連載小説『殺し屋のるーる』⑬最終回
3月公演『殺し屋のるーる』の戯曲を小説風にしてみました。もうこれはほぼほぼネタバレです(笑)
どうぞお楽しみください。
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【登場人物】
チヒロ(私生活ではニートだが裏の顔は殺し屋 殺し屋協会所属)
サエキ(殺しの依頼人 殺し屋協会所属)
エモト(殺しのターゲット 殺し屋協会京都支部所属)
キノッピー(チヒロのニート仲間 ゲーム好きのニート)
タケポン(チヒロのニート仲間 夢追い型ニート)
サエコ(コンビニの店員 コンビニではチヒロの先輩 年下なのにチヒロに先輩風を吹かせる小生意気なイマドキ女子高生)
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《前回からの続き》
その時、事務所のドアが勢いよく開いた。
「ちょっとチヒロさん!何してるんですか!」
サエコだった。
「え、え?サエコさん?」
「おかしいと思った。チヒロさん、なんか怪しいなって。殺し屋やったなんて。マジでビックリ!」
「えっ…!」
背筋が凍る。彼女に正体を知られた以上、この状況はさらに複雑になる。
「なあサエコ、ここで帰っとけ。お前には関係ない話や」
エモトが言う。
「いやいやいや、関係あるっしょ。店長が殺し屋とか、ドラマすぎるやん!」
場違いなほど無邪気な彼女の態度に、うちは頭を抱えたくなった。
しかし、サエコの登場で張り詰めていた空気は一瞬緩んだ。そしてうちは、その瞬間に一つの結論を出した。
「エモトさん」
うちは机の上の銃に手を伸ばしたが、それをエモトに向けることはなかった。
「うち、エモトさんを殺すんは、やめます」
「…ええんか?それで」
「ルールを破った人間を消す。それが協会のやり方。でも、うちはエモトさんがただの裏切りもんやとは思えへん」
「…甘いな」
エモトはそう言って笑ったが、その目にはどこかほっとしたような光が宿っていた。
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翌日、うちは協会に報告を入れた。「エモトの処理は完了した」と。
もちろん嘘だ。だが、協会がその嘘を見抜くには時間がかかるだろう。その間に、うちは新しい生き方を見つけようと決意していた。
エモトとサエコ、そしてうち。奇妙な関係が続くかもしれないが、少なくとも今は、自分が信じる道を選んでみようと思う。
「殺し屋やのに、情なんかかけてどうすんねん」
エモトはからかうように言ったが、その言葉にはどこか温かさがあった。
「だって、うちも、人間やから」
その一言が、次のうちの物語の始まりだった。
(終わり)