子育てを通じて「初めて人間になった」FTM夫婦(後編)
こんにちは!Love Makes Family編集部です。
既存のかぞくの形に囚われない、新たな生き方のヒントを発信する次世代WEBマガジン『Love Makes Family』、第13回目の連載です。
第13回目となる今回は、FTMであるまさきさんとその奥様であるツキさんにお話を伺った後編です。
後編では、お子さんを持つことに対しての家族の反応、子育ての大変さや幸せ、お子さんへの真実告知の方法やお子さんに対する想いなどをお伺いしました。
【まさきさん PROFILE】
FTMバーを2店舗経営している37歳。26歳のときに性別適合手術を受け、女性から男性に戸籍変更をした。奥様との間で、二人のお子さんを育てているパパ。
●まさきさんの代表を務める【FTM BAR 2's CABIN】はこちらからチェック!
お店ホームページ:https://bar2s-cabin.tokyo/index.html
〇まさきさんをもっと知りたい方はこちらをチェック!
まさきさんTwitter:https://twitter.com/grammy_djmasaki
【ツキさん PROFILE】
6歳年上の奥様。Twitterでは、FTM妻の視点から本インタビューでは語り切れなかった妊活や子育てについて日々発信をしており、魅力的なイラストで描かれる漫画は必見。
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ツキさんTwitter:https://twitter.com/Tsuki_masaki
■生まれてきた子どもの持つパワーは計り知れない
―周りの人や他のご家族には、この件はすぐに話をしたんですか?
まさき:このときは、兄だけと話していましたね。
―双方のご家族から反応があったのはいつ頃だったんでしょうか?
まさき:半年ぐらい妊活をして、子どもを授かって、安定期に入ってからでしたね。最初は、母親の姉である伯母に言ったんですよ。
ツキ:一番最初に言う理由は、伯母さんが一番まさきの性同一性障害に理解があったから。だからむしろ、お母さんにどう言おうかも相談しようと思っているみたいな感じで言っていたんだよね。
まさき:FTMっていうのを一番最初にカミングアウトしたのが伯母だったんですよ。それを受け入れてもらえていたので、子どものことも最初に伝えたら、受け入れられないって言われちゃったんです。
―それはショックですね。
まさき:実績があったから大丈夫だと思っていて。
ツキ:伯母さんは大丈夫だから、と自信満々に言っていた。
まさき:だから、え!って。
ツキ:そのあとの凹みがすごかったよね。
まさき:うん、そこまでして子どもを作らなきゃいけないのかと言われて、落ち込んで。でも、もうお腹にいるんだったらどうしようもできないし、生まれてくる子どもがいるし、そこまでずるずると気持ちは引っ張らなかったですね。
その後に母に伝えたら、母も最初、ため息でしたね。そこまでして、と。やっぱりもうお腹にいるんだったら、どうすることもできないからという感じで、事後報告として言いました。のちにおばあちゃんも知ることになって、そこから親戚にも回りました。奥さんのほうは、両親にも言っていないんだよね。
ツキ:言っていないし、今も知らない。
まさき:僕がFTMだということも、兄からの精子提供を受けた子どもだと言うことも知らないので、僕の子どもだと思っている。
ツキ:結婚をしたのも、結婚後2か月ぐらいで電話で「結婚したから。」と報告したし、子どもが生まれたのも、生まれてから6か月くらいで、まさきと子どもを連れて実家に帰って「子ども産んだから。」と報告した感じでした。
まさき:遅くなりましたが、と。
―ツキさんのご両親はどういう反応だったんですか?
ツキ:ああ、みたいな感じ。
まさき:奥さんから、もともと結婚するときに挨拶しなくていいと言われていて、それがラッキーとも思っていて。年だからFTMのことも理解できないと思うし、言ったとしても反応薄いと思うよと。
ツキ:言っても言わなくてもどっちでも良かったんですよね。本当のことを全部言っても良かったけど、興味がない感じだから。
まさき:実際会ってみたら本当にそんな感じで。
ツキ:人に興味がない感じで、たぶんまさきがFTMとかもどうでもいいと思う。へえ、みたいな。食事の時も、お互い何を喋ったらいいのかなみたいな。
まさき:でも仲が悪いわけでもないし、僕のことをイヤという感じでもないし。
ツキ:あれが普通なんだよ。
まさき:不思議な感じ。
―不思議な距離感を保っているんですね。
まさき:手紙もたまにきて、「私たちが亡くなったら」とか「病気になったら」とか「通帳と判子はここにある」とか。そして手紙は小分けにして送られてくる(笑)
ツキ:そうそう(笑)死んだ後のことはやたらと。
―お子さんが生まれた後、まさきさんの親御さんは最初の反応から徐々に変わっていったり、協力してくれたりとか何か変化はありましたか?
