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娘のカミングアウトをきっかけに社会を変えることを志した母

こんにちは!Love Makes Family編集部です。

既存のかぞくの形に囚われない、新たな生き方のヒントを発信する次世代WEBマガジン『Love Makes Family』、第15回目の連載です。

今回は、レズビアンの娘を持つ矢部文さんにお話を伺いました。

矢部 文(やべ あや)さんプロフィール
ニューヨーク在住の翻訳家・教育コンサルタント。アメリカ在住36年。性的マイノリティやそのかぞくを支援するアメリカの団体PFLAG NYC - API Rainbow Parentsのメンバー。LGBTQの日系人やアライをつなぐロサンゼルスの団体Okaeri Connects!のファシリテーター。女性パートナーと婚姻したレズビアンの娘を持ち、アジア系の性的マイノリティやそのかぞくを支える活動をグローバルに行う。
PFLAG NYC - API Rainbow Parents
Facebook:https://www.facebook.com/apirainbowparents/
Okaeri
ホームページ:https://www.okaeri-losangeles.org/
〇文さんのことをもっと知りたい方はこちらをチェック!
Twitter:https://twitter.com/kyogai?lang=ja

お子さんが小学生の頃から、「もし自分がゲイだと気づいたら早く言ってね。100%サポートするよ。」と声をかけてきた文さん。しかしながら、レズビアンの娘さんからのカミングアウトは大学卒業後だったと言います。

LGBTQの親やかぞくとして、どのような支援を行うことが当事者に求められているのか。数多くの支援団体が存在し、日本よりも充実した活動が行われているアメリカで、アジア系のLGBTQとそのかぞくを支えてきた文さんにお話を伺い、今日本で求められている支援について考えてみました。

■子ども達が小さい頃から、「もしゲイだと気づいたら言ってね」と声をかけてきた

こちらの記事を読み、文さんはお子さんが小さい頃から、どんなセクシュアリティでもサポートするよと声をかけていたと知りました。私たちの親世代にそんなお母さんがいたなんてとても驚きました。もともとLGBTQについて関心や知識をお持ちだったのでしょうか?

私も夫も、子どもたちが小学校低学年ぐらいの頃から、「もしも自分がゲイだと気づいたら早くお父さん、お母さんに言ってね。」と伝えて子育てをしていました。話のチャンネルを持っておきたいな、高校生になる前にいろいろな話をしたいなと思っていました。

元々、私の弟が大学に入った頃に父が同様のことを言っていたのを聞いていて、「親子の会話ってそういうものなんだな」と思ったのです。それが私の中でスタンダードとなり、自分の子どもたちにも同じように話したというのが始まりです。

―とても珍しいことですね。

私が同年代の人たちよりもLGBTQの人たちに対してオープンだったり知識があったりするとしたら、二つの要素が考えられます。一つは、学問としてHomosexualityについて学び、知識があったこと。オハイオの大学院で人類学を専攻した時に、Human Sexualityという授業のティーチング・アシスタントを務めました。たまたま先生がゲイで、ゲイを扱った映画や音楽を集めて生徒に見せる授業だったのです。もう一つは、同性愛者の人たちが身近にいる環境で育ったことです。私の父は開業医で、地域の同性愛者をサポートする気持ちを持っていました。子どもの頃に父と母がそういう話をするのを聞いていましたので、私の中では(LGBTQという存在についても)当然だろうという意識がありました。

―娘さんからのカミングアウトはいつでしたか?

大学を卒業してからです。

―文さんのような親がいて、あなたを受け入れるよという姿勢を幼い頃から伝えていたにも関わらず、カミングアウトまでには時間がかかったのですね。

親(の態度や理解)はあまり関係ないのかもしれません。高校で友達からの同調圧力や違和感を身体全体で受けている子どもに、親が「大丈夫だよ」と言っても届かない。もしくは、届いていたとしても、今の自分の状況をどうしたらよいかと、もっと切羽詰まっていて、沈んでしまうような気持ちだったのかもしれません。

―アメリカに住んでいてもそうなのですね。

うちの子どもたちはアメリカで育っていても半分日本人ですから、日本的な部分もあります。それは別としても、何人であるかということはあまり関係なく、自分を受け入れる下地ができているかどうかということが影響していると思います。

2017、2018年頃に、娘と一緒にインタビューを受けました。その時、私にも夫にも話しても問題ないと思っていたけれど、自分を受け入れることがなかなかできなかった、そして、(カミングアウトをすることで)日本の親戚の人たちとのつながりが消えてしまうんじゃないかと心配していた、と娘が言ったのです。日本にある何となくホモフォビック(=LGBTQに対する偏見)な匂いとでも言えるようなものが、娘にも伝わっていたのかなと思うのです。

うちの子どもたちは、小学1年生から中学3年生までの間、毎年夏休みに日本の公立小学校・中学校に一時的に通っていました。日本的ないじめや恋愛の話もその経験を通じて知り、日本にはびこるホモフォビアを分かっていたのではないでしょうか。

