hideを聞くと泣いてしまう

 ロック好きってことがピカピカのバッジみたいに思えた思春期を通り過ぎて、私はあまり「ロックが好きです」と言わなくなった。ロックっていろんな種類があるし、聞けば聞くほど奥が深すぎてロックが好きと簡単に言えなくなっていったし、ロック以外の音楽も好きになったし……いったい何が「本物のロック」なのかという論争も興味なくなった。

 hideの話をしよう。hideは日本の伝説的なロックスターだ!と言われると、私は「やめてー!」と思ってしまう。こういう持ち上げ方をするからhideは「あんなんロックじゃないw」とか言われてしまうのだ。誠に遺憾である。hideはたしかに多くの人を熱狂させたという側面では紛れもなくロックスターだ。異論はない。けれど、hideの偉大さはそこにはない、と私は思う。

 私にとってhideは、くじけそうなときに寄り添ってくれるギターを持ったカッコイイお兄ちゃんだ。クサい言い回しになって自分でもうへぇって思ったけど、これ以外の表現が見当たらなかった。許してほしい。
 学校が辛くてサボってしょんぼりしてたところに、ギターを持った近所のカッコイイ兄ちゃんがやってきて、誰にも真似できない言葉で私をあたためてくれる。周りの大人は「あそこのお兄ちゃんはギターばっかり弾いて何してるかわからないわねぇ」と噂を立てても、「私は知ってる。あのお兄ちゃんがやってるのはロックだ」と心の中で思う。そんなイメージが私にはある。

 そういうわけで私がhideをロックスターだと言うとき、そこに込められているのは音楽的功績だとか世界観だとかの話ではない、個人的な気持ちだ。だから「hideの音楽って本物のロックじゃないよね」と言う人がいたとしても、私は反論せず「誰がなんと言おうと、あのお兄ちゃんは私にとってのロックスターなんだ」と心の中でギュッと思いを強めるだけなのである。

 こう考えると、hide(ソロ)は、実はブルーハーツのヒロトやマーシーと近いものがあるのかもしれない。世間のイメージとしては急逝したX JAPANのギタリストだろうけど、ソロの彼はX JAPANと全然違って、壮大なことよりも身近なことを歌う人だ。

 hideは徹底して弱い立場やくじけそうな人の側に立つ。そういう人々がひとりぼっちにならないように歌っている。hideの書く歌詞には一貫してそのようなテーマがあると思う。

 たとえば。hideは「LEMONed I Scream」という曲を書いている。「LEMONed(レモネード)」はhideの造語で、不良品を表すスラングのLEMONにed(過去形)を付けた、「元不良品」という意味だ。彼のまなざしは、周りから不良品と思われて生きづらさを感じている人へ向けられている。

I've got a sweet broken hearted machine
but I like it,like it.
Oh,what a sweet monster people,
It's a lemon,lemon,lemoned I scream!

LEMONed I Scream/hide

 「悲しんでいる不良品を見つけたけど、僕はそれが好きだ」という歌詞がどれだけの人を勇気づけてきたのだろうか。自分は世の中から爪弾きにされている、そう思っていたらhideがやってきて、君のそういうところが好きだよ、と言ってくれるのだ。不良品でも好きって言ってくれる人がいるんだ、このお兄ちゃんは味方になってくれるんだ! 

 また、hideの歌詞で登場する「君」は、不良品かつ「周囲から理解されない人」として表現される。

デタラメと呼ばれた君の夢の続きはまだ胸の中で震えてる
Ever free 崩れそうな君のストーリー
描ければ見えるのか dream?

ever free/hide with Spread Beaver

Hi-Ho 無駄だらけの そんな君の世界が好き
Hi-Ho もし良ければクダラナイ奴だけ連れて行こうHi-Ho!

Hi-Ho/hide

 「デタラメ」「無駄だらけ」そんな言葉で形容された人々に、はっきり肯定の姿勢を向けていることがわかる。周囲の人が君のことを理解しなくても僕は君を素敵だと思うよ、というアティテュード。

 「無駄だらけのそんな君の世界が好き」という歌詞を初めて聞いたときの衝撃を私は今でも覚えている。発達障害、世間でいう「不良品」で、普通の人と同じように振る舞えなくて、無駄なことばかりしている自分に嫌気がさして悩んでばかりの頃に、この歌詞がものすごく響いた。
 同時に「無駄」が世間で許容されていないことに対してもhideは鋭い視線を向けている。「無駄をなくす」というテーゼがどれだけの人々に窮屈な思いをさせているかについて考えていなければこの歌詞は出てこない。hideという人はどこまでも「不良品」の味方で、きちんと世間の方がおかしいよと言ってくれる存在なのだ。

 有名すぎるエピソードだが、hideは難病の女の子と交流していた。その経緯でおそらく信頼に足る資料がネットに転がっていたので貼り付けておく。

 彼女に宛てて書かれたと言われている「MISERY」は言うまでもなく名曲だ。

降る星の数数えたら泣くのに飽きたろう
笑う月の蒼さ傷をなでて閉じてゆく

MISERY/hide

Stay free my misery 炸裂する痛みが駆けぬけるだけの風ならば
Stay free my misery 雨のち晴れを待とう ほら君の涙を食べちゃおう

MISERY/hide

悲しいと言うならば空の青ささえも
届かないもどかしさに君は泣くんだろう
君の小さな身体包んでる夢は痛みを飲みこみ鮮やかになる

MISERY/hide

 傷、涙、痛み。こうした苦しみのひとつひとつに、hideは丁寧に向き合い、新たな解釈を与える。

 そう、彼は負の言葉をひっくり返す天才なのだ。

 まとわりつく負の言葉。不良品、デタラメ、無駄、傷、涙、痛み……それとともに生きるための新しい解釈をhideはくれる。もがきながら生きていくことを素敵だと彼は言ってくれる。

 ここまで読んでくれた人はなんとなくわかってきたと思う。わかってくれたらうれしい。彼はやっぱり、弱い立場の味方。偉大なロックスターというより、もっとこちらまで近づいてきてくれる人だ。

 つらつらと乱文を書いたが、ここで筆を置こう。音楽面の功績はググればたくさん出てくる。私が書きたかったのはそういうことではなく、hideがどれだけ優しい人なのか、という一点なのだから。

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