大塚隆史さんに聞く、ゲイと子ども(後半)
こんにちは!Love Makes Family編集部です。
既存のかぞくの形に囚われない、新たな生き方のヒントを発信する次世代WEBマガジン『Love Makes Family』、第6回目の連載です。
第6回目となる今回は、新宿の『タックスノット』のマスターをされている、大塚隆史さんにお話の続きです。
前編では、大塚さんが『タックスノット』で出会ったお客さんとの交流を通して、パートナーとの長期の関係を築くことやゲイが子どもを育てるということに対するコミュニティの意識の変化についてお話を伺いました。
後編では、パートナーとの長期の関係を築くことの難しさや大塚さんにとっての『家族』とは何かについてお話を伺いました。
【PROFILE】
新宿三丁目のゲイバー『タックスノット』のマスター。その昔一世を風靡したラジオ番組『スネークマンショー』に参加し、ゲイのポジティブな生き方をリスナーに向けて発信。多くのゲイに大きな影響を与え、現在もゲイの良き相談相手として幅広い支持を得ている。著書に『二丁目からウロコ-新宿ゲイストリート雑記帳』(翔泳社)、『二人で生きる技術-幸せになるためのパートナーシップ』(ポット出版)など。
■「家族」というものに対する違和感
今回、このインタビューの話をいただいて一番面白かったことは、家族について聞きたいと言われたこと。家族って、考えたことがないんです。なぜかっていうと、自分とパートナーの関係を、家族とは思ってないからなんです。
家族っていうのは、僕の中では、かなりネガティブな要素も含まれているものなんですね。
実は家族って、選択したりできない、勝手に押し付けられてしまうものが含まれている。
特に親子とか兄弟って、関係が悪くても良くても、とにかくある時期までは関係を続けなきゃいけないみたいなものを含んでいるでしょ。
僕にとって家族っていうのは、自分が育った家族のイメージに引きずられちゃうんですけど、あまり良いものではないんです。あそこから出られて本当によかったっていうのが正直な気持ちです。
だから、僕にとって家族っていうのは、巣立つことでやっと関係を解消できるものなんです。
だけど、それまでは理不尽なことがあっても我慢しなきゃならない。そういうようなものなんです。だからこそ、自分の今のパートナーのことを家族って目線では見たことはないんです。
僕にとって家族は必要のないものっていう感じかな。それはやっぱり、子どもを必要としてないからだと思います。だから結局、家族って、子どもがいないと成り立たないものなんじゃないかなって感じもしますね。
■家族ではなくパートナーシップへのこだわり
一方、パートナーシップっていうのは、1人ずつの自立した人間がそれぞれ選択して、そして一緒にやっていこうと決意を持って決める。そして、駄目になったら駄目って、ちゃんと話し合って別れられる、それこそがパートナーシップ。
僕は、長く続くパートナーシップをどうやって手に入れたら良いかの試行錯誤をずうっとやってきたんです。
昔は「パートナーシップを一緒に求めてくれる人」と出会うこと自体が本当に難しかった。セックスなら簡単に手に入る。でも関係性はダメ。そんな状況でした。それでも、失敗を何度も繰り返しながら、やっとパートナーと呼べる人を手に入れることができたのが、1978年でした。その4年後に、そのパートナーとオープンしたのがタックスノットでした。そんな経緯があったからこそ、この店では「男同士で長い関係」を欲しいと言っても、笑わずに応援する店にしたいと思ったのです。開店し、時間が経つほどに、だんだん、自分もパートナーが欲しいというお客さんが増えてきたり、実際にカップルで来てくれるお客さんも集まってくれるようになりました。
パートナーシップに関心がある人や、カップルが集まることで、いろんなことが見えてきました。パートナーシップの話題が良く出るようになり、今まで関心がなかった人が興味を示すようになったり、良い関係を長く続けているカップルを見て、あんなパートナーシップが欲しいと思うようになったり、新米のカップルが先輩カップルのアドバイスを受けたり……と、少なくともうちの店の中では雰囲気が変わってきました。かつて、先輩が後輩に「早く女性と結婚して、その後、男の恋人とうまくやれ!」なんてアドバイスをしていたことを考えると夢のようです。
大塚さんとパートナーのシンジさん
■パートナーシップの難しさと子育てへの覚悟
子育てを軸に考えていくと、例えばさっき言ったパートナーシップに子どもが入ってくると、いわゆる家族になるってことは言えると思うんです。でも僕はそこにはあんまり関心がなくて。それより今の社会を見ていると、親が1人でも子どもを育てていけることを支える制度の方に、もっと注力した方がいいんじゃないかと思ったりもします。
パートナーシップっていう、ある種のもろさを含むところに子どもをくっつけて考えていくのはどうなのかなと、ちょっと思っているところはあるんです。
昔のシステムって、別れ難い制度を作ったり、別れるなんてとんでもないみたいな世論を作ることで成り立っていた。だから、なかなか別れられない。片方は生活力がない、もう片方は生活をマネージメントしていく能力がない。そんなある意味では、ちょっと不完全な存在を2人でくっつけて、そこで子どもを一緒に育ててっていうようなそういうシステムだったと思います。
