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バリ島、とある風景| ドリアン売り

私は雨季が好きだ。ムァッと立ちこめる湿気も、突然降り出すスコールも、好きだ。

夕方のスコールは、路地に舞っていた砂埃を濯ぐ。

雨が止み、澄み渡った空気に斜陽が差し込むと、路地裏で子供たちが凧をあげ、大人たちはこれからだと言わんばかりに動き出す。屋台が並び、品定めをする人々が集まる。再び活気が戻ってくるこの時間が、私は好きだ。

近所の通りには、雨季になると決まって現れるドリアン売りがいた。

道路の隅にシートを広げ、色、形、大きさがまちまちなドリアンをいっぱいに広げる。その向こうに座ると、道行く人に話しかけ、楽しげにおしゃべりを始める。その光景を見ると、私は雨季の訪れを感じた。

「こっちは大きい方で25,000ルピアで、こっちの小さい方は15,000ルピア」

と、並べられたドリアンの間にできた1センチほどの隙間を境に、左右に指差した。

私は並んだドリアンの前にしゃがみ込み、鼻先に意識を集中しながら、熟れた匂いを探した。2列目の、ちょうど隔てる隙間に接した場所に置かれた茶褐色の平たいドリアンを指を差し、25,000ルピアを渡した。

ドリアン売りは受け取ったお金を傍の袋のようなものにねじ込み、パラン(大きな包丁)を手に取って、果物を真っ二つに割った。

「ほらよ。」

トゲの隙間に長い紐を絡ませ、持ち手の部分を輪っかに結ぶと、それを私の指先に引っ掛けてくれた。指の先からは、先ほどよりも一層強く、ムンッとした甘い香りが立ち上った。

「ありがとう、またね。」

紐を絡めた指をそのままに、私はドリアンを両手で挟むように持ち、鼻先に近づけ、家の方向へ歩き始めた。夕日が落ちかけた通りには、色鮮やかなネオンが灯り始めていた。

ワルン(食堂)を照らす黄色の電球に緑色に光ったロスメン(民宿)のネオンサイン、その向こうに、カラフルな電飾に縁取られた遊具が、電子音を鳴らしながらグルグルと回っていた。

遊具の隣に来た時、私はふと気づいた。さっき買ったドリアンは少し大き過ぎだ。コーヒー1杯分には、少し持て余すだろう。

私は立ち止まり、遊具の灯りを頼りに、もう一度、そして今度はじっくりとドリアンを見た。びっしり広がる花床が、房をしっかりと包んでいる。完璧だ。申し分ない。半分はとっておこう。そして、明日の朝は多めにコーヒーを入れるとしよう。

指先に引っ掛けたドリアンを揺らしながら再び歩き始めた。


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