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神様からのご褒美~月組『Eternal Voice』初日

それは、3月も末のとある日曜日のこと。
いつもより早めにベッドに入ったものの、12時前に目が覚めて眠れず、スマホでメール画面を開いたのでした。そこで目に入った「宝塚歌劇Webチケットサービス先行販売のお知らせ」というタイトルのメール。そういえば入力してなかったっけと思って、確認すると、月組の友の会の一次入力の締め切りがその日の23:59でした。
友の会のチケット先行販売は、一次と二次があり、一次は各公演日のSS席と新人公演、千秋楽の全席種、二次はそれ以外の席種の販売です。
もう夜中だし、次の月組はれいこさん(月城かなと)のサヨナラだから、とりあえず初日と前楽、千秋楽と新人公演だけ入れておこっと思ったのでした。
そしてその週の後半に届いた「抽選結果確認のお願い」というメールを、いつものように「ご用意できませんでした」という結果を予想しながら開いたところ、なんと初日のSS席の当選。最初は初日当選ということだけで舞い上がってしまい。どこの席かまでは目に入りませんでした。
すこし落ち着いて、そういえばどの席だろうって思って、もう一度メールを確認していたら、1階1列という文字が目に飛び込んできました。えええ~っ!最前列!?仕事柄5月は繁忙だけど、6月1日ならいける。観劇を楽しみに。繁忙も乗り切れる!
これはきっと、あの夜、入力を忘れて寝ていたわたしを、神様が揺り起こしてくれたに違いない。

そう思って5月を頑張って乗り切って、6月1日。初日を迎えました。
最前列で何を着ていこうか、とか、遅刻して途中で入るようならめちゃめちゃ失礼、とか、いろんなことを考えてしまって、妙な緊張状態から、開演2時間前に日比谷に到着してしまい、キャトルやシャンテを徘徊した後、1時間前に劇場に入ってしまいました。開演までのドキドキ感たるや…

れいこさんの開演のアナウンスに大きな拍手が背後から押し寄せて。
あぁ初日なんだなぁと感慨に浸りました......初日でなくても大きな拍手なのかもしれないけど。

第一幕『Eternarl Voiceー消え残る声』のプロローグは、ロンドン?イギリスのほの暗い街角のシーンで、キラキラではなく落ち着いた抑え目の照明。地に足が着かない、今にも浮き上がりそうなフワフワの気持ちが鎮められるようでした。ほの暗い照明の舞台にスターさんが次々と現れます。スターさんたちは皆、細くてすらりと背が高くてお顔が小さくて、お人形のように見えました。手を伸ばせば届きそうなところなのに、手の届かない幻想の世界が広がっているような気がして。これまで数えきれないくらい宝塚歌劇の舞台は見てきたのに。最前列で見るとこんなに印象が違うものかと、自分でもビックリです。

やがて、センターでれいこさんがせり上がり(したように思えただけかもしれないけれど)こちらに向かって歩いてきます。間近で見上げるれいこさんは、すこし長めの黒髪で、いつもと少し雰囲気が違って、けどいつものようにというかいつにも増して美しくて、ドキドキしました。

舞台はヴィクトリア女王統治下のイギリス。というと、19世紀半ばから後半にかけての時代。れいこさん演じる主人公ユリウスは、考古学者でありながらオークションハンターでもあり。手にした物からそれが聞いてきた音が聞こえるという類稀な能力を持つために生きづらさを抱えていました。ある日、オークションの帰りにメアリー・スチュアートの遺品とされる首飾りを偶然手に入れたことから、物が見てきたものが見えるという同じような能力と悩みを持つ女性アデーラ@うみちゃん(海乃美月)と出会い、さらにイギリスを揺るがす大事件に巻き込まれていくというお話。

ヴィクトリア朝という時代背景からか、娘役さんたちのお衣装はみなシックでクラシック。私の好みです。なかでもアデーラは、幾重にも重ねられたギャザーやドレープが、古い家柄に育ったお嬢様の品格を感じさせます。うみちゃんは、そんな重厚感あるドレスをスタイルよく着こなしていて素敵です。
一方、じゅりちゃん(天紫珠李)演じる特定秘密局員エイデンのストライプのドレスは、クラシックな中にも働く女性らしくシュッとして軽快で、わたしはこのドレスがとっても好みだと思いました。
いろどりちゃん(彩みちる)演じる霊媒師エゼキエルの黒のドレス姿もオカルト感と怪しさたっぷりで魅力的でした。
男役さんたちのクラシックなフロックコート姿も素敵でした。とくにちなつさん(鳳月杏)はスタイルの良さが際立っていました。

登場人物は皆、個性的でコミカル。難解な話かとおもいきや、クスっと笑わされるというか爆笑する場面も少なくなく、楽しかったです。
ユリウスと叔父さんのジェームス@りんきらさん(凛城きら)のちょっと抜けたやりとり、ジェームスとパートナーのアマラ@みかこちゃん(羽音みか)?のやりとりは愛らしくてほっこりしました。ユリウスと行動をともにするカイ@ぱるくん(礼華はる)も抜け感たっぷりでかわいい。オカルト学者?のヴィクター@ちなつさんやおだちん(風間柚乃)はじめ特定秘密局の面々もユニークな人材が揃って?いました。
メアリー・スチュアートの恨みを晴らし、カトリック教徒の復権を求めてゼイン議員@さおたさん(高翔みず希)のもとで儀式を執り行うエゼキエルとマクシマス@あみちゃん(彩海せら)の姉弟の振り切ったお芝居も衝撃というか笑撃。エキセントリックな姉と冷静な弟の関係性は、モデルがいるのでは?と思わせるほどリアルで、このお二人の新たな一面を見る気がしました。
意外だったのは、コミカルな場面に欠かせないとわたしが個人的に思っているやすさん(佳城葵)さんが、笑わない、しゃべらない、ボディガード?工作員?だったことです。

