【数学】5時間目_中学2年生
若くておしゃれに気を遣っているK先生は、なんとなくしゃべり方に締まりがなくだらしない。
パチプロ出身で長らくフリーターだったそう。
その人生の汚点に対して開き直っていて、かつ、なぜかフリーターだったこと自体をむしろ自慢しているのではないかというダメさ加減がK先生の可愛らしいところだった。
わたしはいつも、K先生の勉強以外のくだらない話が楽しみだった。内容、登場人物ともにほんとうにくだらなく、勉強から逃れる時間帯として非常に最適だったからだ。
そんなくださらなさと共に生きている先生なので、生徒とは友達のような関係性で接してくれていた。
深夜のバラエティ番組の話をしたり、お笑い番組のDVDを貸してくれたりと、人間としても教師としても敷居が低かったK先生。
そんなK先生が私に言った。
「お前は頭の回転が速い。少し教えればすぐ理解する。でも勉強をしないから成績が悪い。」
「本当は市内でもトップクラスの進学校に入れる頭はある。」
このK先生という人間も、もともと生徒を過剰に褒め、盛り上げるようなことは言わない先生だった。だからこそ、思春期と反抗期が絡み合いひねくれていた私でも素直に喜べる言葉だった。
この言葉はじんわりと効いた。
もしかしたら、私だってやればできるかもしれない。
頑張ってみたら、やれるのかもしれない。
これといって目立った成績も出せず、部活も早々にやめ、学生としてのアイデンティティを失っていた私に、「やってみれば、できるかもしれない」という可能性を授けてくれた言葉だった。
やってみれば、
頑張ってみれば、
できるのかもしれない。
これが私として生きる道の、スタートだったかもしれない。
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