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サンプルシナリオ②『桜恋散華』(プロローグのみ)

●タイトル:
桜恋散華

●ジャンル:
学園ディストピア系

●ボリューム:
18KB(約9000文字)
※中編ノベルゲームのプロローグを想定

●執筆時間:
未計測(おそらく10時間前後)

●スタイル:
ゲームシナリオ(ノベルゲーム)
メッセージボックス内制限 25字×3行

●目標:プロローグ単体での完結感、今後に向けた設定や伏線の提示

●あらすじ:
泉流の所属する聖供高校文芸部は人数不足で廃部の危機に陥っており、ただ一人見学に来た新入生の少女も逃してしまった。後日、泉流は先日の新入生が学校を脱走しようとしているのを偶然発見する。少女を捕らえて説得を試みる泉流だったが、そこで学園の外を徘徊する「虚の先導者」と呼ばれる怪物に出会ってしまう……

●キャラクター:
・守谷泉流(もりやいずる)
高校2年生。文芸部唯一の男子生徒。
中学まではバスケ部だったため運動神経が良い。
去年卒業したとある先輩のことが忘れられない。
見た目:高身長・黒髪

・佐倉咲花(さくらさきか)
高校1年生。入学早々脱走未遂をする。
基本真面目で礼儀正しいが物怖じしない性格のためトラブルを引き起こしがち。
気を許した相手には口数が多くなる。
見た目:小柄・茶髪

・桐藤結(きりふじゆい)
高校3年生。文芸部部長。女性。
尊大で横暴。口を開けば誰彼構わず毒舌を浴びせる。
非公認組織・風紀委員会の会長として日々違反者を捕らえては生徒会に連行しているが、当の生徒会には強い敵愾心を燃やしている様子。無類のスイーツ好き。
見た目:中肉中背・黒髪

・瀬尾沙緒里(せおさおり)
高校2年生。生徒会から派遣された監視役。
誰とでも仲良くなれる天然の人たらしだが他者とは常に一線を引いているようで、生徒会への忠誠もさほど高くない。

・蕾
卒業生。守谷は彼女のことが忘れられない。

※サムネイルにはAIイラストを使用


;プロローグ

【】
春。風は温かく、空はどこまでも高い。
柔らかな陽射しが厳冬の終わりを穏やかに告げ、芽吹く
新芽に抱かれた朝露はさながらおちょこに満ちた酒だ。

【】
何がある訳でもないのにめでたい空気が慢性的に世界を
包み込み、人々は桜の下で呑気に話に花を咲かせる。
老も若も男も女も、まるで桜に魅入られたかのよう。

【】
だが花はいつか散る。話の種もいつか尽きる。であれば
憩いのひと時もその命運からは逃れられないのだろう。
そして特に桜は儚く散ってしまう。

【】
そうしていると春の夜の夢よりも淡い桃色がまた一片、
枝の先から零れ落ちて教室の窓から入り込んできた。
戸惑うように揺れたそれはやがて俺の元に訪れる。

【】
開いた本の頁に静かに不時着したそれは、目を凝らして
みるとただの花弁ではないことに気づいた。
華奢な手足、羞恥に染まる頬、形のいい桜色の……

;bg:部室

【結】
おい、なんだこれは。
なんでそれっぽい春の描写から急に美少女がタオル一枚
身体に巻いてこちらを睨んでる状況に出くわすんだ。

【泉弦】
いや……そういうのが求められてるのかなって。
ほら、最近は長々した描写なんて誰も読まないじゃない
ですか。それならこういう方が話題性もあって面白……

【結】
……ふんっ。

;SE:紙が散る音

【泉流】
ちょ、バラバラに撒き散らさないでくださいよ!
人が書いたものをそんな雑に……

【結】
確かに話題性にはなるだろう。悪名に違いないがな。
貴様はTPOというのを知らんのか?こんな汚物を入学
早々読まされる新入生の気分を考えたことはあるのか?

