魅力は七彩~花組『アルカンシェル』

柚香さんといえば、華やかなルックスと恵まれたスタイルを生かしたのびやかなダンス。ショーでこそ映えるスターさんというイメージですよね。
最後の舞台姿は宝塚らしい華やかなショーであってほしいとみんなが思ったはずです。

だから、サヨナラの公演が一本もののお芝居と聞いた時の驚きや落胆はたいへんなものだったと思います。

 でも、そこはさすがの小池修一郎先生。
『アルカンシェルーパリにかかる虹』では、私たちの予想を大きく覆して、素敵な柚香さんをたっぷり見せてくれました。

観劇したのは、東京公演が始まったばかりの頃でした。

開演前の舞台に、エッフェル塔にかかる美しい虹が現れました。鮮やかな色彩に胸が高鳴ります。

ストーリーテラーであるイヴ@聖乃あすかちゃんがアルカンシェル・ド・パリについて語り始めると、舞台はドイツ占領下のパリとなり、まだ少年であったイヴと同じ名前の祖父@湖春ひめ花ちゃんとその父でコメディアンのペペ@一樹千尋さんが現れます。少年イヴはとってもかわいくて、アコーディオンが上手。このアコーディオンはひめ花ちゃんがほんとに弾いてるのかな?とても自然でなじんでいます。どれほどお稽古したんでしょうね。

そして、場面はアルカンシェルの舞台に。白い階段に黒燕尾の紳士たちが一列に並んだ様は、ほんとに華やか。階段の中ほどでひとり踊り始めるマルセル@れいちゃん(柚香光)は、はっとするほどしなやかで美しい。赤いドレスで歌いながら最上段から降りてくるカトリーヌ@星風まどかちゃんは大輪の花のよう。劇場の看板スターであることが一目瞭然の華やかさです。エスコートするジョルジュ@あかさん(綺城ひか理)とジェラール@ふじもん(舞月なぎさ)も素敵。アルカンシェルが華やかで洗練されたショー劇場であることがわかります。
人気の演目「モンマルトルのピエロ」。踊り子役シルヴィー@あわちゃん(美羽あい)がとっても愛らしくて、中尉さん@希波らいとくんがイケメンで、眼福。マルセル演じるピエロは失恋。ほろっと切ない演目なのに、このピエロは怒って衣装を脱ぎ捨てて激情のダンスを始めます。ダンスに高い理想を持つマルセルは、この演出に納得できないというのです。感情的になったマルセルはカトリーヌと口論になります。マルセルの人となりを表すシーンですが、こういう体制に逆らうれいちゃんの姿も、ファンが見たい姿ではないでしょうか。

そんなアルカンシェルにもナチス・ドイツの統制が忍び寄ります。ユダヤ系の演出家コーエン@紫門ゆりやさんとダンサーで振付家ジェラールは亡命すべくアルカンシェルを去ります。後を託されたカトリーヌ。無茶ぶり。
そんなアルカンシェルを視察に現れたのはドイツ軍の文化統制官コンラート@まゆぽん(輝月ゆうま)。ドイツが推奨する音楽以外の演奏を禁じるといい、カトリーヌに歌うことを命じます。マルセルのピアノ伴奏でシュトラウスのアリアを歌うカトリーヌ。れいちゃんの伴奏でまどかちゃんが歌うなんて、これもファンにはうれいしシーンですね。カトリーヌの歌に魅せられたコンラートはここから執拗にカトリーヌに迫ることになります。

コンラートにジャズの禁止を命じられて落胆するアルカンシェルの面々ですが、同じドイツ軍のフリードリッヒ略してフリッツ@ひとこ(永久輝せあ)ちゃんの提案で、ウィンナワルツ版とジャズ版の二種類を作り、ドイツ軍の目を盗んでジャズ版を上演するというプランに意気が上がります。そんなこといって、大丈夫なのか? けれど、ドイツ兵もスィングを求めていると語り、歌い踊るフリードリッヒは明るく陽気で華やかで、ひとこちゃんの陽の魅力炸裂です。

2パターンの「美しく青きドナウ」を上演することになったアルカンシェルではマルセルとカトリーヌを中心に準備が進められていました。衝突し合いながらもお互いにひかれていく二人。そして生み出されたショー。ワルツ版は美しく、ジャズ版はスィング感たっぷり。どちらも素敵です。
一方でパリの人々の生活も夜間外出禁止など規制が強まり、ドイツ軍への反発が高まっています。アルカンシェルの劇団員もレジスタンス活動に加わります。

ワルツ版の初日は大成功。美しく華やかなダンスにカトリーヌの歌声。ジョルジュ@あかさんの歌声も朗々と。ドイツ軍の文化統制官たちもご満悦で、ホテルでのパーティーに劇団員を招待します。

カトリーヌの歌声はここでも賞賛の的。コンラートはカトリーヌをわがものにしようと、介抱にかこつけてホテルの自室に連れ込みます。カトリーヌを口説くコンラートのねちっこくいやらしいこと。椅子の背をなぜる左手の指がコンラートの下心を見せ、なんともいえないなまめかしさです。
そこにマルセルとアルカンシェルの仲間たちが救出に現れます。ホテルを後にしたものの夜間外出禁止令のため、マルセルの部屋で一晩を過ごすことになったカトリーヌ。二人の心の距離は縮まります。それが、公私ともにカトリーヌのパートナーと自負していたジョルジュには面白くない。

