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夜の森の鯨

 夜の森中で鯨の声がした。鯨の姿は見えず、ポロロロロ、と木々の間に低くどこまでも染み渡るような声に心許ない気がした。いつの間にか石ころ兵たちもいなくなっている。ただカチカチという石のぶつかる音だけが暗く足許に転がっていた。僕は歩いた。草葉を踏み、背負ったリュックの重たさが肩に食い込んで痛みはじめているのを感じた。河岸に出ると月が見えた。川をまたぎ、僕はどこまでも歩いた。森に果てはないように思えた。クジラがまた鳴いて僕をおびやかした。

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