【泉弦】
先輩こそ俺の気持ちも少しは考えてくださいよ。
これでも土日返上で書いた労作なんですけど。
それを汚物って……いくら俺でも泣きますけど。

【結】
ほう、貴様に心なんてものがあったのか。
こんな厚顔無恥も甚だしい暴挙に出るくらいだから正直
人間に擬態した不燃ゴミくらいに思っていたのだが。

【泉弦】
壊れる!俺の繊細な硝子の心が今まさに音を立てて砕け
散ろうとしている!

【結】
はっ、さっさと砕け散るがいい。
せいぜい良い声で鳴くんだな。下衆が。

【泉弦】
これ訴えたらイジメで通るレベルじゃないかな!?

【沙緒里】
……あのー。
部外者の私が口出しするのもどうなのって話だけど。
新入生ちゃん、困ってるよ?

【咲花】
……。

【泉弦】
あ。

【結】
……ふん。

【】
ヤバい。全然気づかなかった。
……ってあれ?この子……

【咲花】
……失礼しました。

【泉弦】
あ、ちょ、待て待て待ってくれ、今のは違うんだ。
無視してたとかじゃなくて気づかなかっただけだから!
本当は諸手を挙げて歓迎するつもりだったから!

【泉弦】
そうだ。せっかくだしお茶菓子でも食べてかない?
新入生を釣るために部費で蕉風堂の羊羹を……ない!?
ま、待って!確かに買ったはずなんだ!一体どこに……

【結】
諦めろ守谷。物事は一期一会だ。桜も、人も、羊羹も。
形あるものはじき潰えると言ったのはお前じゃないか。
大事なのは一瞬の感動を記憶すること。そうだろう?

【泉弦】
史上最低にカッコつけた言い訳だよ!?
あんだけ注意したのに食っちゃったの?バカなの?
今年新入生入んなかったら廃部だって分かってるの?

【結】
おい守谷……貴様は馬鹿なのか?
そんな裏事情を新入生に聞かせたら入るものも入らない
じゃないか。この能無しめ。

【泉弦】
はぁ~~~?アンタがそれ言うのかよ!?

【沙緒里】
……ダメだこりゃ。

【咲花】
……。

;咲花 退場

【泉流】
ま、待ってくれ!
少しだけでもいいから話を!

【結】
やめろ守谷。
みっともない姿を晒すな。
せっかくの玉露が不味くなる。

【泉流】
アンタはもう少し危機感持て!

【】
……聖供高校文芸部。
部員、2名。新入生、なし。
まさに廃部寸前の危機だった。

;第一話

;bg:教室

【沙緒里】
……正直さー、別にそこまで部活に拘る必要なくない?
アンタと結先輩の2人だけでしょ?別に部活って形じゃ
なくても放課後一緒に遊べばいいじゃん。

【泉弦】
あのなぁ……別に俺は先輩と一緒にいたい訳じゃ……
第一あれだけ罵倒されてなんで放課後もあの暴君と顔を
突き合わせにゃならんのだ。

【】
抗議代わりにパック牛乳を音を立てて啜った。
自販機で買ったコイツは俺の昼のお供だ。
コイツがないと昼休みが終わった気分にならない。

【】
「高身長になりたい」と毎日牛乳を飲んでいた幼年期。
その努力の甲斐あったのか、俺の身長は180cm後半
まで伸びた。とはいえほぼ遺伝で決まるらしいが。

【】
しかし自販機で牛乳が買えるのは助かった。
田舎に住み始めて早一年、都会と比べて利便さで劣ると
感じる場面は多いが、偶にこういう利点もある。

【沙緒里】
あれ、違ったの?
てっきり罵倒されるのが好きなのかと。

【泉弦】
俺はそんな特殊性癖じゃない。

【沙緒里】
へー。じゃあ何で?
なおさら部活に残る意味ないじゃん。

【泉弦】
それは……色々あんだよ。
それより沙緒里、お前だってあそこが使えなくなるのは
嫌じゃないのか?あれだけ入り浸ってるくらいだし。

【沙緒里】
アタシ?んー、別に?
バイトまでの時間つぶし以上の思い入れはないかなぁ。
別になくなっても次は別の部にお邪魔すればいいし。

【泉弦】
さすがコミュ力お化け。
一時の腰掛けには困りませんってか。

【沙緒里】
ん、なんか棘ある言い方。
そんなに大事なの?

