
オセロゲーム
炭酸を注いだグラスコップの内側にはたくさんの小さな泡が貼り付いていて、それらは剥がれて上に向かってはじけて空気と混ざったり意地でも貼り付いたりしている。赤い丸卓の上に放置されたオセロゲームは一時停戦で、友人がトイレから帰ってくるまでのあいだ僕は暇だった。携帯のメッセージ、彼女からの返信は返ってきていない。既読すらつかずにもう一ヶ月経っていた。〈正月そっちに遊び行けそう。予定空いてる?〉〈返信ないけど元気? 大丈夫?〉〈生きてる?〉一方的に送信したメッセージはスタンプの数も合わせて四個になってしまった。友人は「他に男できたんやろ」と笑った。
「おまえ、駒動かしてないやろな」と友人がベルトを締めながら入ってきた。
「手洗ったのかよ」と僕は言った。
洗った、洗った、と笑う友人は丸卓に置かれたウィンストンからたばこを一本抜き取って吸うか? のモーションを見せたけど僕は遠慮した。
「やめたんだよ」
「懸命やな」と友人は云った。「吸うとったから嫌われたんちゃん」
「うるさいな」
まええわ、と云って友人はどっちからやったっけと座る。オセロゲームは彼の黒が優勢だった。