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ラブホ勤務初日を迎える

ついに迎えたラブホ勤務初日。どんな職場でも初日は緊張するものだ。
私は前回の面接があまりにもショッキングだったため、どんな人と働くのか不安で仕方なかった。
しかし、100万円を貯めるためにやるしかない。根性論は好きではないが、人生には「やるしかない」というシーンがいくつもあるのだ。

という訳で、早速メイク(お客様が使用した後の清掃)の講習から始まった。
講師は社長(と呼ばれているこの店の店長)だ。

社長は、清掃の練習のために305号室に連れてきてくれた。
なぜ305号室か?それは、この部屋のお風呂が壊れているため、社長の寝室になっているからである。
つい、「客用に風呂を直して家に帰りや」という言葉が喉まで込み上がってきたが、色々と大人の問題があるのだろう。

社長はまず、シーツとホーフのたたみ方から教えてくれた。
細かい話だが、ベッドに敷くものを「シーツ」と呼び、掛け布団にかかっているものは「ホーフ」と呼ぶらしい。
社長と研修している間、二人がかりでもくちゃくちゃになっているシーツを直すのが困難だと思った。
しかし、独り立ちすると一人でシーツなりホーフを綺麗にしなくてはならないらしい。
なんということだ。
不器用な自分は、この時点でめちゃくちゃ大変な仕事だと思った。

しかし、仕事を覚えれば後は黙々と清掃をすれば良いので、気持ちは楽だった。
私は本来人と話すのが大の苦手なので、あまり話さなくてもいい仕事が良かったからである。

次に待っていたのは風呂掃除の研修。
これは別のパートのおばあちゃんが教えてくれた。 このおばあちゃんは見たところ後期高齢者ぐらいだろう。動きはチャキチャキしていたが、風呂掃除の段になると 「適当でいいから」と言っていた。
後に、このおばあちゃんの適当さが悲劇を生むとは知らずに。
(この件についてはいつか別の記事で紹介する。)

さて、ここでいう「適当」とはどの程度のことを指すのだろうか。
おばあちゃん曰く、風呂釜は「適当にさらーっとスポンジで撫でる」ぐらいでいいらしい。
更に言えば、見た目が汚くなければ「スポンジで撫でる必要もない」とのことだ。
その後、客が使ったタオルや「足ふきマット」で風呂釜、壁、床、シャンプー台、シャンプーなどを拭き、水分を一滴も残さず全て「復元」するのである。

そう、ラブホの清掃は「復元」なのである。
部屋でお客がどれだけもみくちゃになっても、次に使うお客に一滴の「跡」も残してはいけないのである。
身体を重ね合った客の痕跡を残したら、次に身体を重ね合わせる客は萎えるからである。

我々ラブホで働く人々の仕事は「痕跡」を残さないことである。
まるで忍者だ。
そのことを初日で学んだ私はこれから様々な部屋の復元に挑むことになる。

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