実際に、娘が同性パートナーと結婚することになり、結婚式の前に婚約者を連れて日本に行きたいという話を私の母である祖母にする時、娘はとても震えていました。おばあちゃんは私を育てた人なのだから大丈夫なんじゃない、というのは分かっていたはずですが、どんなにかぞくがサポーティブであっても、カミングアウトをする時には万が一を想定して緊張してしまうのです。社会のどろどろしたものが、私の可愛い娘の心を黒く塗ってしまったのかな、社会に負けてしまったのかな、私一人の力では足りなかったのかな、と感じました。それが今の活動につながっています。

娘がどうしても直接話したくないと言うので、彼女を隣に置いて、私が電話で母に話しました。「お母さん、ニューヨークでは同性婚ができるんだよ。」と話したら、母が「フランスでもできるんだよ」と言ったので、これはイケるかもと思いました。もちろん、母は私を育てた人ですから、私が言えば絶対に分かってくれると90%は確信していたのですが、あまりにも娘がうろたえていたので、もしかして10%(の事態)があるかもしれないと思ってしまったのです。それで、「今度娘が日本へ行くんだけど、婚約者が女性なんだよ」と言ったら、「あぁそう」とあっさり言われて、「何日泊まるの?」「何食べられる?」と。それを聞いていた娘は号泣しました。これを思い出すと、なんであんなことにドキドキしてしまったのだろう、とますます悔しくなります。


―やはりかぞくだけと過ごしているわけではないですし、ご本人の中にはいろいろな思いがあるのですね。

やはり娘は私のコピーではなく、子どもというのは一人の、独立した個人なんだなということを感じましたね。


■LGBTQが受け入れられない社会を、母が変える

―LGBTQの支援活動を始めたのは、娘さんがきっかけですか?

娘のパートナーが、「PFLAGという団体がアジア系向けのイベントを行うから参加してみては?」と声をかけてくれました。PFLAGは約20万人の会員を持つ全米最大のLGBTQの親とアライの団体です。NY支部の方々が、新しくアジア系の人たちへのサポートを始めたということで開催した1回目のミーティング、ブックリーティングのようなイベントに参加してみました。そこで、アジア系の若い子たちが(自分たちの)親が無理解だと言っていて、いろいろな話を聞きました。私は、アジア系の親は子どもを中心とする考え方なので、自分のことは二の次にして子どもを受け入れると思っていました。でも、そうではない人たちがいるということにそこで気が付き、ショックで天地がひっくり返るような気持ちになりました。その日は娘と一緒に参加していたのですが、帰りにレストランに寄ってそのことを話したら、娘から「お母さん、それが世の中なんだよ。私たちは受け入れられない社会に住んでいるのよ。」と言われ、声が出なくなるほどの驚きと怒りが沸き起こりました。そして、娘から「そんなに怒っているなら、あなたが社会を変えれば?」と言われ、私も怒りに任せて「わかった。じゃあ私が社会を変えてみせるよ!」と言っちゃって、PFLAGの活動に参加するようになりました。

―具体的な活動内容は?

PFLAGの中でAPI Rainbow Parentsというグループを作り、韓国・ベトナムなどアジア系の親約10名、クィアの方々約30名で活動しています。クィアの団体であるNQAPIAとも一緒に活動しています。NQAPIAからは、子どもをサポートし、子どもを受け入れる親たちのストーリーテリングを始めたいと声がかかり、親を中心としたワークショップを始め、2017年と2019年には日本でも開催しています。これは英語での活動です。

また、同じ目的を持つロサンゼルスの団体で、日系人向けに日本語で活動するOkaeri Connects! にて、親としての経験を話したり、コミュニティづくりをしています。

―そのような、当事者やその周囲の方を支援するような団体は、アメリカには多いのでしょうか?

サポートグループは多いと思います。まず親がメンタル的に強くなければならず、白人の方がメインではありますが、お互いに愚痴を言う場所をつくりたがります。

逆に、アジア系の中では、「サポートグループ」と言うと人が集まりません。私はサポートされるほどメンタル弱くないですから、困っていませんから、と全部内側に閉じてしまうのです。他のリソースを使わないのです。メンタルヘルスのカウンセラーへの相談を恥ずかしいと考えたり、色々な理由をつけてやらない。そのため、「サポートグループ」とは呼ばず、「おしゃべりの会」や「お茶を飲みましょう」などと言うようにしています。

―当事者ではない「親」が主体的にそのような活動に参加するとは、バイタリティがありますね。

私は娘のカミングアウトに傷ついたなんてことは全くないし、娘を「受け入れる」ということに体力を消耗することもありませんでした。これは娘の問題でも私の問題でもなく、あっち(社会)の問題だと思っています。活動に参加している親たちにはやはり同じような考えを持っている人が多いですね。子どもを守るということに真剣になるのであれば、その先の活動に行き着くべきだと思います。でも、日本人やアジア系の親たちは、「私なんか」「何もわからないし何もできない」と自己否定してしまう人が多く、なかなか次の活動につながらない気がします。

後編に続く



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ラブメイクスファミリー編集部
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