エゼキエルたちが儀式を行っている議員の私邸の張り込み中に捕らえらたエイデンとエゼキエルの口喧嘩?も、生贄にされたエイデンのリアクションも面白かった。こういう娘役さん同士の生き生きとしたやり取りや振り切った演技を見るのも楽しいですね。この場面を間近で見られるのもラッキーな気がしました。

そして場面は16世紀、幽閉されたメアリー・スチュアート@白河りりちゃんと侍女アンナ@麗泉里ちゃん。りりちゃんの姿は凛として美しく、せんりちゃんの歌声はしっとりと美しく、二人の場面は心に響きました。ここは、この公演で卒業するせんりちゃんへの餞かなとも思いました。

ユリウスとアデーラの協力もあり、事件は解決。ヴィクトリア女王@みとさん(梨花ますみ)は二人に謁見します。このときにユリウスにかける女王の言葉は組長のみとさんかられいこさんとうみちゃんへの言葉と重なる気がしました。
ほかにも、卒業してあらたな旅出ちを迎える二人にむけたセリフがいくつかあって、そのたび胸がキュッとしました。

ラストシーンは、ユリウスとアデーラが寄り添って、舞台中央をこちらに向かって歩みだしました。トップさんのさよならの作品のラストシーンは、舞台後方や花道に向かって歩み去る演出が多いと思うのだけれど、客席に向かって歩みだすというのは、あまりないと思います。二人の姿は消え去るのではなく、新たな世界へ歩みだす二人、まだまだ続きがあるのだと思えて、この二人らしいラストシーンで素敵だなって思いました。

第二幕『Grande TAKARAZUKA 110!』は、宝塚の110周年をイメージしたショートのことで、緞帳が上がると舞台上に5組のマークが現れ、流れる動画が映し出されています。隣の方がスマホで動画で撮っているのを見て、思わず真似しちゃいました。
十数年前は開演前の舞台を携帯で撮っていても、客席の係員の方に注意されたものでしたが、いまはもう、みんなが撮るからきりがないから、あきらめたのかな。こんなに目の前で撮っていても、係員の方は黙認でした。

プロローグ。キラキラきらめくゴールドのお衣装が舞台いっぱいに広がるのが、とっても華やかできれいで、ときめきました。娘役さんのドレスのスカートは、何枚ものの布が重ねられていて、ダンスで揺れるたび、ラメやスパンコールの煌めきとともに、様々な色のグラデーションが舞台一面に広がってとても美しくて、これは間近で見上げているからこそ見られる風景かなと思いました。

マスカレードの場面のお衣装もきらびやかで華やかできれいでした。その中で、いろどりちゃんとおだちん(風間柚乃)の白と黒のピエロのようなお衣装がコントラストが際立ってかわいくて、印象的でした。
いろどりちゃんの中に元雪組トップ娘役のゆうみちゃん(咲妃みゆ)の面影を感じました。いろどりちゃんはゆうみちゃんのお役を新人公演で演じたりしていたので、スターの遺伝子はこうして受け継がれていくのかなとしみじみと思いました。わたしはゆうみちゃんの娘役姿が好きだったから、うれしく思いました。

れいこさんやちなつさんはもちろんだけど、どのスターさんも銀橋に現れると一段と素敵に見えることも発見でした。スターさんを照らすライトと華やかな舞台の光の中に浮かぶ姿はほんとうにきれいでした。

新たな発見は、ぱるくん(礼華はる)でした。ぱるくんはおっとりとおとなしそうで、こういっては失礼なんだけど、ちょっと地味な印象を持っていたのだけれど、銀橋に現れた姿は長身でシュッとした美人さんで、華があって、ほんとに失礼な言い方なんだけど、見直しました。そりゃあスターさんだもの、当たり前ですよね….

中詰めのスパニッシュの場面、次々とスターさんが目の前の銀橋に現れて、目が追いつきません。
そして、スターさんたちの客席降り。目の前の通路には、左手にちなつさん、右手のセンターにれいこさんが立ち、どちらを見たらいいのか迷いましたが、やっぱりセンターのれいこさんを。客席も一緒にダンスを踊るところで、左隣の方がちなつさんとタッチをしているのが目の端にはいって、いいなぁって思っていたら、センターに立っていたれいこさんがこちらに移動してきて、わたしの前に。えぇぇっ!と思う間もなく、れいこさんとタッチ。思いがけなすぎて、すごい間の抜けた顔をして挙動不審になっていたと思うけど、れいこさんは優しい笑顔を向けてくれました。れいこさんの手は、少しひんやりとして、けどふっくらと柔らかくて、しっとりしてすべすべでした。れいこさんの手に触れた途端、すべての意識が飛んでしまったようで、それから後のことは、ほとんど記憶にありません。パレードまで一瞬に過ぎてしまったような気がします。

覚えているのは、フィナーレで黒燕尾の男役さんたちが銀橋にずらりと並んだとき、あみちゃん(彩海せら)のリップが赤く鮮やかだったことと、銀橋でのデュエットダンスの最後にれいこさんがうみちゃんの頭に手を添えて姿勢を起こすときに、うみちゃんがいたずらっぽく目をキョロキョロっとさせていたこと。

幕が下りた後もしばらく現実感がなく、そのまま席に座っていました。お隣の席の方も同じだったみたい。「素敵でしたね」「ほんとに夢みたいでしたね」とため息交じりに言葉を交わして、席を立ちました。

この日はとっても素敵な一日でした。チケット申し込みをした夜のことも含めて神様からのご褒美のように思いました。
神様ほんとうに、ありがとうございます。これからも頑張ります!

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