
このキキちゃんが見たかった〜『宝塚110年の恋のうた』『Razzle Dazzle』
宙組公演『宝塚110年の恋のうた』『Razzle Dazzle』は、公演期間終盤、千秋楽まで残り1週間と迫った週末に、遠征してマチソワ(昼夜連続して2公演観劇)してきました。
最前列でドキドキ…昼の部

昼の部は宝塚友の会で当たった席。1階上手ブロックの最前列でした。銀橋は目の前、花道はすぐ横。席に着いた途端、舞台の近さに期待とともに、緊張感も高まります。

『宝塚110年の恋のうた』
舞台上のスクリーンには花々とともに「宝塚110年の恋のうた」と映し出されています。映像と照明が消えて劇場内が暗転。から一転、華やかな舞台が現れました。銀橋のセンターには、直衣姿のキキちゃんが。すっきりとして艶やかで、「いずれ菖蒲か杜若」というフレーズが胸に浮かびました。こういうときにいう言葉ではないのかもしれないけど。
キキちゃんが花組時代に「新源氏物語」で歌った『恋の曼陀羅』。歌声、滑るように歩く姿の美しさ、衣擦れの音。忽ち見とれてしまいました。
キキちゃんは藤原定家、さく(春乃さくら)ちゃんは式子内親王。二人の恋模様をなぞるように、恋の歌が歌い継がれていきます。恋に憂える定家は艷やかで美しく、式子内親王は楚々として美しい。さくちゃんの美しい歌声も、魅力です。
ずん(桜木みなと)ちゃんが宝塚歌劇のレジェンド・スター春日野八千代さんをリスペクトするお役、わざおぎ(俳優のこと)八千代に扮し、和歌の神様の京三紗さんとともに、舞台を楽しくナビゲートします。狩衣姿で茶目っ気たっぷりの八千代はずんちゃんにぴったりです。京三紗さんとの掛け合いも息がぴったりです。御曹司、御曹司、と定家がかわいくて堪らない風の和歌の神も、とってもチャーミングでした。かわいいおばあちゃんって感じです。
上手のセリから誰がせり上がるのかなと思って見るとお社で、その向こうから和歌の神様が現れるっていうのが続いて、ちょっと笑いました。
恋の歌の数々、わたしは覚えのある歌が多くて、懐かしく楽しく聴きました。
ひろこ(水音志保)ちゃんとこってぃ(鷹翔千空さん)の「若き日の歌は忘れじ」の笹舟の歌は、仲良しの同期ならでは。心にしみました。
「星逢一夜」の(山吹)ひばりちゃんとひなこ(風色日向)ちゃんの歌声は切なくて。泉と晴興の悲しい恋を思い起こして胸がキュッとしました。
織姫のさくちゃんを追って舞台に現れたキキちゃんは、中国風の青いお衣装がよく似合って、まさに王子様。とってもステキでした。
昔のテレビの歌番組を捩ったような歌合戦の場面は、日替わりでいろいろな歌を若手スターさんが歌うらしいのだけれど、この日の歌はわたしの記憶にない歌でした。残念。けど、葵祐稀さんが声のいい歌うまさんで、眼福ならぬ耳福でした。
「忠臣蔵」からの祇園の場面は、芸妓姿の娘役さんたちが華やかで艶やか。その真ん中でじゅっ(天彩峰里)ちゃんの艶のある歌声と色気ある佇まいが際立っていました。
沖田総司に扮したキキちゃんは、涼やかでステキです。隊士たちが銀協に並んで「誠の群像」の歌も、皆颯爽としてわくわくします。新選組の浅黄色の羽織は、男役さんを何倍も素敵に見せてくれますね。「星影の人」さくちゃんが扮する玉勇と沖田総司の別れも、悲しく切ない。「大海賊」のエミリオとエレーヌの別れの場面が思い出されます。わたしにとって「星影の人」はキキちゃんで見たかった作品の一つです。
第二次世界大戦中の、大劇場が接収されて公演が中断された最後の公演の場面の再現は、恋の歌を歌えない状況から甦ることを表現しているのですね。宝塚歌劇110年の歴史の中で、外すことができない大きな出来事なのだろうけれど、唐突な気がして、ちょっとびっくりしました。からの、LOVEの女、LOVEの男たちの歌とダンスは軽やかで楽しかったですが、伊勢中尉に扮したりっつ(若翔りつ)さんの美声が聴けないのは残念でした。
定家と義経はほぼ同時代を生きた人だったらしいのですね。八千代の導くセリフに「へーっ!?」という気分でしたが、義経に扮した大路りせくんの「この恋は雲の果てまで」がよかったです。これから歌でも活躍が見られるのかなと、楽しみになりました。
この公演で卒業するひろこちゃんは、和物でも美少女ぶりが光っていました。祇園の芸妓も、慶長の三つ編み姿も、はっと目を留める美しさでした。