【泉弦】
……。

【沙緒里】
……ま、いいけどさ。
アタシもそんな興味ないし。

【】
沙緒里はくわと欠伸を漏らした。
この適度な無関心さが心地いい。

【】
人付き合いが良い方ではない俺がこうして気楽に昼飯を
食えているのも相手が沙緒里だからだ。
他の女子ならこうはいかない。ましてや先輩なら尚更。

【】
ちなみに俺と沙緒里が一緒に飯を食っていてもクラスの
奴にからかわれる心配はない。コイツは誰とでも一緒に
いるしどのグループにも属さない。そういう奴なのだ。

【泉弦】
……ま、そこまで固執するほどでもないんだけどな。

【沙緒里】
ん?何が?

【泉弦】
部室の話。ちょっとした約束があったんだよ。
とはいえ大層なものじゃなくて何気ないやり取りの中で
生まれたものに過ぎないけど。

【沙緒里】
ふーん。案外義理堅いんだ。

【泉弦】
そんなもんじゃない。
テスト返却で先生も見過ごした些細な間違いに気づいた
感じだよ。ほんの記号の違い、ケアレスミス程度の。

【泉弦】
それを伝えるべきか、それとも無視するべきか。
別に言ったところで1点変わるかどうかってくらいだし
それくらいなら言わなくていいかってなるくらい。

【泉弦】
でも自分の中では何となく気にかかるから結局その部分
だけ復習するんだ。
たとえそれがほぼ無駄だって分かっていても。

【沙緒里】
要は自分が気持ち悪いからやるって訳ね。
ふふっ、アタシにも理解できるな、そういうの。

【】
これだ。この笑顔が沙緒里を人気者たらしめている。
この整った美貌から放たれる屈託のない笑みに老若男女
問わず多くの人間がコロっといってしまう。

【】
もし彼女が「高校では誰とも付き合わない」と公言して
いなかったら今頃毎日のように体育館裏に呼び出されて
いたことだろう。そのくらい彼女は天然の人たらしだ。

【沙緒里】
……ん?どしたの?
急に黙っちゃって。

【泉弦】
い、いや。ただそろそろ潮時かなって思っただけさ。
言っちゃアレだけど、あの部活に未来なんてないしな。
大した活動をしてる訳でもない。

【泉弦】
ただ部室に入り浸って勉強したり映画を見たり。
年に数回部誌を作るけど、それだって別に賞がもらえる
ような代物じゃない。ただの自己満足だ。

【泉弦】
沙緒里の言う通りあそこじゃないと出来ないことなんて
ひとつもない。なら同好会の奴らに譲ってやるべきだ。
山岳同好会なんてウチの3倍はいるからな。

【泉弦】
だから……まぁ、時代の流れってやつなんだろう。

【沙緒里】
ふーん、世知辛いね。

【】
沙緒里が大して興味もなさそうに窓の外に目を向ける。
桜色の唇が杖にした右手に隠れる。風が前髪を撫でる。
それだけで彼女は絶世の美少女だった。

【】
……と、その藍色の瞳が意外そうに開かれる。

【沙緒里】
あれ……あの子、昨日の子じゃない?
なんであんなところに……

【泉弦】
ん?……おい、何やってんだアイツ?

【】
窓の遥か下、山に面した校庭の鉄格子のすぐ傍に少女が
いた。俺は目が悪いから判別つかないが、視力2.0の
沙緒里が言うには間違いなく昨日の新入生だという。

【】
彼女は手にした荷物を鉄格子の向こう側に放り投げた。
そして太腿が露わになるのも気にせず豪快に右足を網に
引っ掛ける。

【沙緒里】
……マズいね。
あの子まだ"あいつら"のこと知らないのかも。

【沙緒里】
どうする?
ひとまず結先輩を呼びに行って……

;SE:ノイズ音

;bg:過去の風景(ぼんやり)

【???】
『泉流くんはさ、きっと素敵な人生を送れるよ』

;SE:ノイズ音

;bg:教室

【沙緒里】
……泉流?
聞こえてる?おーい。

【泉弦】
……クソッ!!

