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バリ島、とある風景| 八百屋さん


馴染みの八百屋さんには、重さを測る係の女の子がいた。柔らかなベージュ色の生地でできたヒジャブを被った、美しい少女だった。

ビニール袋に入った野菜を手渡すと、彼女はそれを秤に乗せ、無表情で「〇〇グラム」とだけ告げる。

「ありがとう!」

私は精一杯の笑顔でお礼を言うが、彼女の表情は相変わらず変わらない。

別れの挨拶のタイミングを掴めず、居心地の悪さを感じながら視線を遠くに泳がせ、なんとなく店を後にする。

月日が経つにつれ、私は彼女のいる八百屋を避けるようになり、別の店で買い物をするようになっていた。

それから数年が経ち、私はバリ島を離れることになった。住んでいた家を退去し、ワンルームのコス(アパート)を1ヶ月だけ借りて引っ越しを終えた後、お世話になった人々に挨拶回りを始めた。一通りの挨拶を終えた頃、ふと、あの少女のことを思い出した。

無表情な彼女の顔が脳裏に浮かび、気が進まなかったが、別れを伝えようと最後にもう一度八百屋を訪ねる決心をした。

「数年経ったし、もういないかもしれない。」

そうであって欲しいと思いつつ店に入ると、彼女はあの頃と変わらず無表情のまま、秤の前に立っていた。

数年前の気まずい記憶が蘇り怯んだが、意を決して彼女に野菜の入ったビニール袋を手渡した。

「あ、あなた! しばらく来なかったけど、まだバリ島に住んでるのね。」

彼女は私の手からビニール袋を受け取り、嬉しそうに話しかけてきた。予想外の態度に驚きながらも、私は返事をした。

「そうですね。でも、来月バリ島を離れるんです。」

そう言うと、彼女は驚いた顔をした後、少し寂しそうに俯いた。

「そうなの。。。 それじゃあ、またね。。。」

彼女はまだ何か言いたそうだったが、言葉に迷っているようで、ビニール袋の口を指先で弄んでから、静かに結んだ。

私も「またね。」とだけ言った。

他に言いたいことがあったが、伝えるためのインドネシア語がうまく浮かばなかった。


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