父親を殺そうとした人に人生を変えられた話

お前が母さんを殺した
お前のせいだ

実の父親に
こんな言葉を浴びせたことがある人はどれくらいいるのだろうか

私を今いる場所に導いてくれた人
彼がいたから
同じ仕事がしたい
いつか一緒に働きたいと思えた人
性別を超えた人間力に
会った時から惹きつけられていたのかもしれない
心から尊敬できる人
背中をずっと追いかけて
ようやく肩を並べて
動ける日が来ている
まだ私は彼に比べたら未熟だけど

彼の本質に興味を持った日
彼の生い立ちを尋ねたことがあった

照れくさそうに
面白くないからと話してくれた

お母さんは病気がちで
彼が幼い頃には入院生活
小学生の時に亡くなった
それから父親はアルコール依存で働かなくなって
彼自身も荒れた生活を送っていた
彼の母方の叔母が
彼に叔母のいる業界にくるように助言した
叔母が人生を変えた
と、私に話した
叔母さんはすごい人なんだ
彼はいつも自分以外の人を褒めたたえる
俺がすごいんじゃない
俺に縁をくれた人がすごいんだ

今の私も
彼と同じ気持ちでいる
あなたのおかげだよ
それを伝えても突っ返されるけど

叔母さんが
彼の仕事のサポートをしてきたらしい
彼が独立したときは
簡単な事務を手伝ったり
コロナ明けからは今の仕事の電話番をしてくれている

私もようやく
その輪に入ることができた

叔母さんに簡単な仕事を教わりながら
彼がいない事務所で
叔母さんが教えてくれた

あの子が父親にそう言ったの
私もその場にいたんだけど
何も言えなかったわ
多感な時期にね
お母さんもいないで父親とふたりでね
ただでさえ男がひとりで子供育てるなんて大変なのに
うつからアルコールに走って
部屋は荒れてひどかったの
あの子も相当我慢してきたのよ

俺、父親を殺そうとしたんだよね

言葉が抱えられないくらい重いのに
ヘラヘラ笑う表情が軽すぎて
昨日蕎麦食べに長野に行ったんだよね
とおんなじトーンで話していた彼の横顔がよみがえる

そのときどんな感情だった？

彼は私にいつも
俺一人じゃ何もできないから
手伝ってくれてほんと助かる
ありがとう
口ぐせみたいに言う

私も彼にお礼を返したい
彼を作り上げた歴史も環境も引き受けて
ビジネスパートナーとして
そばで彼をサポートしたい
私の前では下ネタばかり言う
彼のセクハラも
誰よりも仕事に情熱を注ぐ姿も
まるっと全部
どうしようもなく愛おしい
男女の枠を超え
彼と繋がっていることに歓喜する

最後に叔母さんが付け加えた

末期がんになった父親を
あの子がホスピスで看取るところまでしたのよ
後悔してるのか
責任感なのか
あの子　そーゆー子なのよ

最後まで読んでくださりありがとうございました