;SE:椅子が鳴る音

【沙緒里】
あっ、泉流!?

;bg:階段

;bg:下駄箱

;bg:校庭

【】
靴を脱ぐのも億劫で上履きのまま校庭に出る。
あの馬鹿新入生が。大人しそうな風貌に似合わず大胆な
ことを。人は見かけによらないということか。

;bg:山際のフェンス

【泉弦】
おい!待てって!そんなところで何やってる!
自分が何してるのか分かってるのか?

【咲花】
……っ!

;SE:走る音

【泉弦】
おい、待てって!
……クソッ!

;SE:金網の音

【泉弦】
今すぐ止まれっ!
じゃなきゃ大変なことになるって!

【咲花】
はっ……はっ……

【】
クソッ……意外にすばしこい。
だがそっちは……

【咲花】
……っ!?

;bg:崖(上)

【泉弦】
ふぅ……一旦落ち着けって。

【咲花】
はぁっ……しつこっ、いっ、ですっ……!

【泉弦】
待て、別に先生に突き出そうってつもりじゃない。
ただここは本当にシャレに……

【咲花】
……。
………………っ!!

;SE:土を蹴る音

【泉弦】
なっ……!?

;bg:崖(ぶら下がり)

;SE:掴む音

【】
こんな状況なのに最初に思ったのは細くて冷たい手だ、
なんて我ながら呑気なもので。

【泉流】
って何やってんだバカ!死にたいのか!?
っ……おい!暴れるなって!

【咲花】
っ……!
放せ……っ!

【泉流】
痛い痛い爪を立てるな!
ここから落ちたら怪我じゃ済まないぞ!
それが嫌なら大人しく……

【咲花】
……先輩には関係ないでしょう。

【泉流】
は?

【咲花】
私にはやらなきゃいけないことがあるんです。
こんな場所で油を売ってる暇はないんです。
だから余計なお節介はやめてください。

【】
……。

【泉流】
━━はーっはっは!

【咲花】
っ!?

【泉流】
奇遇だな。俺もつい今しがた用事ができたところだ!
生意気な新入生に説教するって大事な用事がな!
だからそれまで何があってもこの手を離さねぇ。

【咲花】
は、はぁ?

【泉流】
残念だったな新入生!
俺は一度決めたことは絶対に曲げない主義なんだ。
恨むなら俺に見つかったお前の運の無さを恨め!

【咲花】
……は。馬鹿なんですか。
そんなどうでもいいことに命を賭けるなんて。
さぞ充実した人生を送ってこられたんでしょうね。

【泉流】
さぁな。
だが今後少なくともお前の手を握らなかった人生よりは
充実するだろうよ。

【咲花】
……。
……は。
馬鹿なんですね、先輩。

【】
字面とは裏腹に食い込んでいた爪が外される。
口は悪いが、どうやら諦めてくれたらしい。

【咲花】
……で、ここからどうするんですか?
まさか腕一本で女子高生を引き揚げるつもりで?
文芸部の先輩にそんな芸当ができるとはとても……

【泉流】
まあ見てなって。
━━ぬおおおおおおおっ!!

;SE:地面が擦れる音

【咲花】
……っ!?
う、嘘……

【泉流】
あともう少しいいいいいいいいいい!
気張れ俺えええええええええええええ!!

;SE:地面が擦れる音

【咲花】
が、頑ば……

;暗転

【】
━━からん。

【】
……それはひどく静かな、しかし決して聞き逃すことの
できない音。

【】
からん、ころん。

【】
ぽっとランタンに青白い炎が灯る。
ソレを眩しいと感じたことで俺はいつの間にか闇の中に
取り込まれていたのだと知る。

【】
ぼろきれのような外套。摩耗で白くなった木の一本足。
胸の前で重ねられた白骨。顔は暗くてよく見えない。
錆びたランタンの中で青白い炎が揺れている。

【咲花】
何が起き…………先輩…………聞こえ……!!

