2024 J2 第37節 ファジアーノ岡山vs藤枝MYFC レビュー
岡山まで観に行きました、2ヶ月半ぶりのCスタです。
暑かったですね。11月はホーム最終戦を見にほぼ毎年観に行ってますが、こんなに暑かったのは記憶にありません。
季節外れの暑さの中で、だいぶタフさの求められるゲームになったと思います。
ましてや絶対に勝たないと行けない試合、本来通りの動きにならないかもしれない要素が多くある試合でした。
その中で、豊富な運動量で前線から藤枝のボール回しに制限をかけ、うまく仕留めることができた試合だったように思います。
1.スタメン
岡山は輪笠から藤田にスタメン変更。
まずは1試合の欠場で戻ってきてくれたことに安堵しました。今節の藤田も、前節の輪笠もパフォーマンスがよく、良い競争ができている証だな、と思います。
前線の組み合わせはこれで3試合変更なし。これが最適で岡山らしい攻めのできる組み合わせ、ということなのでしょう。いよいよチームとしても最終段階に突入したな、という印象です。
藤枝はスタメン変更なし。何かを入れ替えるというよりも、千葉相手に2点を奪えたことをベースに、3点を奪われたことを修正することにこだわったように思います。
2.試合
藤枝のベースは「1-」3-1-4-2のシステム。
「1-」というのがGKを指していて、このようなシステム表記をされる方もよく見かけます。この「1」が曲者で、藤枝はこの浮いた1、つまりGKからのパス配球が極めて多かったのです。
この試合の藤枝のパスソナー・パスネットワーク図になります。数字がパス本数を表すのですが、この試合の藤枝GK北村からのパス本数は実に51を数えました。岡山に限らず、他クラブのGKでもパス本数が40を超えるのは珍しいのですが、藤枝GK北村に関してはパス本数が40を超えることも少なくなく、多い試合では60本超を送り込んでおり、藤枝のパス回しの起点になっていることがわかります。
もう一つGKからのパス回しについて、この試合で特徴的だったのが、縦方向のパスが多かったことです。前出のパスソナー・パスネットワーク図の円柱の半径の長さが大きいほど、その方向へのパス本数が多かったことを指します。そして図の通りこの試合では斜めや横ではなく前方向のパスが多く、役割的には仮のパスの受け手になり横や斜めにパスを出してDFから前線へのパスコースを探らせる、といったものではなく、スペースに浮いたDFやボランチ、FWに対して縦パスを差し込んだりフィードを送り込んだりしてチャンスを作る、最後方のパサーとしての役割を担っていたと言って差し支えなかったと思います。
もっともGKからのパスが増えること、これは岡山の狙い通りだったのかもしれません。狙うことができればGKへも寄せに行っていましたが、あくまで狙いはそこで奪う、ロングボールを蹴らせるといった類のものではなかったように思います。
岡山の前線のプレスの狙いとしては、川島・鈴木の2人のCBに対し、CF一美とボールサイドのシャドーが前へ出て前方へのパスコースを消すことだったように見えました。藤枝は3バックを採用していますが、右CB久富は右ワイドに大きく張るケースが多く、残りのCB2枚+GKで回そうというところをまずはCB2枚からの縦パスを制限しよう、という狙いだったと思います。右CBをサイドに張らせていたのは右WBモヨを前線に張らせ、ターゲットにするもしくは力強い突破でサイドを攻略する意図があったのでしょう。GKからのロングボールについては対面の末吉に完勝でした。
藤枝のシステムで注意すべきなのはアンカー+IH2枚で中盤が3枚となり、ボランチ2枚の岡山にとっては数的不利になることです。対抗策として前線からのプレスで余ったシャドーが低い位置に構え、IHへのパスコース、もしくは低い位置に降りてきたIHに対する対応を行い、数的同数を構えようとしていました。
アンカーポジションに対してはボランチ(主に藤田)が前へ出て配球を制限、残りのIHはもう一人のボランチがみることでCBから中盤への展開、についてはかなり制圧できていたように思います。