ラストは桜の若衆姿のキキちゃんの「花吹雪恋吹雪」。星組時代、キキちゃんがお手伝いをしていた、そしてわたしのご贔屓だった、トウコ(安蘭けい)さんの持ち歌のひとつ。話には聞いていたけれど、現実に目の前で聴くと感動もひとしおです。以前、誰かがどこかに、キキちゃんのことをトウコさんの魂をいちばん濃く引き継ぐスターさんと書いていて、そのときは「いやぁ~そうでもないでしょう」(失礼!)と思ったけれど、いまはやっぱりそのとおりと思います。ただ、トウコさんの「花吹雪恋吹雪」は力強く俺様感を感じたけれど、キキちゃんの「花吹雪恋吹雪」は作品や場面のイメージもあるのかもしれないけれど、少し優しく心に落ちるように感じました。
このショーでは、定家のお公家様姿だけでなく、様々なキキちゃんが見られましたが、どれを見ても、こんなキキちゃんが見たかったんだ!と思って、幸せに感じました。
『Razzle Dazzle』
休憩をはさんで第二部は、軽やかな前奏曲から始まりました。手拍子で気分は盛り上がります。
銀協のセンターに現れたキキちゃんは、丸いお帽子(は、なんていう名前なのかな?)に手袋、ステッキを持って、とってもかわいい。軽やかなステップで銀橋を渡りきると、手袋を口で咥えて外し、帽子とステッキとともに舞台袖に投げ込みました。そのしぐさがとてもセクシーで素敵すぎて、しかも私の席のすぐ目の前だったので、気が遠くなりそうでした。
ナイトクラブRazzle Dazzleのオーナーでハリウッド一裕福な孤児といわれるレイモンド@キキちゃんは、養父の娘で許嫁のアビー@じゅっちゃんのことを気が強くて打算的だと嫌っています。が、アビーと結婚しないと、父の残した莫大な遺産を手に入れることができません。どうしてもアビーと結婚したくないレイモンドは、親友(悪友?)の映画スター、トニー@ずんちゃんの提案した賭けにのります。それは、週末のレイモンドの誕生日までに、レイモンドの素性を知らない女性に愛されることができたら、アビーと結婚せず財産も自分のものにできるというものでした。レイモンドとアビーとトニーの3人のテンポのいい会話は、耳に心地よく、楽しい気持ちになります。
そこに現れたのが、映画に憧れてハリウッドに出てきたばかりのドロシー@さくちゃんでした。レイモンドは早速、ドロシーを賭けのターゲットにして、声をかけます。
ドロシーがエキストラ希望と知ったトニーは、早速自分の出演する映画のエキストラにドロシーを推薦。トニーがドロシーに近づくのを警戒したレイモンドは自分もエキストラにねじ込みます。
トニーに声をかけてもらったことがうれしくて夢心地のドロシーの銀橋のナンバーが、元気でちょっとコミカルでかわいくて、いかにもミュージカルナンバーっぽくて、さくちゃんのイメージにも似合っていて、とってもいいと思いました。
エキストラのレイモンドの役は、敵国から連れてこられた王の奴隷。その衣装がまた、キキちゃんによく似合って、かわいい。エキストラにはなりたくてなったわけではないので、嫌々ですぐにサボって逃げ出そうとするのをほかのエキストラたちに引き戻されたりところがまた、コミカルでかわいい。
レイモンドとトニーの賭けの話は、エキストラたちはじめ、撮影所の皆が知っていて、協力的です。というか、この賭けがうまく進むように、楽しんで見守っている様子です。映画スタジオの面々とレイモンドとのやり取りも楽しい。
ところが、ただ一人空気がよめないお騒がせ女優のシャーリーン@もえこ(瑠風輝)ちゃん。シャーリーンはわがままで自分本位で、周りを振り回す困ったちゃんなんだけどどこか憎めない、そんなスター女優さんをもえこちゃんがチャーミングかつ迫力満点に演じています。ちょっとガタイがいいけれど。フィナーレでずんちゃんと一緒に銀橋に出てきたときには、わ、大きい!と驚いてしまったくらいです。
賭けの結末は、アビーがきっぱりと潔くかっこよかった。ここはさすがじゅっちゃんです。
大団円のラストはスタジオのメンバーたちとのダンス。ここでなんと客席降り!予習が足りなかったわたしは、思いがけなすぎて、目の前の階段を駆け下りてくるキキちゃんやスターさんたちをただただびっくりして見つめていました。たぶん目が真ん丸になって、あんぐり口も開いていたんじゃないかしら。マスクがあってよかった(汗;

