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風船に重し

 世々限りなく、という言葉のかけらが運転中ずっと頭に刺さっている。カーステレオから流れる女性のラジオパーソナリティの声に頭がぼんやりとした。車内にたいた暖房のせいかもしれない。ラジオパーソナリティの声はうちの彼女話し方に似ていた。読点の置き方や言葉尻の抑揚が気になって少しボリュームを下げた。墓地の駐車場には一面に雪が積もって白い。純潔だと思う。まだ誰にも汚されていない清潔が目の前にはあって、ワイパーで除ききれなかった雪のがびがびがこびりついたフロントガラスのフレームいっぱいに拡がっている。墓地の塀や、その塀の向こうにある雪帽子を被った石灯籠の黒い色やとたん小屋の茶色く安っぽい壁の色が雪の中でかすかに見え、それが目の前の景色を現実のものとして僕を留めているように思えた。圧倒的な城の中に散るその色の雑味は、非現実な景色を前に風船のように飛んでしまう僕の意識を留める重しだった。
 墓地の駐車場には一面に雪が積もって白い。その景色は化粧したうちの彼女みたいに綺麗だ。

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