まさき:やっぱり子どもの写真を見せたりすると、母親も伯母もおばあちゃんも、「可愛い可愛い。」となって、「写真送ってくれ。」と。やっぱり子どもの力はすごいと感じましたね。兄に関しては、2番目のときはさらに協力的で、スピードも速かったですね。1番目のときがすごい可愛かったみたいで、甥っ子甥っ子と可愛がってくれて。今、三人目もトライ中なんですけど、それにも協力してくれています。
―1人目のお子さんの後、すぐに2人目の妊活に入ったんですか?
ツキ:すぐでしたね。産んで1か月後に生理来たらすぐに不妊クリニックに行って。
―驚きました、超人ですね!
ツキ:浜崎あゆみだと思ってほしい(笑)でも行ったけど、だめだったんだよね。
まさき:3年ぐらいかかったよね。その間に、人工受精、体外受精、顕微授精を全部やって。そもそも卵が採れないというのがあって。それに、兄が仕事で引っ越しをしてしまって遠方になったので、奥さんは朝一で電車に乗って、病院に行って、日帰りで帰ってきて仕事をしていたというのをやっていた。
―すごいですね。でも絶対にお子さんが複数ほしいという感じでもなかったんですよね。そんなに強い願望がなくてそんなにトライをされているというのは、1人目を産まれた後に何か心境の変化とかがあったんでしょうか?
ツキ:とにかく後悔したくないから、やりきったという心の整理だけですかね。
まさき:それもあったんですけど、1人目が生まれて、初めて感じる幸せというか。
ツキ:人間になった(笑)
まさき:今まで仕事だけやっていればいいと思って生きていたのが、初めて人を愛したんですよ。子どもが生まれて、初めて満たされた。それで2人目もすぐに、っていうのがあったんだよね。1人目のパワーがすごかった。
ツキ:そうね、やっぱり二人目も産んどけば良かったなってなりたくなかったし。できなければ「できなかった」という結論がもらえる。
■「ボーイに変身」「パパは2人」子どもが幼い時から始めた真実告知
―お二人のお子さんに対して、まさきさんのセクシャリティも含めて話すことは考えていますか?
ツキ:もう既に言っています。
まさき:子どもを作るときから、告知をすると決めていたんで。兄にもそれを含めてプレゼンをしたし、あなたのこともお父さんというよと。上の子には2歳ぐらいから、パパが2人いるよと、少しずつ言っている感じです。
―お子さんはどれくらい理解できてきていますか?
ツキ:だんだん分かってきたんじゃないかな。
まさき:パパが二人いるんだったら、ママも二人いるんだねと言われたことがあって。もう一人は誰?と。十分には分かってはいないかなと。パパは二人いるんだというところで、深くはまだ理解してないと思いますね。
ツキ:まさきのことも、ガールで生まれたんだけど、ボーイに変身したんだよ、説明していて。
―子どもは学校でも色々と話したりすると思うが、子どもに真実告知をすることに対して、反対をしてきたり、注文をしてきたりするような人はいらっしゃらないですか?
ツキ:そういう人は周りにはいないですかね。本人が言いたければ言えばいいし、隠したければ隠せばいいし。ただ、本人が隠したいと思っているのに、こっちが勝手にばらすということだけはダメだなと思っています。他の人に言われるのはイヤだろうなと。
―カミングアウトしていない人は周りに結構いますか?
まさき:実は、長男の学校には言ってなくて。ママ友さんの一人には、仕事のことを聞かれたときに、僕がFTMバーやっているので、自然とそれを言うことになって。1人だけが事実を知っているんですけど、そのことに関して、それ以上の話はしていないですね。そもそもそういう話にならなくて、あえて言う必要もないかなと思っています。
―今後のことで何か不安なこととか、悩みそうだなと思うようなことはありますか?
まさき:自分自身がFTMと本当に理解したときに、子どもがどう思うかなという不安はありますよねやっぱり。告知をすると覚悟を決めているけど、実際どういう気持ちになるかなと。
ツキ:学校選びとかは少し悩みましたかね。小学校をインターナショナルに入れるか、日本の学校に入れるか。インターにはハーフの子とか国籍や人種が違う人とか、色々な人がいるので、そういう環境に行ったほうが、まさきのことも「あ、うちはこういうパターンか」と受け入れやすいのかな思って。日本の学校だと、みんなが同じという風になりがちなので、ちょっと違いが大きな違いに感じられてしまうかなと。でも、日本の文化も大事だから、結局は日本の学校に入れようと落ち着きました。
まさき:そこはちょっと悩んだよね。あとは、兄に対しての気持ちが、今後どうなっていくのかという不安もありますよね。というのも、正直びっくりしたことがあって。子どもは、他人には人見知りするのに、兄にだけは人見知りをしなかったんですよ。長男はすごい兄に懐いていて、それって本能的なものなのかなって感じて。そのときに僕若干の嫉妬心が出てしまって。絶対にないと思っていたのに、僕自身がびっくりして、大丈夫かなと不安になりましたね。今は思わないんですけど、そのときは「今後こういう気持ちが出てくるのかな」とか。兄が遺伝子的には本当の父親なんだと知った時に、子どもの反応を見て自分がどう思うかとかは、内心不安に思うところがないわけではないですね。
■初めて人間になった…子どもと出会って気づいた価値観や喜び
―嫉妬をするのは当然かなと思いました。整理できない気持ちも含めて、お子さんにはどんな想いやメッセージを伝えたいと思いますか?