でも今は、個っていうものをものすごく大事に扱うようになったが故に、パートナーシップを長く続けることは、とても大変になってきている。
そこにイージーに子育てを乗っけるっていうことには慎重になった方が良いって思うんですよ。
子育てと自分たちの人生をどう関わらせていくのか、そこをパートナーシップの枠の中で充分に考えた末の結論ならもちろん素晴らしい選択だと思います。でも、そこをすっ飛ばして、子どもがいれば幸せになれるみたいな「すてきなカ・ゾ・ク」観とかを話されると、ホントにそうかな…と懐疑的になっちゃいます。
今って、ストレートの人たちも結婚制度があったとしても、関係を続けていくことが大変になっているわけですよね。だから、全部が全部そういう人だっていうわけではないですけど、ファンタジー満載で家族が持てたらいいなと浮かれちゃわれると、「そうなんだ、まあ頑張ってね」みたいな、冷たい言い方になっちゃうんです。
もちろん、さっき言ったように僕の周りにもゲイやレズビアンで子育てをやっている人はいますから、それを見ているととても大変そうで、本当に頑張って欲しいとは思っています。まあ、僕にできることっていったら、側で「フレーフレー頑張れ」って旗を振るくらいしかできないですけど。
男性カップルの方が、子どもを自分の人生に含めるってことにファンタジーを持つ傾向がある気がします。ここではあえてファンタジーって言わせてもらいますけど…。女性の方は、愛している人と一緒に生活していると、子どもを持つということにリアリティを抱けるのかもしれませんね。
でも、男同士で子どもを持つことはけっこうハードルが高いから、余計にリアルには考えにくい。だから、レズビアンの人とゲイの人が協力し合って、ゲイの人が精子提供でっていうような形での関わり方の模索も始まってるんだろうなと思うんですけどね。
「それに関して、どう思いますか」って言われたら、「どうぞおやりください、頑張ってね」って他人事のように答えるしかないです。 それは、そこまで子どもを欲しいんだったら、やっぱり覚悟をもってやってもらうしかないと思うからです。
それは人生の選択です。子どもを持たないで生きていくことも、子どもを育てて生きていくことも、同じように真剣な人生の選択なんですから。
僕は自分がパートナーシップにこだわってきた人間だからこそ、パートナーシップっていうものが、とても壊れやすいものだと痛感しています。でも、関係が壊れたら、解消できることは素晴らしいことだとも思っています。
続ける意志のない関係を解消できることは大事なことなのです。そんな壊れやすい関係の上に子育てを組み込むのは、選択権のない子どもにとってどういう影響があるのかをよく考える必要もある気がします。
こんなことを言うと、僕が同性カップルの子育てを完全否定しているように聞こえてしまうかもしれませんが、そんなことを言いたいんじゃないんです。子育てをしている知り合いカップルと関わりを持つ中で、彼らがいろんな困難や問題を抱えて奮闘しているのも見ています。
だからこそ無事に乗り切って欲しいとも思っていますし、心から応援もしています。
好きな男の人といつまでも幸せに生きていきたいと願っている僕は、周りの人から「バカみたい」とからかわれ、悔しい思いをした経験があります。そんな僕が「同性同士で子どもを育てたい」と願う人たちの夢を壊したいと思うはずはありません。
応援しているからこそ、そういう夢を持っている人たちには、その夢を大事にする一方で、より慎重に、そして戦略的になってほしいと思うのです。
それと同時に、子どもは1人でも育てられるような社会環境が整えられていって欲しいと思います。親が1人で子どもが1人とか2人っていうような人たちが、協力し合えるような施設なり制度みたいなものを作っていくことの方を応援したい気持ちはあるんですよね。
■若い人たちへ
パートナーシップ制度は、結婚と同じ制度ではありませんが、少なくとも自治体なり国が同性同士の関係も男女の関係と同じように大切なものだと認めれば、後からやってくる若い性的マイノリティの人たちはパートナーシップのビジョンを持ちやすくなると思います。
僕が子どもを育てるビジョンを持てなかったばかりに、子どもに無関心になってしまったように、後からくる『今の結婚から疎外されている人たち』が『親密でかけがえのない関係』に無知や無関心や冷淡になってしまうとしたら、それはあまりにも悲しいことです。
すでに何十年もパートナーシップを育んできた人たちには、法的な拘束力をもたないパートナーシップ制度がどれほど魅力的に映るかはわかりませんが、後からやってくる若い人達にとっては、ものすごく重要な意味を持つと思います。それは同性同士のパートナーシップを応援してきた僕の望みでもあります。
大塚さんが呼び掛け人になった新宿区でのパートナーシップ及びファミリーシップ届出制度に関する条例は、3/17に反対派多数により否決された。
一般社団法人こどまっぷとは.. 「子どもが欲しい」また「子どもを育てている」
LGBTQの方々や、応援する仲間たちを 繋げる非営利型の一般社団法人です。
日本に限らず世界のメンバーとの情報交換や交流会を行ったり、日本全国で交流をするための場所を創っていくことを一つの目標としています。
また、各ライフステージで必要となる専門家を紹介したり、絵本を出版したり、親だけではなく子どもたちの繋がりをサポートし、 LGBTQのかぞくがより住みやすい社会を目指して、当事者を中心に活動を広げています。https://kodomap.org