2024 J3 第32節 ギラヴァンツ北九州vsヴァンラーレ八戸 レビュー

今週はJ2はお休み。というわけでJ3のレビューをすることにしました。
先月取り上げた北九州を今回も取り上げます。
前回のレビューはこちら

というわけでもしかするとやや北九州寄りになっているかもしれません。
ご容赦ください。

1.スタメン


スタメン・フォーメーション

北九州は前節とスタメンは変わらず。
北九州は上記レビューの大宮戦以降、一時的に3バックを導入していましたが、再び4バックに戻して戦っています。2−0で勝った29節岐阜戦を見る限りだと試合運びとしてはかなり上手く行っていたので、戦術的な柔軟性のあるチームだなと感じた次第です。
上記大宮戦でスタメンだった牛之濱に代わり高昇辰がスタメン。この試合も含め牛之濱のパフォーマンスが悪いわけではありませんが、高昇辰も直近2試合連続でゴールを決めており、スタメンに定着しています。

八戸も前節からスタメン変更なし。前節J初ゴールを決めた加藤もスタメンで、彼の存在がゲームの結果を大きく分けた形となりました。

2.試合

北九州は4-2-3-1、八戸は3-1-4-2のシステムで試合に望みました。

両チームの攻守のポイントを下記に簡単にまとめました。

八戸の攻撃

・うばってからのロングボールが主体。スペースを突くのが狙いか。
・3バック+左右WBというシステム上、4バック相手には横幅を取れる。蓑田からのサイドを変えるボールを入れ前進することも。
・2トップの一角の佐藤は少し降りたポジショニングを取ることが多かった。これにより中盤の守備での数的優位を確保、中盤で奪取しスペースを突くことも。
・ハイプレスからのショートカウンターを見せることもあった。

八戸の守備

・前線からのハイプレスで、北九州の最終ラインのボール保持を阻止するのが狙い。前線は1枚で追うことが多いか。佐藤がトップ下のようなポジションをとり、ボランチへのパスコースを消そうとしている。足りないCBへの寄せのもう一枚はIHが担っていた。ボールサイドのSBに対してIHが出ていって消しに行っていることもあれば、WBが前へ出て対応することも。
・佐藤が降りていることで中盤の数的優位を確保、中盤で奪取しスペースを突くことも。
・セカンドボールの奪い合いになるケースが多数。八戸が優位に奪えていたか。

北九州の攻撃

・永井を目指したボールを多用していた印象。
・起点になる動きとして、八戸のアンカー脇、もしくは降りて2ボランチのような形になったIHの横をとることが多かった。
・八戸攻勢の中で奪うことも多く、特に左サイドで奪うことが多かった。攻撃面、また守備対応の関係で八戸右WB音泉が高い位置を取っている関係上、その裏を取るボールが多く、そこに矢田が流れようとしていた。永井を目指すボールはその次の策として使うことが多い。

北九州の守備

・両サイドの幅を八戸に取られる関係でうまくいかなかった。SBが高い位置を取った八戸WBには対処。
・前線からは割と積極的にプレスに出ていた。前半で言うと蓑田へ永井が、藤嵜には高昇辰が、加藤には矢田が寄せに行く。ただプレスに対しては中盤へのパス、ないしは蓑田からのサイドチェンジのボールでいなされていた。
・八戸のロングボールに対してはCBでの跳ね返し自体はうまくいっていた。ただしセカンドボールの拾いあいのところで後手を踏んだ。

展開

20分頃までは八戸ペースで進んでいた印象です。
その要因となったのが八戸の前線からのハイプレス。特に北九州のボランチからの展開は絶対にやらすまいと、2トップの一角佐藤が常にボランチへのパスコースを消す構えを見せ、CBに対しては2トップを担う佐々木に加え、ボールサイドのIH(永田・山内)がプレスに出ることで中央での組み立てを制限していました。
そうなると北九州としてはサイドを使う形になるのですが、ここに対してもIHがサイドに流れ寄せていく、もしくはWBが高い位置取りをして前進を防ごうとしていました。

まずは北九州のボランチからの展開をやらせない、その上でCBにもSBにもアプローチをかける、奪ったときに2トップが近い距離でいてほしい、といった理由で、佐藤をボランチのケアに専念させ、ポジション柄サイドにも出ていきやすいIHをSBとCBの対応に当てたのだと思います。

