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連載小説『殺し屋のるーる』⑤

3月公演『殺し屋のるーる』の戯曲を小説風にしてみました。もうこれはほぼほぼネタバレです(笑)

どうぞお楽しみください。 

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【登場人物】

チヒロ(私生活ではニートだが裏の顔は殺し屋 殺し屋協会所属)  

サエキ(殺しの依頼人 殺し屋協会所属) 

エモト(殺しのターゲット 殺し屋協会京都支部所属) 

キノッピー(チヒロのニート仲間 ゲーム好きのニート) 

タケポン(チヒロのニート仲間 夢追い型ニート) 

サエコ(コンビニの店員 コンビニではチヒロの先輩 年下なのにチヒロに先輩風を吹かせる小生意気なイマドキ女子高生)

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《前回からの続き》  

「荒川チヒロです。よろしくお願いします」

面接用に引きつった笑顔を作りながら、うちは店長のエモトに頭を下げた。エモトは穏やかな笑みを浮かべながら、うちを上から下まで観察するように見ていた。

「このお店、前からよく利用してまして、雰囲気がいいなぁって思って……」

準備してきた言葉を並べたが、エモトはどこか胡散臭そうに頷いているだけだ。

「それにしても、面接で『キュン』って言葉使う人、初めて見たわ」

しまった。調子に乗って褒めすぎたか。

「まあええわ。とりあえず今日から働ける?」

「え、採用なんですか?」

「採用や。よろしくー」

普通なら「後日連絡します」が定番じゃないのか。この簡単すぎる採用プロセスに疑問を抱きつつ、うちはその場で制服を渡され、研修に入ることになった。

「チヒロさん、接客の基本って何かわかる?」

制服に着替えたうちを待っていたのは、コンビニの先輩であるサエコだった。ピッチピチの女子高生で、今どき感満載の小生意気な笑顔を浮かべている。

「え、接客の基本、ですか?」

突然の質問に戸惑う。こういう場面では適当に「笑顔ですかね」と答えるべきなのだろうか。でも、それもなんだか小馬鹿にされそうで怖い。

「そう、接客の基本の“キ”!わかる?はい、3、2、1!」

「お釣りを間違えないこと!」

思わず答えたうちの答えに、サエコは盛大に吹き出した。

「何それ!めっちゃオモロイやん!」

「いや、でも重要じゃないですか」

真面目に返すうちに、彼女は手を叩いて笑い続けた。

「もう、おもろすぎるわ。でも、接客の基本は笑顔!ほら、笑顔!」

彼女に強引に指導されながら、鏡に向かって笑顔を作ろうとしたけど、自分の表情を見て逆に凹む。これじゃホラー映画のポスターだ。
(続く)

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