連載小説『殺し屋のるーる』⑩
3月公演『殺し屋のるーる』の戯曲を小説風にしてみました。もうこれはほぼほぼネタバレです(笑)
どうぞお楽しみください。
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【登場人物】
チヒロ(私生活ではニートだが裏の顔は殺し屋 殺し屋協会所属)
サエキ(殺しの依頼人 殺し屋協会所属)
エモト(殺しのターゲット 殺し屋協会京都支部所属)
キノッピー(チヒロのニート仲間 ゲーム好きのニート)
タケポン(チヒロのニート仲間 夢追い型ニート)
サエコ(コンビニの店員 コンビニではチヒロの先輩 年下なのにチヒロに先輩風を吹かせる小生意気なイマドキ女子高生)
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《前回からの続き》
夜、店の片付けが終わったあと、うちは意を決してエモトに声をかけた。
「エモトさん、少し話、いいですか?」
事務所の空気はいつもより静かで、エモトは珍しく缶ビールではなくコーヒーを片手にしていた。彼はそのコーヒーを一口飲みながらうちを見た。
「おう、なんや?」
一瞬言葉に詰まったが、うちは腹をくくって切り出した。
「エモトさん、なんで殺し屋になったんですか?」
彼の目がわずかに細まり、コーヒーを机の上に置いた。その仕草に緊張が走る。
「え…?お前、どうしてそんなこと聞くんや?」
「なんとなくです。でも、エモトさんが普通の人じゃないって、みんな感じてますよ」
「みんな…ふーん……」
エモトは薄く笑った。その笑顔の裏に何かを隠しているのが見て取れる。
「うん…せやな、まあええわ。答えたる」
彼は椅子に深く腰掛け、しばらく天井を見つめたあと、ぽつりと話し始めた。
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「俺が殺し屋になったんはな……元々、普通の営業マンやったんや。まあまあできる方やったけど、上司に目をつけられて、理不尽なノルマを押し付けられた。あれは地獄やったな」
「それで?」
「その上司が原因で、仲間の何人かが精神的に追い詰められて会社を辞めていったんや。でも、俺は耐えた。何とかして、この状況を変えたかったからな」
「……それで殺し屋に?」
「ある日、その上司が交通事故で死んだ。警察は単なる事故やと言うたけど、俺は知ってた。そいつを狙った誰かが仕組んだことやってな。そん時思ったんや。『こういう世界もあるんか』って」
エモトは淡々と話していたが、その声には微かな怒りと悲しみが混ざっていた。
「そんで、俺はその誰かにコンタクトを取った。そいつが俺をこの業界に引き入れたんや」
「復讐がきっかけ……ってことですか?」
「そうとも言える。でも、今はもうちょっと違うな。今の俺は、自分のやりたいことをやってるだけや」
彼の言葉は自信に満ちていたが、その裏には一抹の孤独が見え隠れしていた。
(続く)