【】
音が急速に遠のく。四肢の感覚が薄弱でどこからが自分
なのかが分からない。それどころか自分が誰だったのか
何を考えていたのかすら分からない。

【咲花】
……先ぱ……!!…………丈夫で………!!

【】
自分というものが解体されていく感覚。
そもそも「自分」とはどういう意味だったか。
何も覚えていない。何も分からない。ただ、怖い。

【】
そして、目の前では青白い炎が揺れている。

【???】
━━はぁぁぁぁぁあああっ!!!

;SE:発砲音

;暗転解除

【泉流】
……っ!
うおおおおおおおっ!!

;bg:崖(上)

;SE:地面を擦る音

【咲花】
痛……ったあ……

【泉流】
はぁ……はぁ……
ありがとう、ございます……先輩……

【結】
例には及ばん。
アレを追い払うのは実に気持ち良かったからな。
駄文に汚された原稿用紙も処理できて一石二鳥だ。

【泉流】
……ってそれ俺の作品じゃないですか!?
それを紙鉄砲にって……うわっ、破けてる!

【沙緒里】
いやー、間に合って良かったよ。
あと一歩遅かったらどうなってたことやら。

【咲花】
……!!
そうだ、今のは一体何なんですか!?
急に目の前が真っ暗になって、空気も冷たくなって……

【沙緒里】
ああ、あれは……

【泉流】
……俺たちは「虚の先導者」と呼んでいる。
魂を喰い、人を人でなしに作り変える外道だ。

【咲花】
虚の先導者……

【結】
それより新入生。
脱走なんていうこの学園における重罪を犯したんだ。
無論、それ相応の覚悟が出来ているんだろうな?

【咲花】
……っ!

【結】
規則には重大違反者の身柄は生徒会に引き渡すよう記載
されている。
まあ良くて謹慎、悪くて投獄だろうな。

【結】
どうだ?これから人生の繁忙期と言える青春時代の大半
を棒に振ることが決定した心境は?

【咲花】
なっ……!?
ま、待ってください。投獄って、なんですかそれ。
たかが学校ですよ。そんな横暴が許されるわけ……

【結】
許される?はっ、無能の典型だな貴様。
何らかの手違いとやらで無理やり入学先を変えられた時
に多かれ少なかれ気づいたはずだろう?

【結】
この学校……失礼、この監獄に自由なんぞ存在しないと
いうことにな。

【咲花】
っ……そんな……

【結】
……さて、考えなしの馬鹿共を屠殺場に送るか。
おいそこの牡馬。その牝鹿を生徒会室まで連れて行け。

【泉流】
……ん?
ちゃっかり俺も生徒会送りにしようとしてません?

【結】
当たり前だ。
許可証もなしに無断で区域外に出たのはお前とそこの女
の2名だからな。

【結】
はっ、隙を見せたな馬鹿め。
貴様の劣情のこもった視線と鼻息にはほとほと嫌気がさ
していた。とっとと馬刺しに転生してこい。

【泉流】
それ生が巡ってないんですけど。終焉なんですけど。

【沙緒里】
あははっ、やっぱり2人は仲良しだね。

【泉流・結】
なんでだよ。
断じて違う。

【咲花】
……

【沙緒里】
あ、動かない方がいいよ。
結先輩、逃げた人を痛ぶるのが好きだから。

【咲花】
っ!

【結】
……ちっ。
沙緒里、余計なことを言うな。

【泉流】
その性格で今までよく捕まりませんでしたね。

【結】
私は貴様とは違って時と場所を選ぶ人間なんだ。

【咲花】
……異常者め。

【結】
……何と?

【咲花】
い・じょ・う・しゃ・め。

【沙緒里】
あちゃー……これは流石に……

【結】
……っはっはっはっはっは!
まさかまさか……こんな蛮勇が……っくはははは!