そして迎えたジャズ版の初日。軽やかなスウィング。華やかな世界。マルセルのダンスも目を引きます。ここでも、れいちゃんの魅力があふれ出ます。
ところがそこに、コンラート率いるドイツ軍が現れます。密告者がいたのです。公演は即刻中止。ばかりかカトリーヌやマルセル、支配人のフランソワーズ@あおいちゃん(美風舞良)が連行されます。さらには、抗議の気持ちが高ぶりナチスの旗を踏みにじったペペも反逆罪と。
そして連行されるマルセルの姿と「たゆたえども沈まず」の歌とともに一幕の幕が下ります。胸に迫る幕切れです。アルカンシェルは、マルセルとカトリーヌは、これからどうなってしまうのか。

第二幕の始まりは、エッフェル塔に虹はなく、ナチスの旗が掲げられて、暗く寂しく、不穏な空気です。

カトリーヌがドイツで歌う代わりに、マルセルとフランソワーズは釈放、アルカンシェルも公演再開が許されます。でも、ペペは思想犯として収容所に収監されます。
アルカンシェルでは、アネット@星空美咲ちゃんをカトリーヌの代役に、ラテンのショーが上演されます。ラテンは許されているということです。明るいラテンのリズムとメロディーは、苦難に立ち向かうアルカンシェルの心意気を思わせます。そして、ここでもマルセルのダンスが光ります。お芝居の中でこんなに多彩なれいちゃんが見られるなんて、幸せなことですよね。
そして、ジャズ版公演の発案者フリッツも降格となり、パリを去ります。アネットとの切ないお別れ。アネットとフリッツの恋物語は、初々しく清々しい。辛いお話で緊張感あふれる中で、すこしだけほっとします。

カトリーヌとマルセル、二人がそれぞれの場所でお互いを思い合い、力を尽くしている中。ドイツ軍の慰問の担当となったフリッツから、次の慰問先にペペがいること、そこにカトリーヌが慰問にやってくることが知らされました。早速、慰問団に扮して駆けつけるマルセルとイヴ。

慰問のステージでのカトリーヌの歌「待ちましょう」は情感に満ち、胸を打たれます。長く離ればなれとなった恋人を想う歌は、戦場で故郷を想う兵士や捕虜たちの心情に寄り添い、かつ、マルセルを想うカトリーヌの心情でもあるのでしょう。こころに深くしみじみと染み入る歌。やっぱりまどかちゃんは芝居の人だなぁと思った場面です。

ピエロに扮したマルセルとイヴの出番になると、フリッツが観客をステージに招き入れます。そこでステージに上がったペペは、そのままピエロと入れ替わり、マルセルたちはペペの救出に成功します。ですが、カトリーヌは契約が終了するまでドイツに残るといい、それぞれの場所で力を尽くすことをマルセルと誓いあうのでした。

やがてカトリーヌの契約期間が終了し、カトリーヌがアルカンシェルに戻ります。ジャズの演奏も解禁され、アルカンシェルは明るさを取り戻します。

マルセルはアルカンシェルの仲間とともにレジスタンス活動に参加しています。ドイツ軍の戦況は変化しつつあり、総司令官が「パリを退却するときはすべてを燃やして灰にする」という命令を受けていました。そんなばかな、と思ったけれど、これは概ね事実のようですね。再びパリに戻ったコンラートはすべてを爆破する必要はなく、橋を爆破すれば川があふれてパリは水に沈むといい、そのための計画を進めます。
コンラートから呼び出されたカトリーヌはこの計画を知ってマルセルに伝えます。レジスタンスたちはパリを守るために立ち上がります。

解放されたパリの空には虹がかかり、マルセルとカトリーヌは力を合わせて新しいアルカンシェルを作ることを誓いあうのでした。

ストーリーはこんな感じ。もう千穐楽から時間が経ったから、ネタバレも許してもらえますよね。長くなったけど、記憶を辿るために、詳しく書いてみました。
マルセルとカトリーヌが心を通わせ合い、アルカンシェルの、パリの危機を乗り越えていくというお話。二人が深く思い合い、手を取り合って未来に歩みだす姿は、れいまどファンにとっては何より見たい姿だったんじゃないかなと思います。

れいちゃん、まどかちゃんのほかには、ひとこちゃんが明るくキラッキラだったこと、ひとこちゃんに寄り添う美咲ちゃんがおだやかで柔らかな雰囲気だったことが印象的で、これからの花組に期待感を持ちました。
また、アルカンシェルを危機に陥れたけれど、パリを危機から救ったジョルジュ@あかさん。物語のキーパーソンだと思うのだけれど、書き込みの薄い役を、細やかな感情表現で納得感を持たせていたと思います。さすがはあかさんと思いました。

お芝居の中の様々な場面、フィナーレの群舞、多彩なれいちゃんが見られて、すべてが、わたしたちが見たかったれいちゃんでした。まどかちゃんも美しく、看板スターにふさわしい実力と風格が見られて、この作品はまどかちゃんの集大成といっていいんじゃないかなと思います。
フィナーレのデュエットも、ロマンチックで深いブルーのお衣装も素敵でした。さらに、まどかちゃんのパレードの虹色のドレスはとっても素敵でした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?