フィナーレで大階段に現れたキキちゃんは、とっても素敵でした。ボキャブラリーの貧しさに自分でもいやになるけど、素敵としか言えない。
娘役さんたちに囲まれたキキちゃんも、男役さんたちの群舞も素敵でしたが、黒燕尾でなかったのが、ちょっと残念です。
キキちゃんとさくちゃんのデュエットは優しくあたたかい雰囲気が心に残りました。こんなキキちゃんとさくちゃんの愛のこもったダンスをもっともっと見たかったと思うと、涙がこみ上げました。
そして、大羽根を背に大階段を下りてきたキキちゃんを見た瞬間、涙腺が決壊。ここ大劇場でこのキキちゃんが見ることができて、ほんとに幸せに思いました。
緞帳がおりた後、オーケストラの軽やかな演奏があって、客席は手拍子。さらに楽しい気持ちになりました。
しっかりと目に焼き付けなければ…夜の部

昼の部と夜の部の間の時間は、思ったよりも短くて、寶もなかと乙女餅を買いに行っていたら、ごはんを食べる時間がなく、劇場内の売店でおにぎりを買いました。

夜の部は三井住友VISAカードと宝塚友の会の共同貸切公演でした。2階席下手側の前から3列め。今度は舞台全体を見渡せて、やはりいいお席でした。
『110年の恋のうた』
色とりどりのお衣装が舞台いっぱいにひろがる様は、華やかで美しい。
大劇場の扇形に広がる空間の真ん中に、華やいだ舞台がある景色が、ほんとうにきれいです。さらにその真ん中にKIKIちゃんがいる風景。これが最後と思うと、寂しく悲しい気持ちでいっぱいになります。けど、最後なのだからしっかり目に焼き付けなければと、気を引き締めました。
どの場面も美しく、心に残りました。そして、どのキキちゃんも素敵でした。どの歌の場面も、スターさんたちには申し訳ないけど、キキちゃんが演じているのを思い浮かべて、切ない気持ちになりました。もっともっといろんなキキちゃんが見たかったな…
『Razzle Dazzle』
軽やかな歌とダンス、軽妙なコメディ。この軽やかさは、キキちゃんならではの魅力だと思いました。シリアスで渋い役、悪役や敵役、黒い役も素敵だったけれど、レイモンドのような明るく楽しい役こそ、わたしが見たかったキキちゃんです。
皆に囲まれて、笑顔で楽しそうなキキちゃんを見ると、とっても幸せな気持ちになります。いま、そんなキキちゃんが見られて、とてもうれしく思うとともに、この扇形の大劇場の真ん中で組の皆に囲まれて笑顔のキキちゃんを見るのがこれが最後と思うと、やっぱり寂しいし悲しいし。この景色を目と心に焼き付けておかなければと思いました。
夜の部は貸切公演だったので、キキちゃんの挨拶がありました。
「これからも宝塚歌劇を、なかでも宙組をよろしくおねがいします」と。いつものように笑顔でお手ふりするキキちゃん。キキちゃんを大劇場で見るのは、これが最後だから、ひとこと、一音も聞き逃さないように、どのしぐさも見逃さないように、と思うのに、涙があふれてきて、堪えるのがたいへんでした。
『宝塚110年の恋のうた』も『Razzle Dazzle』も、ずっと見たいと思っていたキキちゃんが詰まっていました。どのキキちゃんも、みんな素敵でした。キキちゃんに会うためにここに来るのは最後だと思うと、悲しいけれど、素敵なキキちゃんがたくさん見られて、幸せな気持ちで大劇場を後にしました。