まさき:そうですね、FTMということを僕は隠していないので、申し訳なさというものはないけど、子どもはそれを受け止めなきゃならない。だからそこは「一緒に乗り越えていこう。」と思っている。その日その日を一生懸命、「ワンチームで乗り越えていこう」と思っていますね。
ツキ:子どもの人生だからなんとも言えないけど、けっこう自分が幸せだからいいかなと思っている。
―親が幸せであることは、子どもも幸せですもんね。
ツキ:「君たちがいることで、私は幸せだ。」と伝えていきたいですね。今も言っているけど。幸せにしてあげるとか幸せになってほしいとかは、ちょっとおごりかなというか。
―努力してどう受け止めるかは子ども次第ですもんね。親の思う子どもの幸せが、本当に子どもの幸せかどうかは分からないですしね。
ツキ:子どもも親の知らない人と出会って影響を受けていくだろうから、こちらの操作で何かを作り上げるのは難しいと思うし。
まさき:親がやらなきゃいけないのは、子どもたちが何かやりたいと思ったときに、それがやれるように、経済的な力を常に持っていないといけないかなと思っています。
ツキ:話が戻ってしまうけど、まさきがFTMだからといって子どもがいじめられることはないと思っている、なんとなく。むしろ、いじめられるとしたら私のせいな気がしている(笑)ママ友とけんかしてしまったりか、PTAでやらかしてしまったりして、そんなことでいじめられるとか。FTMとかそんなことでいじめられることはないと思うかなと。
―実際に子育てをしていて感じる、大変さや幸せはありますか?
ツキ:そうですね、私はこれまで仕事が命だと思っていて、本当に仕事しかないと思っていた。欲しいものは全部手に入れてきたタイプなんだけど、何を手に入れても幸せだと思ったことはなかったけど、子どもがいて初めて幸せって思った。これは仕事をしている場合じゃないと思って辞めてしまったくらい。
これまでは本当に小さいことにこだわっていたなと。例えばお金と地位とかに、色々なことに囚われていたけど、周りにどう思われるかではなくて、自分がどうしたいか、自分の時間を人の尺度ではなく自分の尺度でどう使いたいか、という本当に大事なことに気付けた。人間になったという感じ。
まさき:人間になったというのは、試されているという感じでもある。子育てを通じて、本当に毎日、正しいことを教えなきゃと思うことがある。このときにどうやって教えたらいいのかとか、人間力を試されている。それが大変だけど、人間にさせてもらっている感じはあるんですよね。
ツキ:なんてことないことが、楽しい。笑うこと、ちょっと自転車で出かけるとかでも幸せだと。これまでは、時間を無駄にするのがイヤで、なんかイベントを入れなきゃって思ってたけど、雨の日に外見てみんなで「雨だね。」って言っているだけで楽しい。大変なことというと、健康面かな。
まさき:そうだね。不安なのは、遺伝子的な兄が父なので、最初に兄の疾患を聞いてはいたものの、喘息くらいということしかちゃんと聞かなかった。一度、子どもを連れて病院に行ったときに「お父さん疾患ありますか。」と聞かれて説明できなかったことがあったんですよ。今後もそういうのが出てくるとなると、不安だなと。
■「かぞく」とは「帰ってくる場所」・「ワンチーム」
―最後の質問になりますが、二人にとって「かぞく」とはどういうものか一言で教えてもらえますか?
ツキ:「帰ってくる場所」みたいな。私もまさきも、あんまり家族に恵まれなかったから、そうじゃなくしたいという気持ちはけっこう強いというか。
まさき:そうだね、自分の家族はハッピーにしたい、こうでありたいというのはあるね。でも、もし子どもが離れたいと言ったら、好きにしてほしい。さっぱりするところはさっぱりしている。自由にやりたいことをやってほしい。
ツキ:明らかに悪い道に行っていたら止めるけどね。
まさき:「かぞく」か、難しいですね。なんなんだろうね。色々あってまとめられないけど、苦楽を共にする仲というイメージかな。辛いことも悲しいことも楽しいことも共有していく。「ワンチーム」ですね。良いところも悪いところもフォローし合って、チームを作り上げていく感じ。実は、これは子どもが言ったことなんです。何かトラブルが起きたときに、子どもから「僕たちワンチームだからね。」って言ってくれたことが、すごく印象に残っているんです。
お二人の軽妙な語り口によって、スタッフが随所で笑ってしまうほど楽しいインタビューとなりましたが、お二人ともお子さんのことになると真剣な表情そのもの。
―子どもであっても一人の人間として尊重する。
―親も子も一緒に成長していくもの。
お子さんと日々向き合うお二人の姿からは、そんな大事なことが気付かされます。
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