あえてアンカー「ポジション」と表現したのも理由があって、藤枝の選手(特に中盤)は流動的にポジションを変え、またシステムとは異なるポジション取りをすることで選手をお仕上げたり、フリーの選手を作ったりしていました。例えば30分には本来アンカーの新井が左CBのようなポジションに降りて左CB鈴木翔太を左サイドいっぱいに開かせつつボールを引き出すようなプレーを見せていました。このときアンカーポジションには梶川が取り、ボールを引き出す、もしくは岡山の選手を引き出すための動きをしていました。
もっとも岡山の選手たちは冷静で、新井に対してはプレスで余っていた木村が前へ出て制限をかけ、アンカーポジションの梶川には藤田がついてパスを出させないようにしていました。
この構えになると浮いてくるのが必然的にGK。北村はショートパスよりもロングパスを選択していた印象です(前出のパスソナー・ネットワーク図で前方を指す円柱の色が濃いのがその証拠です)。30分のシーンではロングボールをサイドに流れたFW矢村へ放り込む選択。このボールはラインを割り、岡山ボールのスローインとして回収することに成功します。
藤枝がCBの1枚をサイドに張らせていたことが岡山にとってやりやすかった部分もあります。
しかしながら、甲府戦で課題が露呈した中盤の数的不利に対する対抗策をしっかりと練って、タイトな守備として表現できたのは今後に向けて非常に大きなものになりそうです。
また岡山の守備にとって幸運だったのは、藤枝がボールを握ることに重きは置いていても、陣形を崩すことには重きを置いていなかったことです。最終ラインでのボール保持は多かったですが、岡山側の最終ラインを攻略できると踏めば一気にロングボールを送り込み突破を試みていました。多かったのは矢村の動き出しに合わせたボールでしょうか。ただ、この動きに対してはCB陣がしっかり跳ね返し、こぼれ球へのカバーが徹底できており、その点守りやすくなっていたように思います。
それもあってか18分には千葉のボールの引き出し方に関する修正の指示が藤枝須藤監督からあったようで、千葉が降りての引き出しも見せていました。しかしここには阿部がしっかりと前へ出て収めさせないプレーを見せており、藤枝FW陣を抑え込むことに岡山CB陣が成功していた、と言えるのではないでしょうか。
岡山の攻撃もよかったと思います。
中盤でボールを引っ掛けると、アンカー脇に降りた一美や岩渕へ預け、そこからサイドへ展開し突破を図る、という狙いを実行できていました。展開が多かったのは左サイド。そこからドリブルでの仕掛けを見せながら最終ラインに戻して、あるいは直接、右サイドへ展開し直しを狙っていました。藤枝の守備ブロックを左右に動かし隙を窺う、そういった狙いだったように思います。あるいは末吉からのカットインからのインスイングのクロス、という形も多かったでしょうか。15分には仕掛けを見せた末吉が岩渕とのワンツーで抜け出しポケットをとり、折り返しのクロスにゴール付近に2人が飛び込む、というシーンも作り出していました。
後半、藤枝は新井に変えて世瀬。アンカーを交代させましたが、中盤3枚で流動的に立ち回る、という狙いは変わっていなかったように思います。
岡山は前線から裏へ抜け出す運動量が更に多くなったように感じました。またそうした動きを簡単に使うロングボールが増えました。
それができるようになったのがボランチの後ろないしは横で受けるプレー。そこで食いつかせてDFラインにできた裏へのスペース、もしくはかき乱したことでおきたカバーの先で空いたスペースを使うプレーで裏を取れていました。
藤枝は大外にCBを張らせ、WBが内に絞ってプレーする機会が増えた印象です。それに伴い鈴木翔太、久富とCBの攻撃参加も見られるようになります。また内にWBが絞ったことで、特にシマブクがポケットをとる動きを見せるようになりました。
サイドを使うようになったことで、藤枝がボールを握れるようになった印象です。
さすがに前線からの制限だけでは難しくなった岡山、60分には5-4のブロックを敷き、守勢に回るシーンが見られます。こうした場合に、藤枝はボランチとDFの間にFWが落ちてボールを引き出し起点を作るプレーを見せます。
ただサイドを使うだけでなく、中盤も使いながらサイドを使っていくイメージです。
中央はしっかり締めたい岡山としては、サイド一辺倒とならなかったのは幸いだったのかもしれません。縦パスをカットしてショートカウンターを図ろう、というシーンが後半に入り何度もありました。