【結】
貴様、もしやここに来る前は芸人志望だったのか?
こんなに笑ったのはいつぶりだろう!ふはははは!

【結】
……ふぅ。
さて、殺すか。

;SE:刃物の音

【咲花】
っ!?

【沙緒里】
え、それは流石にマズイんじゃ……
先輩たちは一応非公式なんですから。
そこまで行くと私も上に報告せざるを……

【結】
知らん。殺す。

【沙緒里】
ええ〜……

【沙緒里】
(……ゴメン泉流、何とかならない?)

【泉流】
(……はぁ。
まぁ、何とかしてみるよ)

【結】
新入生、和歌や俳句の素養はあるか?
辞世の句を詠む暇くらいは与えてやるが。

【咲花】
は、はは。何ですかそれ。時制?
なんで異常者の趣味に付き合ってあげなきゃいけないん
ですか。

【結】
はぁ……教養のない人種はこれだから困る。
その蛮勇も無知故のものか。下らない。

【結】
来世ではもっとマシな頭を持って生まれるんだな。

【咲花】
……ひっ!

;SE:立ち上がる音
;SE:腕を掴む音

【咲花】
……へ?
あ、あれ……

【結】
……なんのつもりだ?

【泉流】
先輩、この子を文芸部に入部させませんか?

【咲花】
っ!?

【結】
何故だ?その行為に何のメリットがある。

【泉流】
この子が入れば3人になるので廃部は阻止できます。
いくら文芸部が隠れ蓑に過ぎないとはいえ、なにもせず
潰すには勿体無いじゃないですか。

【結】
新入部員がコイツである必要はないだろう。

【泉流】
でもこの子以外誰も来なかったじゃないですか。
無理やり連れてきても先輩の圧でみんな逃げちゃうし。
切り札だった羊羹も全部食べちゃうし。

【結】
それは貴様が美味しそうな羊羹を買ってきたのが悪い。

【泉流】
……そ、そうですか。
あー、いえ。やっぱそうっすよねーあはは。

【泉流】
えー、話は戻るんですけど、その点この子は弱みを握れ
てるから安心ですし、運動神経も良さげだったから多少
荒事もこなせそうですし。

【結】
それ以上に問題事を呼び込みそうだがな。

【泉流】
でも先輩、それはそれで楽しいでしょう?

【結】
……ふん。

【】
『それ先輩が言うんですか……』
という言葉は飲み込んだ。偉い。

【泉流】
そして入学して数日で脱走する実行力と先輩にも物怖じ
しない精神力。
今の聖供一般生にこんな子が果たして何人いるのやら。

【結】
……ふむ。

【泉流】
どうですか先輩。個人的にはかなり有望に見えますが。
何なら体験入部という形で一度試してみてもいいんじゃ
ないですか?

【泉流】
ひとまず目先の活動調査が終わるまで表向き入部させて
無事部の継続が認められてから最終的な判断をするって
いう手もありますし、一度入れてみるのは結構……

【結】
いや、そういうのは要らん。
変に中途半端なのは駄目だ。誰にとってもな。

【結】
……なるほど。
泉流、貴様の考えは理解した。
確かにこいつを入部させるメリットはあるだろう。

【結】
だが私がこいつのことが好かん。
だから要らん。以上だ。

【泉流】
先輩、でも……

【結】
でもも何もない。私が要らないと判断したんだ。貴様は
黙ってそれに従え。
今までもそうしてきただろう?

【泉流】
分かっています。
ですが先輩、もう一度だけ考え直してもらえませんか。
この通りです。お願いします。

【沙緒里】
……わお。

【咲花】
……

【結】
……はぁ。
貴様、何故そこまでしてこの小娘に拘る?
まさか知人という訳でもないだろう?

【泉流】
それは……何というか……

【結】
……ふん。まあ貴様の考えなど聞きたくもない。
……
…………はぁ。

【結】
もう知らん。好きにしろ。
だが貴様が管理しろ。何かあったら全て貴様の責任だ。
不快だと思ったらいつでも切るからな。

【泉流】
……!ありがとうございます先輩!!

