連載小説『殺し屋のるーる』⑫
3月公演『殺し屋のるーる』の戯曲を小説風にしてみました。もうこれはほぼほぼネタバレです(笑)
どうぞお楽しみください。
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【登場人物】
チヒロ(私生活ではニートだが裏の顔は殺し屋 殺し屋協会所属)
サエキ(殺しの依頼人 殺し屋協会所属)
エモト(殺しのターゲット 殺し屋協会京都支部所属)
キノッピー(チヒロのニート仲間 ゲーム好きのニート)
タケポン(チヒロのニート仲間 夢追い型ニート)
サエコ(コンビニの店員 コンビニではチヒロの先輩 年下なのにチヒロに先輩風を吹かせる小生意気なイマドキ女子高生)
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《前回からの続き》
事務所の空気が凍りついた。エモトは銃を構えながら、うちの一挙一動を見逃すまいと鋭い目で睨んでいる。だが、その目にはどこか迷いのようなものも見えた。
「お前、本当に俺を殺せるんか?」
その問いに、うちは言葉を失った。答えなければいけないのに、心の中で何かが引き止めている。
「……わからへん」
それが、今のうちに正直に言える唯一の答えだった。
「はっきりせえへんなあ」
エモトは苦笑し、銃口をわずかに下げた。
「でも、情をかけるのは協会のルール違反やろ?そんなんでええんか?」
「……情なんかじゃない。確かめたいだけ…」
「確かめる?」
「エモトさんが、ほんまに”ルールを破る悪”なのかどうか。それがわからへんまま殺すなんて、そんなんうちにはできひん」
エモトはしばらく黙り込んだ。そして、ポケットからもう一つの銃を取り出して机の上に置いた。
「ほんなら、選ばせたるわ」
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「この銃で俺を殺してもええし、俺と一緒に協会を抜ける道を選んでもええ」
彼の言葉にうちは驚いた。
「一緒に協会を抜ける……?」
「せや。この仕事を続ける限り、お前もいつか同じことを思う時がくる。ルールなんてクソやってな。俺はその時を迎えて、ただ自分が信じる道を選んだだけや」
「信じる道……」
うちはその言葉を反芻した。この仕事に携わるようになってから、自分の信じるものなんて考えたこともなかった。ただ与えられた任務をこなすだけ。それが正しいと思い込んでいた。
(続く)