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昼寝と棘

 まだ昼間なのに眠すぎて視界が定まらないから、文庫の文字が頭に入らず、栞にした親指を挟んだまま本を閉じた。この文庫はバイト先の同僚がくれた新刊だったんだけれど、長いこと鞄の中に入っていたから角が擦り切れて白くなっちゃった。布団に寝転がった僕に彼女がなにか云う。やかましいと寝返りを打つと僕はなんでか河川敷にいて、草っ原で汚れた宇宙ヘルメットと二人で晴れた空に当たっているんだった。僕らのそばにはいちじくの木が生えていて、僕はその実を採りにいったのだけれど、その木はもう黒くかさかさに枯れてしまって実も付けない。連続する光景の断片は取り留めがなく、僕は突っ立って目の前の光景を眺めるばかりだった。
 目を覚ますともう夕方だった。さっきまで白く明るかった窓辺には橙の光が流れ込んでいて、そのさまに苛立った心の中で、赤黒い棘の玉が転がる音を聞いた。文庫は手から離れて閉じてしまっている。これではもうどこまで読んだかわからない。

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