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私の感覚を理解するのは私だけ #5
太宰治『走れメロス』についてだけ #5
まさかこんなに泣くとは自分でも想定していなかった。
むしろ泣く事自体が想定外だった。
周りの人目を気にしてハンカチで顔を覆ったが、その下では止まらない鼻水と激しく戦っていた。
前回、メロスは大谷翔平さんと相成った(もしも劇場により)。
メロスがシラクスの現状を知ったのは、第二町人の老爺からだったというのは皆さまご承知のとおり。
老爺はさぞかし恐ろしかったに違いない。
どこに密告者がいるのか分からない。
もしかしたら隣の家の婦人かもしれないし、向こう側をノロノロ歩いている老婆かもしれない。
誰もを疑ってもよい環境だ。
きっと、理由などなんでもよいのだ。
まるで中世の魔女狩り、ナチス統治下の時代のようだ。
ところで、
メロスは両手で老爺のからだをゆすぶって質問を重ねた。
何度も勝手に言い続けて申し訳ないが、メロスは大谷さんだ。
身長193cm、体重92kgという優れた体格。
これでこそ後ほど濁流をかき分けて、3人の山賊とも戦えるってワケだ。
193cm…身近にそんな立派な身体を備えている人がいないので、想像があまりできない。
ちなみに、一般的なベッドのマットレスの長さが大体約195cmらしい。
頭の中でマットレスを立てて、自分を隣に置いてみよう。
頑丈なマットレスに両肩を掴まれて揺さぶられる老爺が心配になってきた。
穏やかなメロスだってまちの様子の怪しさに気付き必死なはず。
ガクガク揺られる老爺、
頭…
首…
首の付け根…
わ、若者よ…肩に指食い込んどるんじゃが…
揺さぶりが一段と激しくなる
ガクガクガクガク…
わ、分かった。
分かったから止めとくれ、止めとくれ。
ガクガクガクガク…
止めとくれ!!!
さっきから、あなたのすごい揺さぶりで話したくても話出せないんじゃよ!
揺れる老爺の姿が脳裏に浮かぶ。
メロスが自分の力加減を忘れていないといいな…といつもここで思う。
自分がただの羊飼いとは色々と一線を画していることを自身で認識していてほしい。(普通の羊飼いを詳しくは知らないが)
老爺よ、ほらさっさと話してしまうのだ。
メロスの揺さぶりにあなたの首は勝ち目はない。
さあ、あたりをはばかる低声で伝えよう。
王の、残虐さを。