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ラッシュ in The Dominican Republic.

毎日、満員電車に乗っていると思う。
電車の出入り口付近で、人間つっぱり棒になっているおじさま方、奥に詰めてくれ。座席付近には人が立てるスペースが、まだ空いている。
クソでかいカバンを肩にかけて、貫禄ある体格でスマホのゲームに夢中になってないでさ、ちょっとは周りを気にしてくれよ。
ちょっと前に詰めてくれるだけで、あなたの後ろを通って奥にいけるんだ。運良く座れてる人、ちょっと足を引っ込めてくれるだけで、その分、詰められるんだ。ほんのちょっとしたことなんだけどな。

昔、ドミニカ共和国という、カリブ海の島に一年ほど住んでいた。海外ボランティアの活動をしていたのだ。そこでの主な移動手段は、徒歩、バス、乗合タクシー、Uberだった。
ドミニカ共和国には、バイクタクシーもあり、ふつうのタクシーよりも安くて小回りが利くことから、現地の人はそれを使う人が多いが、客にはヘルメットが与えられず、事故に遭えば死ぬ可能性が高いため、私たちボランティアは、バイクタクシーの利用を禁止されていた。だから私は、バスか、乗合いタクシーを使うことが多かった。Uberも日本の金銭感覚で考えれば安いが、ドミニカ共和国の平均月収は月50,000円で、ボランティアの手当は、その国の平均月収と一緒なので、ほいほい乗っていると金欠になる。

現地では、いくつかの種類のバスが走っている。都市間を結んで長距離を走るツアーバス、日本のバスと形が近い市営のバス、そして、ドミニカ共和国で、もっともポピュラーなのが、guagua(グアグア)と呼ばれる、個人事業者が運営している小型バスだ。

ラッシュ時のグアグア

この写真で、青いシャツの、カエルみたいにバスに貼り付いている人は、cobrador(コブラドール)と言って、客寄せをし、バスに乗せ、運賃を取る人だ。

私も、流石にここまで人がギュウギュウのグアグアに乗ったことはないが、入り口付近に立ち、バスの揺れで外に転がり落ちそうになりながら、手すりにしがみついたことは何回かある。

グアグアの料金は、距離にもよるが基本一律だ。
だから、グアグアで金を稼いでいるコブラドール達にとって、ラッシュ時に客をどれだけバスに詰め込めるかは、なかなかの死活問題だ。コブラドール達は、バナナのたたき売りのように、バスの車体をバンバン叩きながら客の呼び込みをする。道で手を挙げて、乗りたいでーす、と意思表示を示したお客を拾い、車内に詰め込んで行く。
なるべく効率よくお客を乗せるため、コブラドールは、赤信号でバスが止まるたび、こまめに車内整理をする。お前は、もうちょっとこっち来い、あんたは、そっち詰めて。というように。綺麗に積み上がったテトリスのように、客が詰めこまれたグアグアは、乾いたエンジン音を鳴らし、排気ガスをぶおぉっと、まき散らして走っていく。

日本の満員電車に乗っていると、コブラドールがいればいいのに、と思う。
駅で乗客の乗降りがあるたびに、コブラドールが、はい、おばあさんはこっち座って、そこのあなたは荷物寄せて、そこのおっさんはこっちのスペースね、と言いながら、綺麗に乗客を詰めてくれたらいいのに、と思う。

ドミニカ共和国でボランティア活動をしていた人の中には、60歳を超えて参加していた人もいた。その中の一人が帰国する時に、「もう、バスとかメトロ(地下鉄)で、席を譲ってもらえなくなっちゃうのね。」とぽつりと言った。ドミニカ共和国では、バスや地下鉄で、お年寄りに席を譲るのは当たり前のことだ。
ドミニカ共和国は、開発途上国とされている。しかし、満員電車でスマホのゲームに夢中になって、周りに目を向けられない日本人を見て思う。
これじゃ、どちらが開発途上なのか、わかんないな、と。

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ルル秋桜
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