[小説] 紅葉の向こうにキリマンジャロとフラミンゴが見える(約2100文字)
紅葉の向こうにキリマンジャロとフラミンゴが見える
「紅葉からの『キリマンジャロとフラミンゴ』ってさー、まじ意味わかんない」
ユウは同級生のミクとコンビニのイートインで小腹を満たし、塾に向かうのが日課。
「てかさぁ、わたしには、ユウと学年トップの翔くんが付き合ってるってことの方が意味わかんない〜」
「はぁ?」
翔とユウは、幼馴染。
翔は小学入学前に引越して、二人は離れ離れになった。
その後、高校入学で再会した二人は一年の文化祭から付き合いだした。
今は翔と塾も同じ。
と言っても、成績優秀な翔は二年に進級すると同じ系列の都心の特進コースに行くことになった。
だから、今もユウは中学からの親友ミクとつるんでいる。
「幼馴染って言ったってタイプ全然違うじゃん?」
「で、何?その『紅葉からキリマンジャロ』って。何?…大喜利?」
「うん、それがねぇ。なんか、配信で観た映画にすっかりハマって。その話ずっとしてさぁ。『アフリカに行く!』って、言い出したの」
「え〜、アフリカ?!」
「ほら、『仁』ってドラマあったじゃん?あれに出てた俳優さんが医者役で出てるの。アフリカで医療する映画なんだって」
「あー、それお母さんに聞いたことある…さだまさしが歌ってる主題歌は、聴いたことあるかも」
「うん、その映画でね、『ビクトリア湖の朝焼けが綺麗で、たくさんのフラミンゴが飛んで前見えないくらい』って言う歌詞あってね。スマホでも、その歌ばっか聴いてるの」
「マジ?!」
「この前、久々にデート行ったんだけど、『うわー、もみじ、綺麗ね』って私が言っても、『赤って言ったらさ、アフリカのビクトリア湖の朝焼けも、真っ赤なんだ』ってまた、映画のこと話しだしてね」
「ハァ…それで」
「小さい時から『医者』って夢は聞いてたけど、アフリカで医療するのが夢になったみたい」
「なんか、すごいね…」
三人は大学生になった。
別々の道に進んだ翔とユウ。
二人の付き合いは続いていたけど、お互いに好きなのに、二人の遠距離恋愛はすれ違い。
翔の研修の忙しさもあって、いつのまにか自然消滅したようなものだった。
やがて高校卒業から十年以上の月日が過ぎた。
翔は医者になり、夢叶えてJICAの職員になってアフリカに行った…。
ミクは結婚して子どもが生まれ、ユウは駆け出しのアニメーターとして働いている。
急に深まった秋。
紅葉狩りに最適な季節になった。
「ねぇ、ミク。そろそろ山のほうは、紅葉綺麗だって。今度、ドライブ行かない?」
LINEの返信がすぐきた。
「行こう!来週ね」
あの後、「子どもも一緒だから紅葉よりドライブして隣の県の動物園でもいい?」と折り返しの返信が来て、動物園に行くことになった。
実はミクは、ユウが毎月のように動物園に一人で行っていることを知っていた。
ユウは、フラミンゴを見ながら深くため息をついた。
「あれ?ユウちゃん泣いてるの?」
ミクの娘の凛は、ユウの顔を覗き込むようにして言った。
「え〜…違う違う。
ゴミが目に入っただけよ。
凛ちゃん…ほら、も一回、キリンさん見に行こうか」
「うん、行こう行こう。キリンさん大好き。ユウちゃんのかいてくれる『キリンさんやゾウさん』も好き。ねえ、ユウちゃん、『アシのながい、ピンクのトリさん』の絵をまたかいてね!」
紅葉の山を抜けて帰る車中で、ミクは
「ねえ、この歌、知ってる?」と言って曲をかけた。
それは、ヨルシカの「負け犬にアンコールはいらない」…
「この歌を聴くとね、二人のこと思い浮かべて、もどかしくなるの。この歌の中の女の子。彼氏のところに飛び込むのよ。荷物まとめてね。
この歌と違って、翔くんの場合、『負け犬』ってより、むしろ勝ち組だけどさ」
ミクは笑った。
ユウは黙って歌を聴いていた。
「…翔くんね。この夏、お姉さんの結婚式で一時帰国した時ね。まだ一人だって言ってたらしいよ…諦めきれないでいるんじゃないの?
ユウ、この歌の中の子みたいに、勇気を出してみなよ!」
あれから一か月。
ユウは、ずっと溜めていた有給休暇を取り、成田に向かった。
飛行機は、雲をぐんぐんと突き抜けて青い空を進む。
彼女は、アオハルの決着をつけるためにアフリカに向かった。
あれから十年の間に、あの映画を何十回観ただろう。
その光景は、いつのまにか彼女の経験の一部のようになっていた。
「『あの日、翔くんについて行く』って何で言えなかったんだろう」
実は、渡航前に翔はユウにプロポーズをしていた。でも、ユウも進み出したばかりのアニメーターの道もあきらめられずに…。
アフリカは遠かった。
翔は、結局、夢に向かうユウのことを思いリスクもある遠い土地に愛する人を誘うことをためらった。
後悔の月日…
彼女はアフリカ大陸に降り立った。目の前に広がるアフリカ。
その時、強い風が吹き、帽子を飛ばしそうになった。
慌てて手で押さえながら思った。
「これか…アフリカの風」
ケニアのムッとする熱く痛いくらいの太陽が、彼女に勇気を与えた。
「『もう遅いよ』って振られたっていい」
そう思ったら、怖くなくなった。
「翔くん、来ちゃった…
ビクトリア湖の朝焼けとフラミンゴ、観たくなって」
日焼けした翔の笑顔が、ユウに駆け寄ってきた。
小牧幸助さん、いつもありがとうございます😊
参加させて頂きます♪
よろしくお願い申し上げます!