\副業は人材流出リスクを高めるか⑨/
今回は、これまでの議論を総括し、企業が取るべき対応について考えたいと思います。
本稿では、はじめに「副業が広がったきっかけ」を理解するため、近年の国の動きを見ていきました。
平成28年の「働き方改革実現会議」において、副業に関する様々な議論がなされました。
そこでは副業のメリットとして、新たな技術の開発、オープンイノベーションや起業の手段、そして第2の人生の準備などに繋がることが挙げられています。
そのため、長時間労働を招かないよう配慮しつつ、ガイドラインの制定など実効性のある政策手段を講じながら普及を加速させていくとされています。
同会議を経て、平成29年3月28日に策定された「働き方改革実行計画」に基づき、副業を推進する方向で施策が展開されているところです。
そのような中、「副業はどのくらい広がってきているか」を見ていきました。
まずは企業の視点からです。
パーソル総合研究所が行った「副業の事態・意識に関する定量調査」によると、2021年の企業の副業容認率は55.0%と、2018年の51.2%より3.8pt上昇しています。
そのうち「全面容認」として割合は23.7%と、前回の14.4%よりも9.3pt増加しています。
つまり、企業は、副業を容認する方向になっていることが分かります。
一方、従業員視点では、2018年と2021年の副業実施状況を比べたところ、概ね横ばいという結果になりました。
さらにその内訳を見たところ、年収が低い層では副業希望が増加しているなど、年収層ごとに違いがあることを確認しました。
次に、「企業が副業を禁止する理由」と「実際起きたデメリット」の比較を行いました。
すると、「人材の流出につながるから」を理由にして禁止している割合が10.4%に対し、実際に発生している割合が35.8%という結果が分かりました。
それぞれの回答企業について、副業を禁止している企業と容認している企業という差はあるものの、想像よりも人材流出につながるリスクは高い、ということが示唆されています。
次に、人材流出につながる要因は何かを見ていきました。
結果は、副業動機が「本業への不満」である場合と、上司のマネジメント行動が「否定的に変化」した場合に、人材流出リスクが高くなるというものです。
そこで企業が取るべき対応を次のとおり整理したところです。
・「本業に不満を持っている層」の離職も防ぎたいなら、副業を容認しない。
・副業を容認した場合の人材流出リスクを低減するためには、管理職が部下の副業を肯定的に捉えられるようマネジメント教育する。
前者については、今後も続けることは難しいかもしれません。
なぜなら、パーソル調査によると、2018年と2021年の「企業が副業を容認する理由」について、上昇率が高い順に並べると、2位が「優秀な人材の確保(採用活動)のため」+3.5ポイント(13.6⇒16.5)、3位が「優秀な人材の定着(離職率の低下)のため」+3.3ポイント(15.7⇒18.9)となっているためです。
つまり、優秀な人材の確保・定着のためには、副業を容認する必要があるという認識が浸透していくと考えられます。
そのため、今後は副業を容認しつつ、人材流出リスクを低減するためにマネジメント行動を変化させていくことが肝要です。
具体的には、副業に対してアドバイスしたり、評価したりするなどの肯定的な働きかけを行うことと、コミュニケーションを減らしたり、責任のある仕事を任せなくしたりするなどの否定的な態度を避けることが求められます。
マネジメントが複雑する中、これまで副業を経験したことのない管理職の方にとっては、難しく感じるかもしれません。
ただ、数年先を見据えると、この対応ができるか否かが、企業が優秀な人材を確保・定着できるかに大きく関わってくると考えています。
全9回に渡る「副業は人材流出リスクを高めるか」についての解説は、以上になります。