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【前編】桑島智輝×飯田エリカ対談 「グラビアは写真家にとって最後のフロンティア」

新しいグラビアの形を模索する「I’m a Lover, not a Fighter.」では、これまで4つのseasonに分けて写真作品の発表を行ってきました。その背景には、世の中に、そして私たち自身に向けられた「グラビアとはなんだろう?」という問いが存在します。

その問いのひとつの答えを探るべく、グラビア業界の第一線で活躍する写真家・桑島智輝さんをお招きし、「I’m a Lover, not a Fighter.」で撮影を担当する飯田エリカとの対談インタビューを実施。グラビアの世界での写真家のあり方や写真表現について語られた様子を、前編・中編・後編に分けてお届けします。

桑島智輝(くわじま ともき)
1978年岡山県岡山市生まれ。写真家。2002年に武蔵野美術大学卒業後、鎌田拳太郎氏に師事。2004年に独立後、雑誌やタレント写真集、広告で活躍している。2013年に、約2年半の安達祐実を収めた写真集『私生活』(集英社)を発表。2014年に結婚。安達祐実との生活を収めた写真集『我我』(青幻舎)を2019年に、『我旅我行』を2020年に発表。
Twitter:@QWAAAAA / Instagram:@qwajima
飯田エリカ(いいだ えりか)
1991年東京都調布市出身。2013年より少女写真家として活動を始める。自らの少女時代の記憶をもとに今だからこそ写 せる少女、女の子を撮影した”少女写真”という表現を追い求め作品を制作。女の子たちのための写真活動を志している。 2019年から女の子を撮る女の子のコミュニティー『またたく女の子たち』を主催している。
2019年12月台中で個展『Past Blue』開催。作品集『Past Blue』制作。
Twitter:@d3star / Instagram:@i.erika_bluegirl


ー桑島さんはこれまで、数多くのグラビア撮影をされています。「I’m a Lover, not a Fighter.(以下「Lover」)」はグラビアに新しい目線を向け、「グラビアとは何か」を考えるプロジェクトでもありますが、桑島さんにとってのグラビアとはどんなものですか?

桑島:自分にとってグラビアはどんな存在だろうと考えると、やっぱり仕事だと思います。商業なんですよ。あくまでも、自己表現ではなくてオファーされたものであり、編集部に対して、依頼された内容にプラスアルファ乗せて打ち返していく仕事。あくまでも商業の上で成り立っていて、芸術ではないとベースで思っています。

飯田:私はグラビアに対する疑問が日々浮かぶんですけど、実際にお仕事をする中でも、何となくグラビアが「狭く」なってきているのかなと感じているんです。人を撮るというよりも、とにかくエロくだとか、偏っていることもあるじゃないですか。「あれ? グラビアってこんなに写真表現として狭いものだっけ」と感じられてきたのもあって「Lover」を始めたんです。

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1st season / scene2 hurt #0(モデル:中尾有伽)

桑島:グラビアは目的がはっきりしてて、言ってみればエロじゃないですか。でも、男性読者が圧倒的に多い中でも、最近は女性アイドルの写真集を女の子が買ったりしているから、「おしゃれな感じの写真を撮ってください」って言われたりするようにはなりました。

飯田:「おしゃれな感じ=女性目線を意識」というか。私もグラビアのお仕事でオファーをいただくときに、「女性写真家らしく、百合っぽく、友達っぽく撮ってほしい」とよく言われます。

桑島:グラビアって何度か革命が起きていると思うんですけど…グラビア写真が存在しなかったとき篠山紀信さんがひとつのジャンルとして確立して、その後、時を経て『月刊シリーズ』(1990年代より、新潮社が発行していたグラビア雑誌。毎月異なる女性タレントの名前を冠し『月刊○○』というタイトルでグラビア写真やインタビューを掲載していた)が生まれて、藤代冥砂さんが活躍して。近年はファッション方面からのアプローチがあるから、衣装もライティングも美しい、きれいなトーンのグラビアが求められてたりする。けど、結局は商業なので、本として売れなきゃ意味がないんですよね。

飯田:今、写真集を出すこと自体ハードルが上がってるじゃないですか。売上が見込めないとそもそも出版できないというか。

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桑島:もちろん売れる見込みがないと出せないですよね。企業として慈善事業、アート活動はやってられないだろうし。もちろん、80年代、90年代の伝説的な写真集のように売れなくても名作として残ることはあるけど、売れてることが「勝ち」な部分はあります。内容のすばらしさではなく被写体で判断されて、それが何万部売れたとかで評価されてしまうのは悲しいことだけど、僕や飯田さんのようなカメラマンたちが闘っていくところかなと思ってます。

