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名前のない世界の物語
目を開くと、そこは、見たことのある知らない世界が広がっていた。
その世界の全ては、知っていると感じる。でも、頭の思考は、知らないという。
触れるもの、聞こえて来る音、目に見えるもの、その場の空気が作り出す、微妙な香りさえ、知っていると感じる。
それでもやはり、ここはどこだろうと思いを巡らせる。
空間を創り出しているのは、己自身。
あぁ、そうか。
ここは、わたしの場所だった。
いつからあるのかもわからない、その座り慣れた椅子に腰をかける。
そこが、家の中なのか、外なのか。
それは、これから少しずつ理解していこう。
それでも、その場所は、恐ろしいくらい居心地がいい。
そこにあるのは、無。
ただ、それだけだった。