当然、IHやWBが寄せに行ったことで空いたスペースができ、そこを使うプレーを北九州は見せます。IHが空けたスペースにはCF永井やトップ下矢田が降り、またWBの空けたサイドのスペースには矢田が基本的に流れてボールを引き出そうとしました。
ただ八戸もそこをやらせず、CBが前へ出る、横へカバーリングすることで防ぎます。スペースをついたボールは簡単に八戸に回収され、八戸最終ラインにボールを保持されることで、北九州はボールの保持がままならない状況が続きました。
前線からのプレスを回避するためにロングボールを前線に送ることも試していましたが、ここも精度が足りず八戸に回収されていました。

13分には八戸のハイプレスから北九州がクリアに近いようなロングボールを前へ送り、八戸が回収、サイドで起点を作りクロスを送ると北九州GK大谷がキャッチミス、こぼれたところを八戸がシュートを2発放つという決定機が生まれます。


ハイプレスに負けショートカウンターを受けるシーンも出てきます。

17分のショートカウンターのシーン。
この試合で多くあった八戸の前線の守備で奪取。

17分には最終ラインで北九州保持のところ、杉山へ八戸IH永田が寄せに行き、杉山の縦パスを八戸アンカー前澤がカットしショートカウンター。永田がカットインしてミドルを放つシーンが生まれます。

北九州が落ち着いてボールを保持し押し込めたのは20分を過ぎてから。
じっくりとボールを保持しながら敵陣に入り込み、サイドを度々変えながらPA内へ侵入する機会を見計らいます。
22分、右サイドで選手を引き付け高昇辰が突破。DFを引き付け矢田へのスルーパス。受けた矢田がダイレクトで内にボールを入れ八戸の守備陣をPA内で崩そうとします。ここは八戸がカットしカウンターに入ろうとしますが、高昇辰がプレスバックしカウンターを阻止。守備の切り替えが光ります。

この後もボールサイドを変え前進し、相手WBを引き出してその裏をつくプレーを見せながら八戸陣内深い位置に侵入しようとします。右サイドにボールを変え、矢田のドリブル突破からファウルを得ると、そこからは北九州のセットプレーのターンが続きます。

しかし北九州がようやく押し込むことができた矢先、一瞬の流れを掴んだ八戸がPKを得ることになります。

八戸のFKをサイドに流れた加藤に競らせたところ、乾がタッチに逃れて得たスローインからでした。
正直スローインの開始のところで半分決まったようなものでした。FKの流れからのため北九州のブロックは中央にかなり圧縮をかけた関係で、ボールサイドがかなり手薄となり、北九州の選手2人に対し八戸の選手が3人いる状況になりました。
そして広い距離感での山内とのワンツーで加藤が抜け出し、乾に倒されPK。
結果的にPKにはなりましたが加藤が倒された時点でPA内・付近に八戸の選手が加藤も含めると8人入り込むシチュエーションも作られており、ボールサイドにもエリア内にも人数をかけた局面を作り出すことができました。八戸としては得点を奪うための準備としては充分にできていたように思います。

北九州が対抗するには、永井がサイドの守備に関わりにいくほかなかったです。永井としては中央にいる前澤へのパスコースを消したい守備をしていましたが、矢田のポジショニングを見てサイドの守備に関わりに行く判断があってもよかったように思います。自陣深い位置でのスローインかつボールサイドで数的不利を作られ簡単にPA内に侵入される状況なので、持ち場を離れても守りに行くプレーが求められるシーンでした。
もっとも永井が守備に関わろうにも、このシーンのように右サイドでの守備であっさり抜かれてしまうと間に合わなかった可能性もありますが…。

また高吉のカバーの早さ、PA内中央をしっかり固められている状況を見る限り、乾が止めに行かずとも得点には至らなかったような気はしています。乾も加藤に前を取られ侵入されたことで焦りが出てしまったのかもしれません。