商業として求められる中で、どうやって自分の特色を出していくか。そういうものを出した方が楽しいし、面白いし、引っ掛かりも出てくる。でも、オールフリーになるとすごく難しいとも思うんです。

ー時代とともにグラビアに求められるもの、グラビアとしてのムーブメントが変化する中で、どんな創意工夫が必要になるのでしょうか。

桑島:今のグラビアって、いろんな部分で表現に規制がかかってきてるじゃないですか。グラビア写真としての写真表現はもっとたくさんあったかもしれないけど、今はできなくなってきている。週刊誌もヌードを出しづらくなったし、コンプライアンス的な観点やオリンピックの開催も大きかったと思うんですけど。

飯田:コンビニにエロ本が置けなくなったりしましたよね。

桑島:どんどん表現の幅が狭まっていって、さらに景気も悪くなっていくと、みんな失敗したくないと考えるようになるんです。カメラマンや被写体の選定も保守的になるし、みんな同じようなスタッフィングとキャスティングじゃないですか。挑戦するってことがなくなる環境でだと表現も萎んでいってしまう。でも、そんな中でも挑戦したいという気持ちを持つカメラマンが普段とは違うことをしたり、編集者がトライすることもあるから、そこを重要視したほうがいいし、その挑戦を通して表現を拡張できることがあるんじゃないかなと。

何年か前はそれに対して言ったりしてたし、闘ってもいたけど、あんまりそうすると仕事が減るんですよね。

飯田:桑島さんは、写真家として自分の作品を出すようになって、写真家としての色がついて仕事が減ったというのを以前お伺いしたんですけど…。

桑島:それは別の話かな。写真家としての色がつくと商業写真やらなそうだな、って思われちゃうんです。たとえば雑誌の8Pグラビアは編集の人が構成を担当するけど、そこで「一緒に組んで面白いことをやりましょう」「こんなのはどうですか?」と意見してたんです。でも、あまりいい結果にならなかった。

写真好きの目線としていろいろ言ってしまうけど、そこまでコントロールするのがいいかどうかはわからなくて。読者的にはどうなんだろう、って。

飯田:芸術になりすぎちゃうというか。

桑島:そうそう。そのバランスが重要なんだけど、あまりにも写真原理主義者になっちゃったから控えるようにしたんです。ただ、大舞台でどれだけふざけられるかというのがすごく重要で。僕はやっぱり既存のグラビア写真に対して反抗心が強いんです。写真集の撮影をするときには、1冊の中で衣装を12着にしたいという要望がきても、挑戦できるときはその半分くらいでいけないかって交渉もしました。衣装変えるのって、ギミックといえば言い過ぎだけどそういうところもあるから、ワンポーズでどれだけ撮れるかが勝負だと思って。

写真集1冊、カメラを絞りまくってほとんど後ろをボカさないのもそう。これだけ感度上げられるカメラなのに、何でボカしまくってるの? って思うこともあります。ボカシって雰囲気よく見えるだけで、情報量がすごく少ないので。

飯田:グラビア写真集の撮影だと、海外ロケって結構あると思うんですけど、ボカしすぎてて「ここじゃなくてもいいじゃん!」って思うときありますよね。

桑島:思い切り絞り込んで、ごまかしが少ない時ときにこそフレーミングで勝負できる気がします。写真を見ている人にはわからないかもしれないけど、何となく伝わるかもしれない。そういう部分が重要なんですよね。

ーさきほどお話されていた、保守的な姿勢がどんどん浸透しているということなんですね。

桑島:グラビアって、カメラマンにかなり委ねられている現場なんですよね。時間を巻こうと思えば巻けるし、じっくり撮ることもできる。そんな現場って、仕事だとなかなか無いと思うんですよ。写真を撮る上で残された最後のフロンティアだと思っているから、そういう現場は残していかなきゃいけないし、後世のカメラマンに向けても、商業カメラマンがつまらないって思われないように伝えていかなきゃもったいないなと。

ただ、本当に自由に振る舞えるようになるのは、ある程度キャリアを積んでからという現実もある。最初は型をしっかり覚えて、ある程度年月を重ねてからふざける方が強靭になるから。難しいところではあるのですが。

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桑島智輝さん×飯田エリカさんの対談インタビューは全3回に分けて公開。
中編はこちら:桑島智輝×飯田エリカ対談 「なにがグラビアで、なにがグラビアじゃない?」
後編はこちら:桑島智輝×飯田エリカ対談 「わからないからこそ、撮り続ける」
インタビュー・テキスト・編集:石澤萌/撮影:野村陽

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