【結】
おい小娘。貴様は只今より聖供高校文芸部の一員だ。
そして非公式委員会、聖供風紀委員会の一員でもある。

【咲花】
……風紀?

【結】
拒否権はない。教育係にはそこの駄馬を当てがう。
部室は北棟4階廊下突き当たりのD408だ。
何か言いたいことはあるか、小娘。

【咲花】
……その小娘っていうのやめてもらえますか。

【結】
ふん。なら馬鹿娘でどうだ。

【咲花】
……佐倉咲花です。「佐倉」でお願いします。

【】
!!……やっぱり。

【結】
なら咲花。私は桐藤結だ。

【咲花】
……

【結】
せいぜい私の機嫌を損ねぬよう振る舞うんだな。
私は先に戻る。生徒会の馬鹿共に報告せねばならん。

;SE:歩く音

【沙緒里】
えーと、佐倉ちゃんだっけ?アタシは瀬尾沙緒里。
ほんとは部員じゃないんだけど部室にはよくいるから。
分からないことは何でも聞いてね。よろしくー。

【咲花】
え。あ、ハイ。
よろしくお願いします。

【沙緒里】
……っと、もうこんな時間。
アタシ先戻ってるから。2人も遅れないようにねー。

;SE:走る音

【泉流】
俺は守谷泉流。まあその、よろしく。

【咲花】
……

【泉流】
あー、すまん。色々勝手に決めちゃって。

【咲花】
……色々言いたいことはありますが。
まずはありがとうございました。

【泉流】
えっ!?あ、あぁ。どういたしまして。

【咲花】
そこまで驚かなくてもいいじゃないですか。
まるで私がヤバい奴みたいに……
いえ、実際ヤバい奴でしたよね。すみません。

【泉流】
は、はぁ……

【咲花】
それともヤバい後輩の方が先輩的には好みでしたか?
あんな横暴の権化みたいな人の下に好き好んでいるくら
いですもんね。

【泉流】
いや断じて違う。
頼むから今のままでいてくれ。

【咲花】
当たり前です。私基本的には真面目ですから。
はぁ……で、先輩。聞きたいことは山ほどありますが。
まず最初に。

【咲花】
なんで私を助けたんですか?それも2度も。
先輩とは初対面ですよね?
なのに身体を張ってまで助ける理由が分かりません。

【咲花】
……もしかして下心?

【泉流】
なっ、そんな訳ないだろ!

【咲花】
うたがわしい……
桐藤先輩にも劣情とかどうとか言われてたし。

【泉流】
むしろ俺が本当に下心に命張れるレベルの変態だったら
すでに先輩に殺されてるって。

【咲花】
それもそうですね。
じゃあ何でですか?

【泉流】
ああ、それはだな……

【】
『キーンコーンカーンコーン』

【泉流】
あ。

【咲花】
嘘っ、早く戻らないと!
次の授業……うわっ、しかも移動教室だし!最悪!
う〜、入学早々遅刻だなんて絶対目付けられる……

【】
ついさっきまで脱走しようとしてた癖にそんなこと気に
するのかよ。
やっぱり根は真面目なんだろう。

【咲花】
先輩!ほら、ボサっとしてないで!
一緒に行きますよ!

【泉流】
ああ、分かっ……

;回想スチル挿入

【】
『泉流くん。ほら、ぼーっとしてないで』
『一緒に行こう?』

;スチル消去

【咲花】
……せーんーぱーいー?
何してるんですか。早く先行ってくださいよ。
私帰り道分かんないんですから。

【泉流】
あ、ああ。悪い。
こっちだ。

【】
……このとき、もっと咲花と話しておけばあんな事には
ならなかったのかもしれない。
蕾先輩のことを咲花に伝えていれば、咲花は……

【】
桜の花弁は舞い落ちる。
ほんの少し目を離した隙にすぐに散ってしまう。
そんな当たり前のことすらこの時の俺は知らなかった。

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