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【愛されたいって言えなかった】第3回「さよなら幻のバスト」

「愛されたい」をテーマにお送りしている戸田真琴の連載第2回。毎月、さまざまな角度からテーマについて掘り下げていく予定です。何かの要因で表になかなか出ることのなかった「愛されたさ」を発掘したり、誰かの愛されたさについて考えてみたり、私たちの人生を真綿で締めるようにじわじわと縛っているあの「誰かに(自分が望むやり方で / 満足に / 濁りなく)愛されたーい!」というほぼ実現不可能な巨大願望についてみなさんと考えていけたらと思っています。愛されたかったエピソードも募集したりする時もあるかもしれません。愛されたい!と一度でも思ったことのあるあなた、ぜひお付き合いいただけますと幸いです。

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第3回「さよなら幻のバスト」

 先日、アダルト作品への出演を1年後にやめることを発表しました。驚かせてしまった方もたくさんいるのは重々承知ですが、そんな中でも日常は至って変わらず、与えられたお仕事に取り組む日々です。この生活も丸5年以上続き、定期的に自分のビジュアルをそこそこ好かれる程度に磨き上げておかなければいけないというプレッシャーに耐えつつ、撮影の予定の少ない時期は美容に労力を費やすことなく過ごしてあとから後悔したり、また焦ってばたばたと撮影前1週間くらい食事と運動に気を使ったりと、ストイックにもなりきれないどっちつかずな日々を過ごしています。

 撮影日の朝は、まず自分の顔を鏡で見て、むくみがどのくらいひどいかを見極めます。その度合いに合わせて時にはヘアメイクさんに協力してもらいながらマッサージや軽い体操をしたり、熱いシャワーを浴びたりして少しずつ顔を、あの作品のパッケージ写真の、ユーザーの理想像を目指してレタッチされた、まぼろしの女の子に近づけていきます。
メイクがうまくいくだろうか、髪型が役とはまるだろうか、撮影までごはんを控えていられるだろうか、台本をちゃんと覚えられるだろうか……私にとってお仕事というのは、私がこの役割を演じるということへの期待に、一つひとつ真剣に答えようとし続けることなのだな、と感じます。そうして顔とメンタルをまぼろしの女の子に近づけたなら、次に待ち受ける課題は身体です。セクシーな内容の作品であればあるほど、ランジェリーでの姿が魅力的に映ることがとても大切です。週刊誌の表紙のグラドルさんや、少年漫画のスタイル抜群のヒロインのように、破壊力の強いボディを艶やかに晒せたなら、きっとたくさんの人がその姿に魅了されてくれることでしょう。しかし、実際の私は漫画のようなスタイルをしているわけではありません。そしてあろうことか、このブラジャーという代物は、一見スタイルアップしてくれるように見えますが、サイズや形があっていないと身体自体の見え方もかなり残念な感じに仕上がるのです。現場によりますが、スタイリストや女性スタッフのいない現場だとすごくふわっとした認識でランジェリーを選ばれてしまうこともあり、サイズや形が合わないものしか用意されていないことも多々あります。中には「本来のサイズよりも小さいものを用意すれば溢れるような豊満なバストを演出できるだろう」という考えのもとわざと2サイズも3サイズも小さいものを用意されることもあります。ブラジャーを着用したことのある人なら察するかと思いますが、無理やり小さいものを着用した時に溢れ出るのはバストではなく脇肉です。豊満になってしまった脇肉に冷や汗をかきながらそっとシャツをかぶせ、なるべく脱ぎたくないな……と思いながら現場に向かいます。

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 まぼろしの女の子の身体をつくるのは非常にむずかしく、まずサイズが合っていないといけませんが、測った通りのサイズのものを買っても、メーカーごとにつくりやフィット感が違ったりと気が抜けません。また、よりバストに迫力を出すために重力に逆らい、谷間を強調するようなスタイルにするには、それに特化した形のブラや、内側に仕込むパッドが必要です。もちろんある程度どんな形のものをつけてもきれいに谷間ができる人もいますが、わたしは日本人に多い離れ型のバストなので、パッケージ写真の撮影などで迫力を出すためにはせっせと背中の方からお肉をよせあつめ、パッドに下から押し上げてもらったりして一段と大きく見せます。当たり前のようにしているその作業に、ふと虚しくなるときもあり、そんなときには自分の中で自問自答をするのです。

 ああ、この寄せて集めて重力に逆らってまで漫画のように見せようとしているこのバストが望むのは、愛されること?それとも、「変」だと、「しょぼい」と、思われないことなの?

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