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「オバハンと小さな悪魔の戦い。」

...あかん、ダッシュや。



あの電車に乗りたい。

どうしても乗りたい。



何で もたもたしてたんや?

数分前の自分をシバきたい。


あそこで もたもたしなければ.....


そんなこと考えてる場合じゃないな。


走るか。

ダッシュやわ。



あたしのダッシュなんて

たかが知れてるわ。


競歩より遅い。



競歩を舐めたらいかんかった。

本気の競歩を目の前で見て

度肝を抜かれたことを思いだした。



風を切る音がしたわ。


競争して歩くと書いて"競歩"

いや、競技で歩くと書いて"競歩"なのかもしれん。



だから、決して

あたしのダッシュを

競歩と比べてはいけない。


そんなのわかってるわ!

わかってるわよ!


で、二度とあたしのダッシュを競歩と比べないことをここに誓うわ。



そんなことはどうでもよくってよ、奥さま!


あたし、急いでんのよ。

忘れてたわ。


絶対に間に合わせなきゃ。

あの電車に乗ることに今は集中するわ。



走るのよ、あたしの足!


なかなか出だしはいい調子だった、

だが暫くしてそれは無惨にも打ち砕かれた。



あいつが、

あいつが邪魔をする。



あたしが一歩一歩と歩みを進める度に、

それは、あたしの速度を鈍らせる。


まるで、小さな小さな悪魔のように

あたしの足を止めようとする。



負けるわけにはいかない!

この戦いには

負ける訳にはいかないのよ!



あたしは、その悪魔と戦うことを決意した。


あたしが勝って無事電車に乗れるか、

それとも負けて小悪魔に屈するか。


そこからは攻防戦。


走り方を変えてみる。


おっ!これはいい!


小悪魔め!

これではあたしを潰せまい!



そう思った瞬間、

また、小悪魔から容赦ないアタック!!



足が、足がーーー!

ちくちょう!

こんな所で負ける訳にはいかない。


駅のホームはもうそこだ。


小悪魔からの攻撃をまともに受けながら

あたしは、歯を食いしばって走りきった。



勝った!

あたし、勝ったよ!

あたしの完全勝利だ!

圧勝だ!



電車の座席に座り、

その憎き小悪魔を靴の中から摘み出す。


それはそれは小さくて。


こんな小さな身体であたしに立ち向かっていたのかと、

なんだか同情の気持ちすら湧き上がる。



"昨日の敵は今日の友" と言うではないか。


あたしは、その小さな悪魔の身体を

そっと手のひらに乗せてみる。


「なかなかいい攻撃だったよ。」

そう呟いて、小悪魔をリリースしてやった。


その小さな小さな悪魔は、

電車の中をコロコロと転がり

やがて消えていった。


いい戦いだった。

何だか清々しささえある。


消えゆく小悪魔の姿を見つめながら

さっきはあんなに憎かった小悪魔に

心からのエールを送った。



アディオス!

また会う日まで!

あたしの靴に入った

石ころよ.....


〜すうぃーと ふぃふてぃー ぶるーす〜

オバハンと小さな悪魔の戦いより〜




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