藤枝のボールロスト位置になります、藤枝陣内低い位置でのロストの数がかなり多くなっています。それだけ高い位置でのボール奪取が多かったことが窺われます。
先制点はそのショートカウンターから生まれました。
相手からボールを奪ったのは後半で4回目、カットしたのは実に7回目、なかなか奪った後を仕留められない展開でしたが、ようやく実を結んだのがこの先制シーンでした。
ルカオの守備、岩渕のシュートが見事なのはもちろん、岩渕の守備の良さも光ったシーンだったのかなと。川島からの縦パスのコースを消しながらの守備、それでいて右サイドへの展開にも対応できるポジショニングを取れていました。だからこそ、ルカオのボールカットに素早く反応しボールを持ち運ぶことができたのだと思います。
畳み掛けるように、68分にはGKからのフィード、パスコースを消しに行っていた岩渕がボールを奪取、ボランチ2人のつなぎからフリーで抜け出した神谷へのスルーパス。前出のプレーでパスカットされた川島が取り返そうと言わんばかりのカバーリングを見せてCKに逃れます。
そのCKから、勝負を決める2点目が転がり込みました。
プレースキックの蹴り手が神谷に変わってのCK。セットプレーとしては後半2本目でしょうか。一本目は後半開始直後、岩渕が蹴ったボールにニアで鈴木喜丈が合わせてGK正面をついたプレーでした。
この一本目、ニアに簡単に飛び込まれた、という意識が藤枝の中にはあったかもしれません。岡山もターゲットになる阿部やルカオといった面々が一気にニアに飛び込み、完全に守備側の意識がニアにいった局面でした。
フリーで待ち構えた田部井のヘッド、待望の今季初ゴールでした。
この後も藤枝が攻めようとしますが、最終ラインのボール保持からロングボールを蹴り込むシーンが多く、岡山のDFラインが冷静に対処できていたように思います。
逆に岡山からのロングボールはうまくルカオが収め、キープできていましたね。
DAZNでの実況ではゲームクローズに関することにも触れられていました。
光るのは太田のキープしてサイドで運んでいく能力の高さでしょうか。ここのところの勝ち試合では、彼のキープを含めたゲームクローズに向けたプレーの質の高さが目立っているように思います。
クローズに関するところで言うと、90+3分のところのプレーは少し思うところもありまして。5-3-2の形で構えていたところ、藤枝の選手たちが右サイドに寄ったシーンでした。末吉が前へ出て対処しようとしたところを裏を取られて岡山側左サイドを破られクロスを上げられる形となりました。
藤枝もサイドを取れた場合はエリア内の人数が少なくてもクロスを優先するチームでしたので、大きな問題には繋がりませんでしたが、右サイドで2対1を作れる局面でしたのでもっとサイド深く、エリア付近まで侵入もあり得る状況でした。
5-3-2で守る際のカバーの約束は改めて確認しておいてほしいところでもあります。ゲームクローズが重要な局面に突入してきましたので。
3.結びに
この試合がリーグ戦のホーム最終戦。いい雰囲気の最終戦セレモニーだったと思います。
厳しい中での一瞬見せる和やかな雰囲気もそうですが、自信に満ち溢れた雰囲気をチーム全体から感じられることが非常に良かったです。
1つポイントがあるのが、監督にしても、GATE10の前で挨拶した木村にしても、「後1つ勝って」という表現をしたことですね。
あくまで選手・スタッフは目の前の1試合をどう勝つか、しか考えてないです。それはこれまでの監督や選手のコメントでも感じられたことですが、それを後3試合、と思いたくなるタイミングで「後1つ」と発信したことがチームとしての試合に対する向き合い方、共通認識が取れていることをよく現しているのではないかと思います。
このレビューをご覧になっている方の大半は、次の鹿児島戦に意識が行っていると思っています。大丈夫だと思います。
ただもしPOに意識が行っているのであれば、それは鹿児島戦に向けてほしい、と思っています。
ここからは総力戦、ですから。
鹿児島戦、勝ちましょう。
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