先制点を奪ったことで、以降の時間帯は八戸が優位に進めたでしょうか。
攻め手はショートカウンターに限りません。八戸の攻撃のポイントでも触れましたが、2トップの一角の佐藤が少し低い位置を取ることで、中盤の中で数的優位を作り出すことができており、WBやIHが絡んだ攻撃で前進していました。
また最終ラインに戻せば北九州の前線からのプレスが襲いかかりますが、そこを回避して蓑田からのサイドチェンジ、あるいは前線で起点を作ってから散らす形で右サイド音泉が中心となり幅を使った攻撃も見せていました。
45分にはまたもスローインから、加藤が攻撃参加しサイドでの数的優位を確保し、右サイドを抜け出した音泉からのクロス、あわやオウンゴールというシーンを作ります。

北九州も攻め手を見せます。
起点になったのはIHの後ろのスペースを使おうとする永井や矢田のプレー。
43分手前、北九州最終ライン組み立ての際に杉山が持ち運んだところに佐藤がつき、IH永田が北九州右SB坂本に寄せに行きます。その際永田が空けたスペースに矢田が降り、藤嵜を引き寄せます。藤嵜の空けたスペースに矢田が走り込み、坂本がロングボールを送る、というシーンを作ります。ここは蓑田がカバーし八戸は事なきを得ましたが、八戸の5バックの誰かを前へ釣り出しスペースを作ろうという意図が見て取れます。

後半、北九州としては仕切り直して攻勢に出たいところだったと思いますが、開始早々に八戸に追加点が生まれます。

蓑田がボールを持ち、永井が寄せに行ったところ、寄せ切られる前に早めに左サイド安藤へサイドチェンジ。安藤が坂本を引き付けると空けた杉山との間のスペース、ポケットを取る動きをした永田がそのスペースをつきます。安藤が永田へ預けると、PA内でカットインしシュートを枠右隅に突き刺しました。

ゴラッソなのは間違いないところですが、ポイントだったのはシュートではなくクロスを選択しても大きな決定機になっていたであろうこと。
佐々木がファーからニアへ走り込む動きをしたことでゴール前ファーに走り込むスペースを作れており、マークこそついているものの、井澤の前を取れそうだった佐藤がその空間に走り込めば、クロスから得点を奪い得るシーンにもなっていました。八戸の攻撃のデザインの質の高さがここでも出た印象です。

2点を取られましたが、その後の時間で北九州は攻撃の形を見せます。
永井が左サイドでボールを受けることで八戸WB音泉を前へ引き出し、その裏を後半から投入された牛之濱がつこうとするシーンが何度か見られました。
また選手間の横幅を広く取り、一つ飛ばしのパスを時折見せることで相手のプレスをいなしながら、左右にボールを振ってフリーのスペースを作り出そうともしていました。
47分〜50分と押し込み続け、得点には繋がらなかったものの、押し込んだ流れでファウルを受け、セットプレーも得ました。

その流れで得点できればよかったのでしょうが、52分に決定的な3点目が八戸に入ります。

GKからのロングボールに工藤が競り勝ちますが、落とし先の左サイドに選手がいない状況。ここぞとばかりに八戸の選手が襲いかかります。音泉が井澤を交わして突破、山内がフォローしつつ、大外を加藤が上がる。加藤を使うふりをして音泉がクロスを上げます。何とか北九州も跳ね返しますが、こぼれ球を加藤が拾い、ゴール左奥に突き刺しました。

乾の足が一瞬止まってしまい、加藤に前を取られてしまったところもありますが。このシーンもエリア内に加藤も含め5人、エリア付近にいるサイドアタックに関わった音泉・山内も含めると7人が関わっている。攻撃に人数をかけたからこそ生まれた得点で、北九州は守るすべがなかなかなかったのではないかと思います。

3点リードされる北九州ですが、ようやく地上戦で前進ができるようになります。
GKも交えた組み立てで八戸のプレスを交わしつつ、井澤からワンタッチでアンカー脇に降りた永井へ。ダイレクトで裏を取らせるボールを高昇辰に送りますが、ここは動きが合わずボールが流れます。しかし高昇辰が何とか繋いで裏へ飛び出した牛之濱へ、というシーン。オフサイドにはなりましたが、ここまで何度か起点になる動きを見せるもののボールが集まらなかった永井を起点に、相手の嫌なエリアに侵入できるようになります。
58分にはカウンターからワンツーを受けた永井を起点に右サイドの深い位置まで侵入し、ブロックの間を通すクロスを上げると、永井が相手選手を引き付けたところで岡野がフリーで受け、反転してのシュートを放ちます。シュートは八戸GK飯田にセーブされますが、一矢報いようと盛り上がりを見せます。

