アメリカのクリスマスは少し残酷。
十年近く前、ロサンゼルスに二年ほどいた。
駐在員として一年働き、そのまま退職をし、残りの一年は現地でふらふらしていた。
住んでいたのは、トーランスというところで、昔、トヨタのナショナルオフィスがあった場所だ。日系の企業が多く進出していて、日本人が多い地域だ。中国人、韓国人、メキシコ人やグアテマラ人などラテン系の人も多く住んでいる。アメリカは、人種のるつぼ、移民の国だと、強く感じた。
トーランス市は、日系のスーパーマーケットや日本食のレストランもあり、日本語が通じるお店がたくさんあるので、初めて海外を経験するには、ハードルが低い地域だと思う。
私は、トーランスの日本人が多く住んでいる安心感も良かったけど、少し違う場所に行けば、THE アメリカな雰囲気が楽しめたり、メキシコ料理が美味しかったり、コリアンタウンもあったり、いろんなものが雑然としてある感じが、面白くて好きだった。
そして、何よりビーチ。泳ぐわけではないけれど、ぼんやり海を眺めることが好きだった。
アメリカは、10月になるとホリデーシーズンに突入する。10月はハロウィーン、11月はサンクス・ギビングデーとブラック・フライデー、そして12月はクリスマス。
少しずつ、街全体がイルミネーションで彩られ、浮かれていく感じがわかる。みんな、仕事なんか適当にやって、ホリデーシーズンを心から楽しむのだ。
「人生は楽しむものだ」
このことを、私はアメリカで教えてもらった。
クリスマスシーズンになると、トーランスの一部の住宅地が、イルミネーションで彩られる。
住民たちが自分でお金を出して、かなり気合をいれてやっていて、そこは、ちょっとした観光スポットになっている。
私も友人に「日本人はこういうの絶対好きだとおもうよ!」とすすめられて、ツレと見に行った。
こんな感じでデコレーションされた家がいくつも並んでいて、ちょっとしたクリスマス気分を味わうにはいい。
カリフォルニアとはいえ、12月にもなると夜は結構冷えるので、ツレと「寒いね」なんて言いあい、出店のホットココアを飲みながら、歩いていた。
デコレーションされた家の中には、当然住人がいて、白人の5歳くらいの男の子が、暖炉の前で本を読んでいた。
いいな、この子はこんな素敵な家に住んで暖炉にあたれて、と、まるでマッチ売りの少女が暖かい暖炉と美味しそうな料理の幻覚をみるように、私はその家を眺めたのだった。
周りをみると、イルミネーションを見に来ている人たちは、有色人種ばかりだった。
私たちのようなアジア人や、ラテン系の人たち。
私たちの前をラテン系の家族連れが歩いていた。
夫婦と、その子どもの男の子が一人。
男の子は、家の中の白人の子と同じくらい歳の子だった。
私は、この景色はこの子にとって、結構キツイんじゃないかな、と思った。
自分は、寒い外で、綺麗に飾られた素敵な家を見ている。
でも、白人のあの子は、素敵な家の中で、暖かい暖炉にあたっている。
寒い外にいる自分と、大きくて素敵な家で暖かさと豊かさを享受しているあの子。
アメリカの格差社会ってエグいな。と思った。
この子は、こういうものを、これからもうんざりするほど見せられるんだろう。自分ではどうしようもない、肌の色による違い。そしてそれによる、人生で得られるものの違いを。
だから、アメリカで生まれ育った移民の子たちは、みんな強くなる。自分は権利があるのだ、としっかり主張する。豊かさを手に入れるために。自分の人生を楽しむために。
あれから、あのラテンの男の子はどうなっただろう。
素敵なティーンエイジャーに成長しただろうか。
もうすぐ、新しいアメリカ大統領が決まる。
大統領が変わったからといって、格差や人種差別がなくなるわけではない。
でも、少しは、クリスマスくらいは、みんながそれなりに楽しめる世の中になるといいなと思う。