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鏡合わせ
窓の外、建物はもうすっかり暗いのに空がまだ明るいのは今が夕方だからで、床に伸びる僕の影の長さも、外で聞こえる子どもたちのじゃあねも、みんな寂しいような気がしました。こうしてじっとしているうちも、日はどんどん傾いて、夜が来て、星が出て、しばらくしたらまた朝が来るんです。そうすると僕はいつも通り、角パン二枚をトースターで焼いて、マーガリンとジャムを塗って食べて、歯を磨いて、ネクタイを締めて会社に行きます。海で男子中学生が入水しても、近所の高速で車がひっくり返るほどの事故があっても、卵とキャベツが値上がりしても変わりません。偶に、このまま生きていてもいいのかなあなんて思うことがあるんです。このまま大きな変化もなく平和に暮らすことに意味なんかあるんでしょうか。その問いに僕はいつもうまく答えることができません。問いを突きつけてくるもう一人の僕もまた、困った顔をしているものですから、ちょうど鏡合わせみたいに僕らは向かい合います。そうして今だって、暮れてゆく部屋の中で、僕と目の前の僕は困った顔をしているんです。
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