフルな木製の置物がずらりと並ぶ店が並んでいた。

その時、すぐに運転手に「ここはどこですか?」と聞けばよかったのだが、未舗装の田舎道を6時間もドライブして疲れていた私は、声をかける余裕もなく、スマートフォンを手に取る気力も残っていなかった。
あっという間にその小道を通り過ぎ、気がつけば見慣れた大通りに出ていた。

「さっきの道、何という通りですか?」

ペットボトルの水で喉を潤し、少し落ち着いてから運転手に尋ねた。

「さっきの道って?」

運転手は渋滞の中、バックミラー越しに問い返してくる。

「ほら、さっき通った、木の置物を売るお店がたくさん並んだ道。」

思い出してもらおうと、知っている限りのインドネシア語を交えつつ簡単な英語で説明したが、運転手は「そんな場所あったかな?」と何度も首を傾げた。

「Maaf ya(ごめんね)。」
「今日は道が混んでいたから、横道を抜けてきたんだ。なんとなく行っちゃったから、はっきり覚えてないよ。」

運転手の申し訳なさそうな表情に「Tidak apa apa(大丈夫よ)」と言って私は肩をすくめた。

その後も運転手は何とか思い出そうと頭をひねってくれたが、「そんな珍しい道あったっけ?まぁ、いいや。」と前を向いた。

そう、特別でも珍しくもない、バリ島によくあるただの小径。
それでも、私の中にはあの道が静かに、忘れがたく残っている。

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