【保健室】5限目_中学2年生
保健室にはいつも人が集まっていた。
本当に体調が悪い子に加え、精神的に追い詰められて具合を悪くしている子や純粋に授業に出たくなくて仮病を患う生徒たちで一杯だった。
保健室のS先生は時々、
「あぁ、もうあんたたちは風邪なんてひいてない!教室戻りな!!」
と叫んでいた。
それもそうだろう。
仮病の生徒を保健室に溜めておこうものなら、当然職員室から指導が入るだろう。
私もよく保健室を利用していた。
でもやっぱり追い返されたりしたような気もする。
授業も出ず、あんなに保健室を利用していて、当時の私は大丈夫だったのだろうかと思うほどに利用していた。
体調不良ということで保健室に通ったはずなのに、保健室での思い出は世間話ばかり。
忘れられないのは、出汁の話だった。
前日の部活内で先輩たちが「あのメーカーはまずい」とインスタント味噌汁の話をしていた。味噌汁をインスタントで飲むという概念がなかった私は、1人ひそかに驚いていた。多くの家庭では味噌汁は作るものではなく、お湯に溶かすものらしい。その衝撃について、保健室のS先生に聞いてもらった。
その場にいる誰に聞いても出汁の素止まりで、出汁を取っている家庭もなかった。比較的手作りのもので育った私にとって結構な衝撃だった。なんとなく、世の中全体が大事なものを失っているんじゃないかというような気もした。何の根拠も結果もみることなく、思い込みだけで出汁をとるひと手間に愛情の重さを確認した。
保健室のS先生はドライに話を切り捨てるおばちゃん先生でもあったが、私の話に頷いて「リリーはそう思ったんだね」と同意し、気持ちの受け皿になってくれることもあった。
普段サバサバしているS先生の、その深い同意がなんとも言えない安心感につながっていたような気もする。
私は過剰に保健室に通っていた。
退屈を紛らわせたい一心で通っていた。
今思うと、将来に希望が見えなかったのかもしれない。
頑張ったこともなければ、頑張る理由も見つけられなかった。
なんでもいい。
夢中になれることに、
夢中になれたらよかった。
そんなつまらない私に付き合ってくれたS先生。
それだけで
退屈な心の隙間が満たされたような気がした。
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