ローレン先生
ローレン先生は韓国人だ。
韓国人のくせに、何故「ローレン」などという西洋人の名前を持っているのかというと、彼女はアメリカに住んでいて、「ローレン」はアメリカンネームなのだ(私は彼女の本名を知らない)。
アメリカに来ている韓国人は、大体、アメリカンネームを持っている。ローレン、キャサリン、エリック、アンディ・・・等々。多分、アルファベットの国の人にとって、韓国人の名前を正しく発音するのが難しいからだと思う。
なぜローレンは「先生」なのか。
彼女は韓国では、幼児向けの英語教室の先生だったらしい。だから私は親しみを込めて、彼女をローレン先生と呼んでいた。
ローレンとは、アメリカのアダルトスクールで知り合った。
同じESLのクラスで、グループディスカッションをしたことがきっかけで、仲良くなった。
ローレンは、母国では英語の先生なのに、英語があまり上手ではなかった。
しかし、彼女は表現力が素晴らしかった。
自分が気に入らないクラスメートの話をしている時に、彼女はものすごい悪そうな表情をつくって、「あの子はね、greedy face!(グリーディフェイス:卑しい、強欲な顔)よ!」と言った。
お陰で私は、「greedy」という単語の意味を覚えることが出来たし、10年経った今でも、ローレンのあの表情とともに、greedyという単語は私の脳みその海馬にしっかりとこびりついている。
ローレンは、人の好き嫌いがちょっと激しかった。
しかし、私の事は気に入ってくれたようで、なにかにつけて私をいろいろなところへ誘ってくれた。
みんなで食べ物を持ち寄ったポットラックパーティーや、クラスメートとの韓国料理屋での飲み会、お家に招いてくれたこともあった。
ローレンが韓国人だから、仲良くなれたと思う。
他人に厳しくて、教育ママで、二言目には娘がUCLAに通っている自慢をして(「マイドウター、イズ、ユーッスィーエルッエー」は彼女の口癖だった)、三言目には旦那が金持ちであることを自慢するやつなんかと、日本人だったら絶対友達になりたくない。
ローレンが韓国人で日本語がまったく話せず(日本に興味すらなく)、お互いにカタコトの英語で話す距離感だったから、ローレンのいいところだけを見ることが出来た。
車社会のロサンゼルスで、車もなくて、自転車と歩きとバスで、化粧もろくにせず真っ黒に日に焼けてよれよれの服で学校に通う私を、ローレンは憐れんだりしなかった。
施しを与えようとは絶対にしなかった。
ただの自分のお気に入りの友達(マイ•フェイバレイトフレンド、とよく言っていた)として、私と話をすることを、ゲラゲラ笑い合うことを、楽しんでくれていた。
だから、私も楽しかった。
ローレンや、あの時一緒にいた皆はどうしているかな、と思い出す。
あれからもう10年も経つんだな、と。
トランプが大統領になったり、コロナ•パンデミックがあったり、今は、ロサンゼルスが方々山火事で大変なことになっている。
元気でいるといいな。
そういえば、ローレン先生は、手相を見るのが得意だった。酔うと余計に冴えるのだと言って、韓国料理屋でチャミスル(韓国の焼酎)を飲んでは、いろんな人の手相を見ていた。
私も見てもらった。
「んー、あなたはね、結婚遅いほうが幸せになれるわよ。好きなことやんなさい。」
と言われた。
あれからかれこれ10年経って、私は結構やりたいことをやってきた。
しかし、ローレン先生。
けっこんは、、、まだ、、、、ですかね。
会うことができたら、聞いてみたいもんである。