ただ決定機と呼べるシーンはこのシュートのみにとどまりました。
後半途中からは北九州のボール保持がかなり続きましたが、攻勢を強めたようにも見えるところです。
後半の北九州の攻撃としてはアンカー脇、もしくはIHが降りた脇を起点にサイドを使い、そこからのクロス、という流れが多かったです。サイドアタックからのクロスというのはチーム全体の狙いのように見えましたが、クロス精度を少々欠いてしまったことでシュートを放つことができなかったのは痛かったところです。

ただそれ以上に、前線の選手のDFラインの裏への飛び出し、それを活かしたスペースの使い方が見えなかったのが少々さみしく映りました。

遡って55分のシーンが象徴的でした。北九州の自陣保持から井澤が持ち運び、右サイドでボールを保持し、高い位置で坂本がボールを持ったタイミングで、前線には選手5人が1列に並び、ボールを受けようとしていました。坂本がドリブルでカットインし、ファウルを得たからチャンスになりましたが、永井がボールを受けに降りた程度で前線の動き出しが乏しく、フリーで坂本が持てた機会をふいにしてしまいました。
クロスによる攻撃で攻め込むことを前提に考えるのであれば、八戸左WB安藤を引き付けた裏をとる動きであったり、アーリークロスを呼び込むためのDFラインの裏へ走り込む動きであったり。ボールを呼び込む姿勢がほしいところでした。

そう考えると、アンカーやIH脇を使おうとしたのはあらかじめスペースがあったからで、特に終盤は八戸の最終ラインと中盤のスペースが空きがちだったことから優勢を強められた、ただサイドで蓋をし、中央でやらせない守備を見せた八戸の守備をこじ開けられなかった、というほうが正しいのかもしれません。
このあたりは前半幾度となくWBの裏のスペースを狙っていた矢田を前半で下げたことが影響していたかもしれません。

八戸の3点を取った後の攻撃はロングボールで前線に起点を作って攻め込む、奪われたら前線からのプレスで奪取を狙うというもので、北九州はロングボールの回収、プレスの回避という点では後半こなせていたので、攻撃の部分にもったいなさを感じました。

3.その他

・失点にこそ絡みましたが、乾の技術の高さ、配球のセンスは光るものがありました。八戸の選手が寄せてきたところを交わしての低い弾道のサイドチェンジだったり、85分に見せた牛之濱とのワンツーだったり、視野の広さをベースにしたプレーが魅力的な選手だと思いました。

・八戸の守り方だとIHには相当の運動量が求められます。フル出場の山内、途中交代しましたが永田の2人がタスクを完遂したこと、見事だったなと。
2点目も奪った永田はこれでシーズン8得点目、守備のタスクの厳しい中でのこの得点数は素晴らしいの一言に尽きるかと思います。

彼は岡山出身、ヒーロ備前から岡山学芸館に進学してプレーした選手です。ファジアーノと岡山学芸館のつながりは言うまでもありませんが、ヒーロ備前は90年代に岡山にJリーグのクラブをと活動されていた方が、総合スポーツクラブを作ろうと設立されたクラブです。(OBには彼と現柏レイソルの島村拓哉がいます。)

そういう背景もあって、永田選手のことは気になっていましたが、改めて見て素晴らしさを実感した次第です。

・今節で大宮の昇格が決まりましたが、J3の昇格プレーオフ争いは大混戦。残り6試合で4位〜13位が勝ち点差5の間でひしめきあっています。この試合で八戸も北九州との勝ち点差を3に、6位とは2差に縮めました。

https://footystats.org/jp/japan/j3-league/form-table

リンクの埋め込みができませんが、ラスト6試合ということで直近6試合の調子がわかるリンクを貼っておきました。直近では鳥取(13位)が5勝1分、FC大阪(4位)が4勝1分1敗と好調ですが、その他のチームは一進一退といったところでしょうか。ますます目が離せない状況になっています。



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